【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

22. 最初の選択(彰宏side⑨)

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  こいつ、馬鹿か?
  俺は内心で悪態を吐いた。声には出さない。あくまでも冷静に…だ。

「何故?」
「え…?」
「どうして俺が君のお兄さんを嫁にしなければならない?」
「え…それは…番にしたから…」

  明らかに動揺しているのが見て取れた。 
  自分の提案に余程自信があったらしい。隣に座る父親は「馬鹿な事を…」と呟いているが。

「俺は言った筈だが? 愛するつがいがいる、と。何故俺が、愛し合って番になった大切な妻と別れてまで、強制的に発情ラットを誘発されて番契約を結ばされた君の兄を妻にしなければならない? 君の兄とはあの日に初めて会ったのに? まともな会話どころか、自己紹介すらしていないのに?」
「そ…それ…は……」

  絶えず問われ、反論する余地がないらしい。
  が後継者で大丈夫だろうか。

「俺は妻を愛している。別れるつもりはない」
「そ…そんな無責任…」
「無責任? 君こそ、何も解っていない様だな。何度も言うが、君の兄のした事はだ」
「……………」
「だが、俺にも全く非がないとはいえない。フェロモンに抗えず番にしてしまった時点でな」
「! そっ…そうだ! だから責任…」

  バンっ…!

  俺はテーブルを叩いた。

「っ…!」

  驚いたのは圭斗くんだけ。父達は平然としている。流石はα。圭斗くんもαだと聞いたが、彼が後継者で本当に大丈夫だろうか。俺には関係ないが。

「だったら君も体験してみるといい。確かに君の言う通り、誘発剤の使用も合意なら罪にはならない。合意の上で、俺がお膳立てしてやろうか。に抗えるものなら試してみるといい」

  脅しをかけてみる。先に脅迫したのは彼だからな。

「……………」

  何も言えないらしい。

「いい加減にしてくれないか。こちらは、君の兄を警察に突き出しても構わないんだが?」
「…!」
「αである以上、俺も無傷という訳にはいかないが、そちら程ではないだろう。だが、俺はそれをしたくはない。自分の保身の為でも君の兄の為でもない。妻を護る為だ。それと、父を。俺が一人息子で後継者である以上、父と会社に余波が及ぶ事は避けたい。
  だからこその話し合いの場なのだがな。話し合いをする気のない君が、何故此処にいる? 君が此処にいなければならない理由は何だ?」
「……………」
「彰宏、それくらいにしておきなさい」

  そう言ったのは俺の父だった。

「申し訳ございません! 愚息には説明したのですが理解出来ていなかったようで…。すぐ…すぐ帰らせますので…」

  言いながら頭を下げたのは圭斗くんの父。
  本人は頭を下げる父親を、信じられないものを見る様な目で見てるけどな。信じられないのは君だよ。

「いや、息子さんは話し合いが終わるまで隣の部屋に居てもらおう。此処は我が社だ。一人で帰らせて、途中で偽りの悪評を流されては困る」

  父はそう言うと、内線で秘書と警備の者を呼び、圭斗くんを隣室に連れて行くよう指示。抵抗しようとした彼だが、父親が睨めば大人しく退室して行った。
  ようやく静かになったところで、俺は改めて口を開いた。

「祐斗くんの生活の面倒は俺が見ようと思います」

  俺が出した結論だった。

「え…」

  まさかの提案に瞠目する祐斗くんの父。

「勘違いしないで下さい。圭斗くんにも言った通り、妻と別れる気はありません。言い方は悪いですが、愛人として囲う…という事です」
「愛人…ですか…」

  実際、Ωを愛人として囲うαは多い。世間体を気にしてか正妻にはαかβを据え、αの本能を満たす為に本来なら対となる筈のΩを囲うのだ。そこにがあるかどうかは人それぞれ。また、俺には理解し難い事だが、αは何人でも番に出来る為、妻がΩであっても複数のΩを囲うαもいる。Ωには生き難い世の中。裕福なαの愛人になれば先の生活が保障される為、自ら望んで身を差し出すΩがいるのもまた、事実である。

  出勤してから社長室に来るまでの間、仕事をしながら頭の隅で考えていた。琳と別れるなど微塵も考えていないが、嵌められたとはいえ、番にした相手を捨てるなど、自分が一番嫌っていた行いではないか…と。
  結局、自分で面倒を見るしかないのか…。望まない番契約を結ばされた相手を。他に方法は無いのかと模索しながら臨んだ話し合い。相手の父親はΩ療養施設に入れると言うが、その場所がどんな場所か知っているだけに、信じられなかった。罪を犯したとはいえ、そんな所に我が子を入れる。事実上の絶縁。何故なら、αは家族であっても面会出来ないから。入院費は支払わなければならないが、二度と会う事はない。弟は反対していたが、親がそうすると決めたら彼に抗う権利はない。
  そして俺は……。
  
  同情…だったのかも知れない。自分を嵌めたΩなのに、親に見放されるのか…と思ったら…。
  俺はあのΩが赦せない。それでも彼は俺のだ。赦せなくても、愛する事はなくても、このまま見捨てる事は出来なかった。
  だから、条件付きの契約を交わして彼…祐斗くんを愛人として生活の面倒を見る事にした。それには当然、も含まれている。
  俺は心の中で琳に何度も謝った。苦渋の決断に、胸が痛かった。

  父の了承を得て、契約内容を決め、双方納得の上で契約書を交わす。同じものを3枚作り、俺と父、そして祐斗くんの父親が1部ずつ保管することになった。後は祐斗くんの意思確認をするだけ。祐斗くんの父親に、彼に契約書を見せて了承の有無を確認してもらい、改めて連絡をもらう事になった。了承なら、住居が見つかり次第、俺自ら祐斗くんを迎えに行き、拒否ならば、Ω療養施設に入ってもらう事になる。
  一旦持ち帰りとなり、祐斗くんの父親は隣の部屋で待たされていた圭斗くんを回収して帰った。

「これで良かったのか?」

  2人だけになった部屋で父が問う。

「…分からない。でも、他に考えられなかった。に入れると言われたら…」
「…そうか」

  それ以上、父は何も言わなかった。

  

  この時の決断により、琳を深く傷付け、一生掛けても償えない程の『罪』を抱える事になるとは、この時の俺は、考えていなかったー。

  翌日、早速祐斗くんの父親から俺に直接連絡があり、「よろしくお願いします」と祐斗くんの意思を告げられたのだったー。

  播磨 祐斗はりま ゆうと、25歳。
  それが、俺の2人目のー。

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