【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

23. 夫の出張

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「出張…ですか…」

  その日の夕方、珍しく定時に仕事が終わり一緒に帰って来た彰宏さんが、夕食の席で言った。

「3日…いや、4日ほど」
「…4日…」

  結婚して1年と少し。彰宏さんが出張で何日も留守にするのは初めての事だった。
  彰宏さんは高槻たかつきカンパニーの専務取締役だ。彼の仕事は僕なんかよりずっと激務だし、出張だってこれまでに何回もあったけれど、何日も留守にする事はも無かった。日帰りか、一泊二日だった。

『いつ突発性の発情ヒートが来るか判らないし、何より、琳を長い間1人にしておきたくないからね。俺も寂しいし…』

  以前、彰宏さん自身がそう言っていた。
  僕は素直に喜んだ。僕も同じ気持ちだったから。愛する番の長期不在に不安になるΩは多くて、その不安が番を求めて周期外のヒートを誘発する可能性がある事は、Ω研究で確立されていた。だから、番のαは申請さえすれば長期の出張や単身赴任を免除してもらえる。
  
  でも、今になってどうして長期出張…。
  結婚1年。もう大丈夫だとでも思ったのだろうか。
  そんな事は全然、無いのに……。
  でも、重要なポストに就いていて忙しい立場にいる夫に、「行かないで」などと我儘は言えない。なのだから。ここは素直に頷いて送り出すのがつまの役目…。

「分かり…ました。じゃあ準備を…」

  三泊するのなら、流石にいつもの様に少ない荷物というわけにはいかないと思って申し出れば、

「大丈夫。自分で出来るから」

と、素気すげなく断られ、退くしかなかった。

  その夜は、一緒に寝室に入った瞬間、背後から抱き締められ「琳を抱きたい」とストレートに求められた。
  僕はすぐに頷く事が出来なかった。
  2週間前の、突発性の発情の時に酷く抱かれてから今日まで、彰宏さんから求められる事はなかったから、この2週間は一度も抱き合う事は無かった。彼が嫌がる僕を無理矢理暴いた事を後悔しているのは知っていたけれど、僕だってあの時は怖かったし、互いにの事は口にしないまま、今日まで来てしまったんだ。
  なのに、どうして今…。
  そう思いながらも、僕は「はい」と小さく頷いた。
  優しく抱かれながら、行為が終わり眠りに就くまで、一度脳裏に過った言い知れぬ不安だけは、頭の片隅から消える事はなかったー。

  翌朝。
  自宅から直で出張先に向かうんだと思っていたけれど、会社に寄ってから行くという彰宏さんと一緒に出勤した僕は、駐車場で車から降りる前に「行ってらっしゃい、気を付けて」と言葉をかけ、彰宏さんは「行ってきます」と言って僕にキスをした。
  
  この時、彰宏さんは何を考えていたんだろう…。
  僕の次の発情期は、周期がズレなければ4だった。彼も知っている筈だった。

  

  4日後ー。
  この日から1週間、僕は発情期休暇を取って家にいた。まだ本格的な発情症状は出ていない。けれど、長年の感覚的に発情期なのは間違いない。初日だから、少し熱いくらいだけれど。
  この4日間、出張先からの連絡は無い。本当に今日帰って来るのかも判らない。いくらなんでも帰宅予定が変更になれば連絡がある筈だから今日帰って来ると思うけれど、実際にはどうだろう? 一度も連絡が無かった事が僕を不安にさせた。不安なら自分から連絡してみればいいのだけれど、それはしていけない様な気がした。 
  だから、僕はただ待つしかない。
  そして…。

  夜8時を過ぎた頃、彰宏さんは帰宅した。
  玄関までお出迎えする僕。

「お帰りなさい。出張、お疲れ様でした」
「ただいま。変わった事は無かった?」
「はい。会社への送迎は専属のタクシーを使いました」
「そうか。今日から発情期だったね。具合はどう? ちゃんと俺も休暇をもらってきたから、一緒に過ごそう」  
「…はい」

  玄関先で言葉を交わす。何気ない会話だ。けれど、僕に生じた小さな違和感。いつもの彰宏さんは、僕より後に帰宅した時に僕が出迎えると、必ず真っ先にハグをするけれど、今日はそれが無い。4日も離れていたのに…。でも、自分から「ハグは?」と言える筈もなくて…。
  
  廊下に上がった彰宏さんが僕の前を通り過ぎる時、空気が動いたからだろう。ふわりとがした。
  それは覚えのあるだったー。
  
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