【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

27. 偽りの日常

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  やっぱり僕は今回もの手を振り払う。

  貴方は僕が拒絶する意味に気付いてる?
  ねえ、出張だなんて僕に嘘を吐いて、あの人の発情期を一緒に過ごしたんでしょう? 凄いよね。僕の発情期の直前だなんて。どれくらいの確率?
  多分ね、Ωの僕は拒絶してないよ? 発情中はね、ずっとα貴方が欲しいって番を求めてるんだ。他のΩのフェロモンの匂いなんか軽く凌駕するくらい。自分のフェロモンで上書きしたいくらい求めてる。
  貴方と触れ合うのを拒んでいるのは、の僕。どんな理由があるにせよ、の僕からしてみれば、貴方のしている事は浮気に過ぎないんだ。他の人を抱いて、その匂いをさせた貴方に抱かれるなんて耐えられない。夫を他人と共有するなんて有り得ない。
  発情期が来る度に、僕の心も体も悲鳴を上げる。Ωの自分との自分の間で揺れながら…。

  彰宏さん、僕が拒絶すると貴方は辛そうな…傷付いた様な顔をするけれど、僕が悪いの? きっとαの貴方からしたら、番なのに番のαを拒む僕のほうが信じられないのだろうね。
  貴方にとっての僕がΩでしかなくても、僕は貴方のでいたいよ。だって貴方は僕にとって、αである前に夫だもの。
  こんな風に考える僕がおかしいの?

  発情期じゃない時は、彰宏さんは普通に僕を抱く。その時の僕達は夫夫ふうふだ。夫からのお誘いだから、僕はもちろん受け入れる。平時のΩは発情期の時ほど後ろは濡れないから、時間をかけて丁寧に開いてくれる。全身を舐め回すキスも、撫で回す愛撫も、長い指やおちんちんで胎内なかを擦られるのも、全部気持ちいい。お互いの名前を何度も呼んで、何度も愛を伝え合って…。発情期の時よりもずっと、僕は普段のセックスのほうが好きだった。
  性欲に支配された発情期は、αとΩの本能が強くて、ただひたすらに快感だけを追い求めるだけ。抑制剤で理性を完全に飛ばす事はないけれど、心よりも体がαを…そしてΩを欲して…。こんな言い方をしたら身も蓋もないけれど、そこには愛なんて無くても、αとΩであればいいのだとさえ思う。
  
  

  彰宏さんは変わらず何も言わない。
  僕が拒絶した発情期を3回越えても何も言わない。
  に僕に接してくる彼に、僕もに応える。表面上は何も変わらない僕達。互いに互いの出方を探りながら、目を逸らしている。
  だけど、僕がその時から、事もある。
  
  夜ベッドに入ると、彰宏さんが僕に手を伸ばす。『セックスしよう』の合図。僕が彰宏さんに身を寄せるのがOKのサイン。匂いはしない。
  顔を寄せてキスを交わす。彰宏さんは僕を抱きながら何度も僕の名前を呼んで、何度も「愛してる」と言う。前は僕もそうだった。けれど、今は与えられる快感にただ喘ぎ声を洩らすだけで、夫の名前は呼ばない。愛も囁かない。だって虚しいもの。夫が本当に呼びたいのは僕の名前なのか、本当に愛を囁きたいのは僕なのか…。一度抱いた疑心は消えない。夫が囁く愛ですら、僕の心には虚しく響くだけ。
  終われば、僕は夫に背を向けて眠る。抱き合って余韻に浸る事も、甘い言葉ピロートークを交わす事もない。背後から視線を感じるけれど、気付かないフリで寝たフリをしている内に、本当の眠りに堕ちる。心も体も疲れた僕は、朝起こされるまで深く眠る。
  朝起こされて起きると、裸で寝た筈の僕は、いつもパジャマを着ていた。全身に付いていた筈の体液も綺麗に落とされ、さっぱりしていた。
  起きた僕は、軽くシャワーを浴びて身支度をしてから、朝の食卓に着く。結婚当時から変わらず彰宏さんが用意してくれた朝食を食べてから、一緒に出勤する。

  こうして今日もの日常を繰り返す。それぞれに胸に抱えたものを吐き出さないまま、偽りの日々を…。

  次の発情期、彰宏さんが帰宅したのは、4だったー。

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