【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

文字の大きさ
43 / 108
《本編》

43. 罪と絶望(彰宏side(18)

しおりを挟む

「離婚してください」

  琳にそう告げられたのは、俺が忘れていた3回目の結婚記念日から2ヶ月余りが経った頃ー。

  金曜日。夕食後に「話があります」と言った琳がテーブルに置いた1枚の紙。それは、琳の書く欄が埋められた『離婚届』だった。と同時に告げられた

「ど…どうして……」

  あまりの衝撃にそう言うのが精一杯の俺に、琳は更に告げる。

「2日前、お義母様が訪ねていらっしゃいました」
「………。は…?」

  一瞬、何を言われたのか判らなかった。が、琳は『母が来た』と言ったのだと直ぐに理解し、悩むまでもなくだと思い至る。琳の両親はアメリカにいる筈だから。
  でも、どうして此処が…。此処は父しか知らない。琳の両親や兄姉でさえ知らないのに…。俺の困惑を余所に続く、琳からの衝撃的な言葉の投下。

「お義母様、祐斗さんを連れて来られて…」
「………。は…!?」

  母さんが祐斗を連れて? は? どうして母さんが祐斗の存在を知ってるんだ? 母さんには言わない事を父さんと決めたのだから、父さんが話す訳がない。じゃあ、どうやって知った? 自分で調べた…? そもそも、どうして祐斗を連れて此処に…?

「宏斗くん、可愛いですね」
「なっ…!!」

  宏斗も連れて来たのか!
  そして琳の口から明かされる、という事実。
  番のΩは、自分のαの周りの自分以外のΩの存在には敏感だ。琳もきっと気付くだろう、と父さんは言っていた。俺も祐斗の存在自体は気付かれているだろうとは思っていたけれど…。
  出張だと嘘を吐いて発情期の祐斗と過ごしていた事までバレていたなんて…。
  琳は知っていて、それでも俺を責めず、変わりゆく変化を淡々と受け入れていたのか。たった独りで…。自分の心身が削られていくのを感じながら…。そして俺は、あと少し…次こそは…と何度も言い訳を重ね、琳を蔑ろにしていたのか…。番の俺に放置されたΩの琳が、心身共に疲弊していくのを知りながら……。

  言わなければ…と思いながら後回しにしてきた結果が離婚これだ。で琳に知られる前に自分から話していれば…と後悔しても遅い事は解っている。けれど、俺は『あの日』から現在いままでの経緯いきさつを洗い浚い、琳に話した。言い訳にしかならないのだとしても…。

  それでも、琳の離婚の意思は覆らなかった。
  『嘘つき!』と初めて俺を罵倒し、溜まりに溜まった不安と不満、そして寂しさや辛さ、痛みを吐き出す琳の姿に、俺は胸が押し潰されそうだった。そこまで…それ程までに琳を追い詰めた自分自身に吐き気がした。
  ただ、再度離婚を要求されても、俺は頷けなかった。
  俺にとはっきり告げ、番契約を理由に「此処を出てどうする」と逆に問い詰めた。自分でも、最低だという事は解っていたが、縋るものが無かった。紙一枚にサインすれば夫夫ふうふ関係は終わるが、番契約は体に深く刻み込まれ、離れても決して切れる事はない。どちらかが死なない限り。αからなら解除出来るが、俺は解除するつもりはない。琳は一生、俺の番だ。散々放置しておいて、今更だとは思う。番の務めを果たしていなかったのは俺だ。琳はきっと、に見切りを付けたんだろう。解ってる。解ってるけれど、手放してやれない。愛してるから。ごめん。
  琳は「僕に籠の鳥でいろと?」と返してきた。そんなつもりはない。そんなつもりはなかった。琳には自分の思うままに過ごしてほしいと、ずっと思っていた。でも、仕事を辞めてからの彼は家に籠もっている。俺のせいで…。

  俺が頑なに離婚を拒めば、最後の手段とばかりに『宏斗』の事を持ち出す琳。宏斗がいるのだから祐斗と結婚したほうが良いと言う。琳と離婚わかれて。冗談じゃない。祐斗との結婚など考えたくもない。宏斗が出来た経緯と、祐斗と結婚はしないが養育費は払うから問題ないと言えば、『無責任』だと返される。無責任だと言われても構わない。琳と離れるくらいならば、迷わず祐斗と宏斗を捨てる。屑だと言われようとも。
  
「宏斗くんは高槻のです」
  
  琳が言った。

「子供がいない貴方が身を引くべきでしょう?」

  続く琳の言葉。だが、それが彼の言葉ではないのは判った。  に言われた言葉だと。

「Ωなのに3年経っても子供が出来ないのは、貴方の体に問題がある」

  が言ったのか!
  自分の母親であるに、本気で殺意が沸いた。
  
  自分が言われた言葉を敢えて口にした琳は泣いていた。
  辛かっただろう。苦しかっただろう。
  琳の頬を流れる涙を拭おうと手を伸ばせば、「触らないで!」と拒絶された。
  琳が涙を流しながら叫んだ言葉で、琳が俺との子供との未来を夢見ていた事を知る。俺との子供が欲しかった、と。
  だから俺は琳を宥める様に「子供を作ろう」と言った。が、それが更に琳の逆鱗に触れてしまう。
「馬鹿にしないで!」と、「貴方の唯一になれない!」と、「自分以外が産んだ貴方の子供を抱いたじゃないか!」と、そして、「今更、貴方の子供なんか要らない! 産みたくない!」と…。
  
  馬鹿になんかしてない。馬鹿はだ。
  君が俺のだよ。俺が見つけた愛しい唯一の『番』は琳、きみだ。だよ。
  そして、が俺の一番だよ。俺と君との子供だけが俺の……。
  だから、なんて言わないで。
  作ろう。俺達の子供……。

  この時の俺の胸に沸き起こったのは、愛する琳との子供が欲しいという願いと、俺との子供は要らない…と拒否された事への怒りー。
  俺には、願う権利も怒る資格すら無いというのに……。

  自業自得とはいえ、俺自身も相当追い詰められていたのだろう。不意に、…そんな思いが頭に響いた。子供がいれば琳は離れていかない、と。
  αが囁いたー。

  どれくらい経ったのだろうか。
  我に返った俺の目に最初に映ったのは、ベッドの上で全裸で横たわり、寝て…いや、気を失っている琳の姿。その細い肢体は、数多の鬱血痕と体液に塗れていた……。

  自分が犯したに覚えたのは、絶望ー。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

処理中です...