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《本編》
64. 祐斗の《罪》(彰宏side(26)
しおりを挟む瑠偉さんに指定された場所に祐斗と宏斗を連れて向かえば、そこは市街地から離れた高台にある『公園』。
待ち合わせの公園の入り口で瑠偉さんと合流した。俺と瑠偉さんは挨拶を交わしたが、瑠偉さんは俺の一歩後ろに立つ祐斗とベビーカーの中の宏斗を一瞥しただけで、「付いて来い」と言って歩き出した。その背を俺達は付いて行く。
公園の中を歩きながら周りを見渡せば、広い敷地内に遊具は少なく、どちらかといえば広場に近い。平日だからか、人影は疎らだ。
でも、どうして外なのか。
今回も何処かの店の一室を借りるのだろうと思っていた俺は、場所を聞いた時、疑問に思った。
理由は幾つか推測出来た。2人きりではないとはいえ祐斗がΩゆえに密室を避けたか、少なからず他人の目がある場所のほうが冷静に話せると思ったのか。元より長く話すつもりはなく、短時間で言いたいことだけを簡潔に話すつもりだったからか。或いはその全部か…。それとも、別の何かがあるのか…。彼の真意は解らないが、導かれるままに付いて歩いていると、
「此処は、琳が子供の頃に、家族でよく遊びに来た場所なんだよ」
前を歩く瑠偉さんが、前を向いたままで呟いた。
……………。
そうか…。此処は琳と家族の『思い出』が詰まった大切な場所なのか……。
何故この場所なのかが、解った気がした。
公園の片隅に建つ東屋。
瑠偉さんと祐斗が向かい合って座っている所から少し離れた所に、俺はベビーカーから下ろした宏斗を抱いて座っていた。
十分声の届く距離だ。祐斗にどこまで話したかは瑠偉さんには予め伝えてある。それを踏まえた上で、瑠偉さんがどんな辛辣な言葉を祐斗に言い放っても、俺が助け舟を出す事はない。俺はあくまでも付き添いであり、見届けるだけだ。
「名前は?」
それぞれに座ってから少しの沈黙の後、瑠偉さんが祐斗に訊いた。彼は祐斗の名前を知っている筈だが、本人に名乗らせる事に意味があるのだろう。
「…播磨祐斗…です…」
震える声で答える祐斗。
瑠偉さんはαの威圧は放っていないが、Ωにとってのαは、時にその存在だけで恐怖の対象になる事がある。特に祐斗は自分の罪を自覚しており、その身に静かな怒りを纏っているαと一対一で向き合っているのだから尚更だろう。
「俺は君が…否、お前が憎い」
「……………」
「!!!」
瑠偉さんの率直な言葉に祐斗は俯き、そして俺は、とても初対面の相手に向けたものとは思えないくらい怒りを称えた瑠偉さんの顔を見て、自分が睨まれている訳でもないのに、背筋を冷たい汗が流れ、宏斗を抱く腕につい力が入った。それでも瑠偉さんから威圧は感じられない。怒りながらも理性で抑えられる彼に、αとしての格の違いを感じた。
「お前は自分の最初の罪を理解しているか?」
「…はい…」
「ふっ…。笑わせるな。他人の人生をメチャクチャにしておいてよく言う…」
やはり瑠偉さんは短時間で済ませようとしている。きっと祐斗には、言い訳をする隙さえ与えられない。
「本来、彰宏が責任を取る必要など無かった。フェロモンレイプは犯罪だ。発情促進剤を飲んだのがΩでも、αからすれば媚薬を盛られたも同然だ。事前にα用抑制剤を飲んでいないαが抗える訳がない。そんな状態で結ばされた番契約などに、何故責任を取らなければならない? Ωの…お前の自業自得だろう?」
「……………」
「お前が、罪を犯しておきながら人並の生活を送っていられるのは、番にしてしまったから…という彰宏の情だと、何故解らない? 彰宏は被害者だというのに」
「……………」
「『愛人契約書』を読ませてもらった。この2年の事も全て聞いた。お前は幾つ、罪を重ねた?
後からとはいえ、お前は彰宏が既婚者だと知った筈だ。伴侶が番である事も。そして、2人が愛し合う夫夫だという事もな。そしてお前は理解した筈だ。自分が愛される事は無いのだ、と。当たり前だろう? 自分が望んだ訳でもない番を、何故、愛せると思う? 無理やり番わせておいて、その相手から愛されると思うんだ?」
「……………」
「契約は初めから破綻していた事を知ってるか? 契約には『全てに於いて夫を優先する』と書かれていた。だが、彰宏はお前を優先した。一度ならまだいい。引き返せる。現に彰宏は、そうしようとした。何度もな。なのに、その度にお前が邪魔をしたんだ」
「…ぼ…僕は……」
「言い訳は要らない」
「……………」
ピシャリと言われて祐斗が開きかけた口を噤む。
やはり、言い訳は許さないようだ。
「お前は彰宏の情を利用した。彰宏だって悪い。さっさと見限ればいいものを、非情になれない甘さがお前を調子づかせた。自宅には毎日帰っていたらしいから、琳を蔑ろにしている自覚は薄かったんだろう」
「…っ…!。……………」
瑠偉さんの言葉が、俺の胸にもグサグサと突き刺さる。
「それでも、だ。さっきお前は自分の罪を理解していると言ったが、真に理解していたのなら、そもそもこんな事にはなってないんだよ」
言い訳する事すら許されず、何も言えずに俯いた祐斗の肩が微かに揺れたのを、俺はただ見ていたー。
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