【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

文字の大きさ
73 / 108
《本編》

挿話①.彰宏の父side

しおりを挟む

  一人息子・彰宏の『離婚話』の裏で、私は私のすべき事を進めていた。


  息子のつまの琳くんが入院し、久方振りに訪ねて来た息子から聞かされた話に、目眩を覚えた。
  息子の嫁を毛嫌いする、Ω性で過剰な性格の妻を刺激しないように、息子夫夫ふうふの生活の妨げになる事のないように距離を置いていた事が、仇となったとしか言いようがない。息子達がになっているとは思わなかったのだ。
  息子は自分の行動や選択が招いた結果だと理解はしていたが、私に対しても思う所があるのだろう。何故なら、私の代わりに夫夫ふうふで参加してみてはどうか…と勧めたパーティーが『全ての発端』だったのだから。決して強制ではなかったし、参加を決めたのは息子達だが、それでも『あの日』がなければ…と思っている事だろう。私も後悔している。

  

  息子が母親を
  私の妻はとうに息子にとっては、母ではなく『嫌いな人間』の1人になっていたが、それでも一応は母。自分達夫夫ふうふの生活の邪魔さえしなければそれでいいと言っていた。だから私も、息子達の家の場所は妻に教えていなかった。
  しかし…。
  まさか探偵を雇ってまで息子達の自宅を探したばかりか、愛人の所在まで突き止め、更にはその愛人と密かに生まれていた子供を連れて琳くんに接触するとは思わなかった。息子は十分に自分の罪を理解していたが、母親の暴走がになった事は最早否定出来るものではなく、母は嫌いな人間から『ゴミ以下』になっていた。

  私も妻を見限る事に迷いはなかった。
  かつて、両親を亡くした幼い私と弟を育ててくれた祖父母。一代で財を築き上げた厳格な祖父の決定に逆らえずに政略結婚でΩ性の妻を娶った。嫉妬深く、お嬢様育ちの所為か我儘な妻の性格には早々に気付いたが、妻にしたからには大切にしようと番にした妻。嫉妬深さも我儘も私に向けられるだけなら問題はなかったが、やがて息子にも向くと、私は再三妻に。「彰宏の幸せの邪魔をするな。度を越すようなら離婚する」と。
  妻は変わらなかった。息子は母を。だから、私も見限る事にする。
  ただ、離婚はしない。遠く離れた、高齢のΩや精神に不安を抱えるΩの為の療養施設に入れる事にした。離婚して実家に帰っても、家を継いだ妻の弟は実の姉を蛇蝎の如く嫌っており、出戻って来た姉を決して家には入れないだろう。行き場の無い妻はきっと息子を頼る。それだけは許せない。
  そうして考えた結果、施設に入れ、掛かる費用は全て私が用意するという結論に至った。へのとして。離婚はしない為、彼女は法律上は妻だが、気持ちの上では妻ではなくなっていた女への…。
  
  密かに進めていた準備と手続きを終え、決行の朝ー。
  妻には行き先は告げず、ドライブを装って妻を連れ出した。息子が生まれてからは2人で出掛けた事はなく、息子が中学に入ってからは家族3人ですら出掛けた事はなかったからか、「久し振りのデートね」と言って嬉しそうに着飾る妻の姿を見ても、最早、何の感情も湧いてこなかった。
  そして偽りのドライブに出掛け…。
  道中、悟られないように様々な場所に立ち寄り、年甲斐もなく妻を見つめ、目的地に近くなった頃、私は飲み物に睡眠薬を混ぜて妻を強制的に眠らせた。それは預ける施設からの指示だった。施設に入れられると解ると激しく抵抗する患者が多い為、無理やり拘束して怪我をさせないよう、合法として認められているという。
  施設に到着して施設職員に妻を預ける時も、妻はぐっすり眠っていた。数人の職員が、慣れた手付きで妻を建物の中に運んでいく様子を、無言で見ていた。目を覚ました妻は、自分の居る場所を理解した瞬間に暴れるだろうが、職員達はそれこそ慣れた手付きで対処するだろう。
  私は振り返る事なく、施設を後にした。
  妻だった女とは二度と会う事はない。胸に去来した思いは唯一つ、『安堵』だった。

  帰宅後、取り敢えずの報告として息子にを施設に入れた事を告げれば、「そうか…」とだけ返ってきた。その声音には何の感情も込もっておらず、何故もっと早くに…と責められているような気がしたー。

  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

処理中です...