【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

74. 愛されたかった僕の人生②(瑠偉side)

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  彰宏に連絡しようと思っていたところ、タイミングよく彰宏から先に連絡が来た。会って話したい事がある、という。俺も彰宏にがあったから夜に会う約束をした。

  夜、約束の時間より10分早く長峰家を訪れた彰宏は、

「ご無沙汰しています」

と、出迎えた俺に頭を下げた。

「ああ」
   
と返した俺は、彼を応接室へと案内した。

  俺が彰宏に会うのは実に2年振りになる。2年と少し前、琳と彰宏がをしたあの日から、一度も会っていなかった。一度だけ、散々迷った末に、琳が沖縄に移住した事を伝える為に電話はしたが…。
  ただ、彰宏の父親が社長を務め、彰宏自身も専務の役職で働いていた『高槻カンパニー』の社長が代わった事は、同じIT企業繋がりで知っていた。現社長は彰宏の父親の弟らしい。父親が社長職を退いたのなら、恐らくは彰宏も辞職したのだろうと思う。現在いまどんな生活をしているのかは知らないが、俺から訊くつもりはない。彰宏のほうから話せば聞くが。

「先にお前の話を聞こう」

  俺は先に話すように彰宏を促した。

「祐斗を『Ω療養施設』に入れました」
「………。は…?」

  俺は思わず間の抜けた声を上げた。

「本当は言おうかどうか迷ったんです。こんな事報告されても迷惑なだけかも知れない、と。でも、約束…守れませんでしたから…」
「? 約束?」
「宏斗を大切に育てるという約束です」
「……………。あー…」

  そう言えば、したな。そんな約束。実際には他人の俺にそんな事を約束させる権利はないんだけどな。何ていうか、あの時は…なぁ…。

「理由を訊いても…?」
性欲減退とED勃起不全です」
「………。は…?」

  本日二度目の間抜けな声が出た。これが日常会話の中での言葉なら冗談と捉えたかも知れないが、流石に今は冗談ではない事くらい解る。解るが…。反応に困っている俺を見据えたまま、 彰宏は続けた。

「宏斗が1歳を過ぎた頃、祐斗の発情期が再開したんですが、発情期ヒートの祐斗を前にしても、心も体も反応しなかったんです。敢えてα用の抑制剤を飲んでいなくても同じでした。Ωフェロモンの匂いは分かるのに、んです。祐斗にどんなに懇願されてもダメでした」
「病院は?」
「行きました。精神的なものだろう、と言われてカウンセリングにも通ってみましたが…。
  多分、俺はもうなんです。だって俺自身が、と思っていますから。精神的なものなら、そう思っている時点でと覚りました。
  ただ、俺はそれでいいと思っていても、祐斗は…。俺は抱けない…どころか、Ωに…祐斗に触れる事さえ体が拒否するようになっていたので、発情期は祐斗を1人にしました。一緒にいるほうが辛いと思いますから。
  そして、祐斗は精神を病みました。泣きながら琳に謝るんです。自分がに追い詰められた事で気付いたんだと、発情期が終わって意識がはっきりしている時に言いました。今更だとは思います。
  それからは父も交えて話し合い、最終的には祐斗自身が自分で施設に入る事を決めました。1ヶ月ほど前の事です」
「……………」

  恐らく彰宏のは、琳への『愛』と『罪悪感』が原因ではないだろうか…と俺は思った。祐斗は自身が同じ状態に追い込まれた事で、琳の苦しみを知ったか…。
  どちらも、本っ当に!今更だがな。

「…すみません…。こんな事を報告されても、ご迷惑でしたね…」
「いや…。そんな事はないが。じゃあ、今、宏斗は誰が見てるんだ? まさか、1人にしてきた訳じゃないんだろう?」
「父が見てくれてます。ご存じかと思いますが、父は会社を辞めました。母は遠くの施設に入れたそうです。祐斗を施設に入れた後から、父と宏斗と3人で暮らしています。俺は外に働きに出て、昼間は在宅の仕事をしながら父が宏斗の世話をしてくれてます」
「それなら、良いじゃないか」
「…え…?」
「俺が宏斗をしっかり育てろと言ったのは、それが琳の願いだったからだ。宏斗に罪はないからな。2年経てば状況や環境が変わる事もあるだろう。現在いま宏斗が健やかに育っているのなら、それでいい」
「あ…ありがとうございます」

  座ったまま、彰宏は頭を下げた。

「次は俺の番だな」

  俺が言うと、下げていた頭を上げた彰宏が居住まいを正した。

「琳の発情期が再開した」
「………。…え…?」

  今度は彰宏が小さく声を上げた。
  

  琳の沖縄移住から2年、それは突然の連絡だった。
  ゆったりとした時間が流れる沖縄の地で、琳は心穏やかに過ごしていた。大きく体調を崩す事もなく、琳の体の許容範囲内でだが、よく食べ、よく眠り、ノアの相手をしながら適度に体を動かす理想的な生活スタイル。予兆らしきものは無かったという。
  何の前触れもなく倒れ、発見したノエルにより病院に運び込まれた琳。検査の結果、Ωのフェロモンの数値が高く『発情状態』だと診断された。番持ちの琳はαを誘惑する事はないが、琳の体力を考えてΩ病棟に入院する事になった為、Ωのノエルが毎日病院に通い、琳の介抱をしてくれたらしい。

「発情期は大なり小なりΩの体に負担を掛けるから、再開はしてほしくなかったんだがな。皮肉な事に、安定した穏やかな生活が、琳の発情を促したらしい。
  で、ここからがだ。」

  彰宏が息を飲んでから頷いた。
  そして俺は。 

「お前の普段着、よく身に着けているもの、何でも良い。密閉袋にいれて俺に預けてほしい。琳に届ける」
「え……。そ…それは……」

  戸惑う彰宏を見据えながら、俺は続けた。

  琳入院の一報に、何とか仕事の都合をつけて数日後、俺は沖縄へ飛んだ。俺が到着した時には既に発情期は終わっていたが、大事をとってまだ琳は入院していた。引き続き、琳の世話はノエルに任せ、担当医師に琳の状態の説明を求めた。

  医師いわくー。
  一度再開した発情期は今後、定期的にしろ不規則にしろ来る可能性が高い事。今回は効果の弱い抑制剤と鎮静剤の投与でやり過ごしたが、現在いまの琳には弱い抑制剤の使用でさえあまり勧められない事。可能ならば、番のαの私物…特にαフェロモンの匂いが染み付いた衣服、日常的に身に着けているものを与える事が現在いま出来得る最善だと言われた事。
  そしてー。

「番のα本人には会わせないほうがいいそうだ」
「っ…!」
「お前は抑制剤を飲んで傍にいるだけでも…と言い出しそうだから、先に言っておく。今の琳は性行為に耐えられないとの判断だ。だが、発情期には只管ひたすら番のαを求める琳がお前に会ったらどうなる? 抑制剤が使えないんだ。縋る琳をただ見守る事がお前に出来るか? 琳にしたって余計に苦しむ事になる。更に負担を強いて、確実に寿命を縮めるだろう」
「……………」
「彰宏、前にも言ったが、俺がお前に琳とのを求めなかったのは、琳の心身に負担が掛かるからだ。琳言っていたように、番としての関係はとうに破綻している。言い方は悪いが、琳が日々を穏やかに、1日でも長く生きられるように、お前の番としての存在はだ」
「……………。分かり…ました…」

  彰宏は傷付いた顔をしながらも、自分にはそんな資格すら無い事を理解したのだろう。ややあってから、静かに頷いた。

  

  琳の発情期は以前の様に約3ヶ月の一度の頻度で来るようになり、俺はその度に彰宏から私物を預かり琳に届けた。
  それが1年ほど続きー。

  

  ある日、華英から再びの突然の連絡があった。

『琳が昏睡状態になったの…』

とー。
  泣きながら話す華英に「直ぐに向かう」と言った俺に、華英はを告げた。判断は俺に任せる、と。

  翌日、俺は沖縄行きの飛行機に飛び乗った。
  ー。

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