【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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If… 《運命の番》エンド ルート

83. 出逢えた奇跡に……

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〈ノエルside〉

「……………」

  僕は、ベッドで眠るリンの頭を撫で、頬にキスをして、もう一度リンの寝顔を見てから部屋を出た。
  リビングに戻ると、膝にノアを乗せたリオンが僕を見た。僕はノアに手を伸ばしたけれど、リオンをすっかり気に入ったらしくリオンの膝から下りないから、ノアをリオンに預けたまま、僕はリオンの前に座った。


  砂浜でリンが気を失った後、リオンがリンを抱えて帰宅した僕達。驚いて大騒ぎするカエに簡単に事情を説明して、リンが心配だから休むと言うカエを何とか仕事に送り出した。リンは気を失っているだけで他に異常はないようだから部屋で寝かせておくとして、リオンに『話』を聞く必要がある。
  海から戻る時に抱えているリンを見つめ、「俺の運命…」と呟いたリオンの真意をー。


「で、リンがリオンのって、どういう事?」
「本能で解った」
「………。本能で…って…」

  簡潔に返されて、僕は言葉に詰まる。その間に、リオンは続けた。

「俺はだろ? αらしくない、αには見えない、αとしては落ちこぼれだって言われててな。真実は、母がΩだから母に似ただけなんだけどな」
「………」
  
  それはそうだ。子供は両親の遺伝子を受け継いで生まれてくるのだから、片方が小柄なΩなら、その遺伝子を継いだα性の子供が小柄でもおかしくはない。リンだって、Ωだけれど高身長だし、顔も『可愛い』より『綺麗』という表現がぴったりだ。両親はともにαで、兄姉もαなのだから、全然おかしくはない。Ωらしくないなんて思わないし、リンはリンだ。

「でも、問題はそこじゃない。見た目だけなら何言われたって平気なんだよ、俺。ただ、自分でもαとしては欠陥品defectiveだと思ってたから…」
「…え?」
「Ωの匂いは判るんだけれど、いい匂いだと思った事はないし、発情期のΩに遭遇した事も何度かあるけれど、一度も発情ラットした事ない。抑制剤飲んでないのに。こんな俺に寄ってくるΩはいなかったけれど、身近なα…兄弟達だけれど…がΩに媚び売られたりしてるのを見ると、嫌悪さえした」

「フェロモンダダ漏れのΩが側にいて何とも思わないなんて、お前ほんとにαなの?」と、何番目かの兄に言われたけれど、自分でもそう思うよ。…とリオンは苦笑する。
  でも、僕から見れば「それのどこが悪いの?」だ。
  Ωの僕からすれば、Ωを見ればすぐに性欲の対象にしたり、誰にでも股を開く淫乱だと決めつけたり、Ωのフェロモンで前後不覚になって獣の様に襲い掛かるほうが、αとして…以上に人として終わってると思う。αを見ればなりふり構わず擦り寄るΩもだ。
  思ったままを言葉にすれば、「ありがとう。やっぱりノエルは凄いな」と、何故か褒められた。

「まあ、そんな俺だから、番を持つ事は考えていなかった。自分がΩに選ばれるとは思わないし、Ωにとって番契約は一生ものだから、自分が番に対して一生分の責任が取れるか…って言われたら、自信もなかったからな。で、一生仕事に生きるつもりだったから、母さんも亡くなった事だし、弁護士にならないなら…って父親とは縁切ったし、アメリカに未練はないから、どうせならノエルといつでも会える距離にいたいなぁ…って思ってさ」
「そうなんだ…」
  
  嬉し過ぎる…。リオンが僕を選んでくれたこと…。あ、あくまでも『親友』として、だからね? αとΩの僕らだけれど、いっそ清々しいくらいに互いに色欲の絡んだ感情は皆無だから。

「でもさ、海辺の彼…リンだっけ。リンに近付く間、Ωだっていうリンからは一切のフェロモンの匂いはしなかったのに、ノエルが呼んで振り向いたリンの笑顔を見た瞬間、強い匂いがした。しかも不快な匂いじゃなくて、凄く惹かれる匂い。本能で解った。『俺の運命』『俺のΩ』だって」
「……………」

  自信に満ちた顔でリオンは言うけれど、僕はにわかには信じる事が出来ない。
  だって、リンは……。

「リオン、君の言葉を疑う訳じゃないけれど、聞いてほしい事があるんだ」
「? 聞いてほしい事?」
「そう。リンは『番持ち』のΩだ」
「………。え……」

  まあ、驚くとは思うよ。番持ちのΩのフェロモンは番以外のαには判らない筈だから。
  そう。判らない筈…なんだ。でも、匂いがしたというリオンが嘘を吐いているとは思えない。リオンが言うように『運命』だからだろうか。
  本当のところは判らないけれど。

「番持ち? でも、匂いが…。じゃ…じゃあ、リンの番も此処に住んでるのか?」
「……………」
「ノエル…?」
「…リンの番は…此処にはいない…」
「え…。いない…?」
「リンが沖縄に来たのは1年半前。沖縄に来る前に、リンと番は双方納得して別れた」
「は…?」

  リオンの眉間に皺が寄っている。若干、声が低くなった気がする。リンは捨てられた訳ではないけれど、バース医のリオンは誰よりも、Ωが番のαと離れる事のリスクを理解しているからだと思う。

「僕からは詳しくは話せない。リンの許可なく勝手に話す事は出来ない。それは理解してほしいんだけれど、本当に色々あったんだ。リンは傷付いて、苦しんで、いっぱい泣いて、此処に来た。別れを切り出したのはリンだったらしいよ。番のαは初めは拒んだらしいけれど…。2人はαとΩの本能ではなくて、心から愛し合っていたんだ。それでもリンは別れを選び、番契約の解消を願った。自分の余命を知っていたから。でも、αは解消を拒んだ。傍にいる事が叶わなくてもまで繋がっていたい…と言って…。
  だから、番は解消されていない。それに、リンは別れた現在いまも番を愛してる。
  リオン、君がリンからいい匂いがしたと言うのを、僕は嘘だとは思わない。もしかしたら君が言うように『運命』だからかも知れないね。ただ、本当に『運命』だったとしても、リンには君のフェロモンは判らない。リンは番のαのフェロモンさえ嗅ぎ取れなくなっているから。
  でも倒れる前のリンは、君に対して明らかにを感じ取っていた。僕には怯えている様に見えたけれど、実際のところは判らない」

  手を伸ばしたリオンから逃れるかの様に後退ったリン。その顔に浮かんでいたのは恐怖ー。

「……………」

  僕の言葉をどう受け止めたのか、

「…リンと…話がしたい…」

リオンがぽつりと言った。

「それは……」
「…奇跡…だと思ったんだ。出逢えた奇跡…。
  確かに本能だった。『運命』を求めるαの。俺はリンの事は何も知らない。リンも俺の事を知らない。だから、話をしたい。『運命』に出逢える確率は限りなく低い。でも俺は出逢った。無理に本能を押し通したりはしない。『運命』は横に置いておいて、話をしてみたいんだ」
「……………」

  出逢えた奇跡…か。確かにそうかも知れないな。
  どのみち、リオンにはリンと話をしてもらうつもりだった。まさかの想定外の事態が起こってしまったけれど…。今となっては、目覚めたリンにリオンの事を話したとして、リンがどんな反応をするかは判らない。僕の脳裏に、海辺で見た…リンの怯えたような顔が浮かんだ。もし僕の思い違いでなければ…。
  でも…。
  それでも……。
  僕は……。
  少しの間の後、僕は小さく頷いた。

「分かった。リンに話してみる。『運命』の事は伏せて。リオンの事はお医者様として紹介するし、昨夜お願いしたとおりにバース専門医として接してもらいたいんだけれど、それでも良い?」
「構わないよ。寧ろ、そのほうがいいかな。俺はまだ正式に着任してないから治療に関わる事は話せないけれど、話を聞くくらいなら問題ないから」
「うん。それでいいと思うよ」

  昨夜、到着したばかりのリオンは荷解きがまだ残っているらしいから、一度おばあの家に帰ってもらって、リン次第になるけれど、僕からの連絡を待ってもらう事になった。
  玄関先でリオンを見送り、ノアを抱っこして、リンの部屋に向かう。

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