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If… 《運命の番》エンド ルート
90. 愛あふれる僕の人生
しおりを挟む〈リオside〉
リンが「赤ちゃんが欲しい」と言った。その時、リンの抱える『想い』を知った。俺も、望んでいいのなら…望めるのなら、子供がほしいと思った。
だからリンと相談して、病院のバース科で診てもらう事にした。診断結果は『可能性あり』。一度『不妊症』になった所為か、多少機能に衰えは見られるものの、「妊娠確率が上がる発情期があるΩならば、可能性は十分あるでしょう」と言われた。ただし、「妊娠は奇跡です。健康な体と子宮を持っていても妊娠出来ない人は一定数います。Ωの方でも発情期なら必ず妊娠する、という訳でもありません。そこを十分に理解した上で、気負わず焦らず、心穏やかに過ごす事を心掛けてください。ストレスが一番良くないですからね」と念を押された。
俺は次のリンの発情期から避妊具を着けるのを止めた。子作りを始めてから初めての発情期が終わった1ヶ月後、妊娠の有無の確認の為に病院に行った。月経の有無で妊娠が判る女性と違い、Ω男性は早期に妊娠を知りたければ病院で調べてもらうしかない。1回目の発情期では実を結ばなかった。その時は「そんなにすぐには出来ないよね」と笑い合った。2回目の発情期でも、妊娠は確認出来なかった。「残念だったね」と少しだけ落ち込んだリンを抱きしめた。
そして、子作り開始から3回目の発情期を過ごした1ヶ月後。
「おめでとうございます。赤ちゃん、いますよ」
医師の言葉に、俺とリンは抱き合って泣いた。
その日の内に家族全員にリンの妊娠を告げると、皆が喜びに涙した。リンがどれ程、赤ちゃんを切望していたかを知っているから。妊娠出産は大仕事だからリンの体は心配だけれど、俺は当然のこと、家族みんなでリンをサポートしながら無事に出産を終えて元気な赤ちゃんを迎えよう、と誓い合った日ー。
ーーーーーーーーーーーーーーー
〈リンside〉
僕のお腹の中に赤ちゃんが来てくれた。
『子作り宣言』から3回目の発情期で実を結んだ小さな命だった。1回目と2回目で駄目だった時、そんなに簡単な事じゃないと頭では理解していても、やっぱりそれなりに落ち込んだけれど、3回目の後に「もしまた駄目だったら…」と緊張しながら診察を受けた後の、「赤ちゃん、いますよ」と言われた瞬間の事…リオと抱き合って泣いた事を、僕は一生忘れないと思う。
まだ豆粒ほどの小さな小さな命だけれど、可愛い僕の赤ちゃん。元気に生まれておいで。僕はまだ平らなお腹を撫でながら、愛しい我が子に語りかけた。
僕が赤ちゃんを切望していたのを知っている家族は、一度は死を覚悟したほど弱っていた僕の身体を心配しながらも祝福してくれて、家族に見守られながら、僕は妊娠生活を穏やかな気持ちで過ごせた。心配していた悪阻も軽くて、起き抜けに気持ち悪いのと、やたらと眠かったくらい。そんな悪阻も妊娠6ヶ月目に入る頃には落ち着いた。ノエルさんも膨らみ始めた自身のお腹を撫でながら、「僕も今回は軽くて助かるよ。ノアの時はとにかく重くてね。8ヶ月までずっと船酔いしてる感じだった」と、当時を思い出したのか、げんなりした顔をするから、笑っちゃった。
そうなんだよ。僕の妊娠が判った2ヶ月後に、ノエルさんの妊娠も判ったの。2人目。何でも、ノアの時に悪阻が重かった上に、陣痛に丸1日苦しんだんだって。だから、もう1人くらい欲しいけれど、またあんなに苦しい思いをするのは…って、踏み切れなかったんだって。2人目の子作り。でも僕が妊娠して、「一緒に子育てしたくなっちゃった」らしい。僕はもちろん嬉しいよ。ノアもお兄ちゃんだね。
それから順調に時間は過ぎてー。
出産予定日の2週間前に、僕は、予定帝王切開で赤ちゃんを出産した。生まれたのは男の子。名前はもう決めてた。
『長峰 愛琉』。
性別は訊かなかったから、男の子でも女の子でも良い名前を、リオと2人で相談しながら考えたんだ。
『愛』あふれる人生を送ってほしいっていう願いと、理由は違うけれど新たな生活を求めて来た僕達を優しく迎えてくれた沖縄の地に由来した漢字…琉球の『琉』で『愛琉』。
初めまして。ようこそ、僕達のところへ。生まれてきてくれて…僕を『ママ』にしてくれて、ありがとう。これからよろしくね、愛琉。
2ヶ月後、ノエルさんも予定帝王切開で2人目を出産した。ノアの時の教訓から、今度は最初から帝王切開を選んでたみたい。女性と違ってΩ男性は難産になりやすいから、通常分娩出来なくはないけれど、割と帝王切開が一般的なんだって。前回はそんなこと聞いていなかったみたいで、ノエルさん、ちょっと怒ってた。よっぽど大変だったんだね…。
ノエルさんの赤ちゃんは女の子。名前は『ルナ』。
2人の赤ちゃんが仲間入りして、僕達の周りは賑やかになった。
10年後ー。
時間の流れは早く、気が付けば僕は40歳を過ぎていた。Ω性だからか、歳を重ねても貫禄なんて皆無だけれど。当たり前だけれど、みんなそれぞれに歳を取った。
愛琉とルナはともに10歳、ノアは14歳。子供の成長は、大人とは違い、見た目も環境も言動も大きく変わる。それでも、変わらないことはある。それは3人はいつも一緒だということ。学校もあるし、それぞれに友達もいるから、べったりずっと一緒な訳ではないけれど、家に居る時は一緒だった。ノアがとにかく面倒見が良い。妹のルナだけじゃなく、愛琉の事も弟のように面倒を見てくれる。
ただ、最近ちょっと困った事が…。
10歳になると一斉に行われるバース性検査で、愛琉は《α》と診断された。予感はあったから、僕もリオも驚かなかった。と、それは別に問題ないのだけれど…。4年前に《Ω》と診断されていたノア。学校でちょうど性教育が始まった事もあり、愛琉は自身がαだと判ると、Ωのノアに告白やら交際やらをすっ飛ばして、求婚したんだよ。家族の前で堂々と。もう、びっくり! …したんだけれど、頭の中では「従兄弟同士って結婚できたかなぁ?」と考えていた僕。ノアにとって愛琉は弟みたいな存在だけれど、この先、子供達がどう育っていくのか、今はただ見守るだけだ。
愛琉は一人っ子。愛琉が2歳を過ぎた頃から避妊はしていなかったけれど、愛琉をこの世に送り出した後、もう役目を終えたかのように、僕の子宮の中で新たな生命が実を結ぶ事は無かった。検査はしていない。だって、僕達には愛琉がいるから。
「ママ、ただいま」
「おかえり、愛琉」
学校から帰宅した愛琉がキッチンに顔を出し、僕を見つけると笑顔で抱きついた。10歳の愛琉はまだまだ甘えたい盛りだ。僕は可愛い愛琉の頭を撫でる。αだからリオに似るかと思ったけれど、愛琉は僕そっくりだ。だからか、リオの息子溺愛は半端じゃない。
「ママ、大好き」
愛琉は毎日、僕に「大好き」を囁く。こういうとこはリオに似たんだと思う。
「ママも愛琉が大好きだよ」
僕も必ず「大好き」を返す。
「パパも、ママとアイルが大好きだよ」
声が聴こえたと思ったら、温かな…僕の大好きな匂いに包まれ、愛琉ごと抱きしめられた。
「パパ。おかえりなさい」
「リオ、おかえりなさい」
僕と愛琉が言うと、
「ただいま」
リオは、少し屈んで愛琉の頬にキスをして、今度は少し伸びをして僕の唇に触れるだけのキスをした。
一度は諦めた幸せがそこにはあった。
愛する人と過ごす時間。愛する人の子供を産むこと。そして、愛する人の唯一になることー。
その全てがここにある。
僕はきっと、リオよりもずっと早く天に召されるだろう。Ωが短命なのもあるけれど、一度傷付いた体は現在は落ち着いていても、そう遠くない未来、再び牙を向くだろう。それは確信に近い『予感』。
でも今は、幸せな瞬間…1分…1秒を大切に生きていきたい。その時が来た時に、後悔なく「幸せな人生をありがとう」と言えるように…。
今はただ、愛あふれる人生を、愛する夫、愛する息子と共に生きていくー。
《完》
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