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彼女が出ていくその前は
シェリーの侍女は嘘を一つ、つきました
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私は最近、恋人ができた。シェリー様のアドバイスのおかげで。
私がこの屋敷で働き始めたのは3年前。ディラン様が戦争に向かわれた後だった。働くこと自体が初めてだったから、最初はいろいろとドジをして侍女長には何度も怒られた。でも、主不在で沈んでいるこの屋敷が明るさを取り戻したのは、私の貢献もあるだろうと自負している。まぁほとんどはユカリナ様のおかげだけどね。
一人前とようやく侍女長に認められた頃、突然現れたディラン様とシェリー様。初めてお会いする嫡男・ディラン様はとても紳士的で見目も麗しく、一目で高位の貴族と分かる容貌だった。シェリー様は私と同い年の人懐こい笑みが印象的な、女性と少女を併せ持つかのような人だった。
ある日、侍女長に呼び出され、シェリー様に付くようにと言われた。使用人から侍女に昇格できるだけではなく、夫人付きにして下さると。侍女の中にも序列はある。やはり主→正妻→第2夫人と、優秀な者から付けられる。嬉しかった。侍女長には
「シェリー様は慣れない侯爵家でのお暮しに、体も心も疲れております。あなたはまだ、侍女になるほどの実力も、第2夫人付きにできるほどのスキルもありません。しかしシェリー様とは同い年だと聞いておりますし、性格も明るい。心穏やかに生活して頂くにはあなたが適任と判断居いたしました」
なんて言われたけど。
シェリー様とは友人のような関係になった。最初はきちんと敬意を持って接していたけど、シェリー様がそれを拒まれたのだ。さすがに敬語は崩せないが、かなり気安いことをお喋りできる関係になれた。
私はディラン様とのなれ初めを聞いた。『吊り橋効果』と言う物を駆使して結ばれたのだと話して下さった。
戦場や吊り橋でしか効果を発揮しないのならば、友人以上恋人未満である私の片思いの相手には使えないと落胆していたら、そうでもないとシェリー様は仰った。ドキドキを共有できるような状況であればどんな事でもいいらしい。二人でいる時に、たまたま暴走した馬と出くわし、二人で協力してその場を収めた。彼が馬を落ち着かせ、私が周囲の人を避難させたのだ。ドキドキした。あっこれかって思った。彼も興奮しているのが分かるほど、普段は無口なのに、饒舌に今あったことを何度も話した。そんな興奮状態の中告白したら、彼は受け入れてくれた。シェリー様のおかげで私は彼と結ばれることができた。
でも、疑問に思った。シェリー様はディラン様をとても好いているように見えるのに、実は戦場では他の騎士にもそれらしい素振りをしていたらしいからだ。いくらなんでも、ディラン様が気の毒だと思って、私は思い切ってディラン様を愛していないのかと聞いたら「あなたも侍女長と同じことを言うのねって」苦笑いされた。
「だって私を選んでくれるとは限らないじゃない」
どういう事だろう。
「現場には私の他に、2人も同じような子がいたのよ」
あぁ成程。
「だから、私はまず選んだの。誰にしようか」
すごく積極的なのね。
「すでに夫人枠が埋まっている男はまず除外」
もう他の妻は娶れないからね。
「まだ誰とも結婚していない男も除外。正妻を迎えていないのに第2夫人を迎える訳にはいかないしね」
正妻を狙わないのかしら。
「正妻なんて狙わないわよ。子爵家の三女なんて誰も選ぶはずがないし。婚約者だってきっといる」
選ばれても婚期が遅れるわけね。正妻と結婚してからになるから。
「嫡男だったら最高。暮らしが安定するしね」
そうれはそうね。
「それで私は数名の騎士にしぼった」
その中に主様はいらっしゃた訳ね。
「ディラン様は最高の条件だったわ。もちろん他の二人もディラン様ともうひとりの騎士と、後は軍医も狙ってた」
騎士ってご友人の侯爵様かしら。
「必死なのよ。下位貴族の女は」
そんな女の闘いで、シェリー様は勝ち残った。
でも選ばれて、結ばれて思ったのだと。ディラン様は本当にいい人ですぐに好きになったと。気持ちは後から付いて来たのだと。今では他は考えられない程、愛していると。
逞しく、強いあなたに私は付いていきます。正妻であるユカリナ様よりもあなたに。
ユカリナ様が妊娠なさってからディラン様はこの別邸から足が遠くなっていた。だからディラン様とのご関係がうまくいくように、私は嘘をつきました。
「シェリー様はユカリナ様のご妊娠にとても不安を感じているようです。あまりいい関係を築けていないから、ユカリナ様に追い出されるのではないかと仰って…ディラン様がもう少しシェリー様に会いに来て下さったなら、安心できるはずです」
シェリー様贔屓の執事にこっそりと。追い出されるとかは言ってないけど、不安に思ってる事は確かだからいいわよね。
まさかあんなに噂となって広がるとは思ってもいなかったけど…
私がこの屋敷で働き始めたのは3年前。ディラン様が戦争に向かわれた後だった。働くこと自体が初めてだったから、最初はいろいろとドジをして侍女長には何度も怒られた。でも、主不在で沈んでいるこの屋敷が明るさを取り戻したのは、私の貢献もあるだろうと自負している。まぁほとんどはユカリナ様のおかげだけどね。
一人前とようやく侍女長に認められた頃、突然現れたディラン様とシェリー様。初めてお会いする嫡男・ディラン様はとても紳士的で見目も麗しく、一目で高位の貴族と分かる容貌だった。シェリー様は私と同い年の人懐こい笑みが印象的な、女性と少女を併せ持つかのような人だった。
ある日、侍女長に呼び出され、シェリー様に付くようにと言われた。使用人から侍女に昇格できるだけではなく、夫人付きにして下さると。侍女の中にも序列はある。やはり主→正妻→第2夫人と、優秀な者から付けられる。嬉しかった。侍女長には
「シェリー様は慣れない侯爵家でのお暮しに、体も心も疲れております。あなたはまだ、侍女になるほどの実力も、第2夫人付きにできるほどのスキルもありません。しかしシェリー様とは同い年だと聞いておりますし、性格も明るい。心穏やかに生活して頂くにはあなたが適任と判断居いたしました」
なんて言われたけど。
シェリー様とは友人のような関係になった。最初はきちんと敬意を持って接していたけど、シェリー様がそれを拒まれたのだ。さすがに敬語は崩せないが、かなり気安いことをお喋りできる関係になれた。
私はディラン様とのなれ初めを聞いた。『吊り橋効果』と言う物を駆使して結ばれたのだと話して下さった。
戦場や吊り橋でしか効果を発揮しないのならば、友人以上恋人未満である私の片思いの相手には使えないと落胆していたら、そうでもないとシェリー様は仰った。ドキドキを共有できるような状況であればどんな事でもいいらしい。二人でいる時に、たまたま暴走した馬と出くわし、二人で協力してその場を収めた。彼が馬を落ち着かせ、私が周囲の人を避難させたのだ。ドキドキした。あっこれかって思った。彼も興奮しているのが分かるほど、普段は無口なのに、饒舌に今あったことを何度も話した。そんな興奮状態の中告白したら、彼は受け入れてくれた。シェリー様のおかげで私は彼と結ばれることができた。
でも、疑問に思った。シェリー様はディラン様をとても好いているように見えるのに、実は戦場では他の騎士にもそれらしい素振りをしていたらしいからだ。いくらなんでも、ディラン様が気の毒だと思って、私は思い切ってディラン様を愛していないのかと聞いたら「あなたも侍女長と同じことを言うのねって」苦笑いされた。
「だって私を選んでくれるとは限らないじゃない」
どういう事だろう。
「現場には私の他に、2人も同じような子がいたのよ」
あぁ成程。
「だから、私はまず選んだの。誰にしようか」
すごく積極的なのね。
「すでに夫人枠が埋まっている男はまず除外」
もう他の妻は娶れないからね。
「まだ誰とも結婚していない男も除外。正妻を迎えていないのに第2夫人を迎える訳にはいかないしね」
正妻を狙わないのかしら。
「正妻なんて狙わないわよ。子爵家の三女なんて誰も選ぶはずがないし。婚約者だってきっといる」
選ばれても婚期が遅れるわけね。正妻と結婚してからになるから。
「嫡男だったら最高。暮らしが安定するしね」
そうれはそうね。
「それで私は数名の騎士にしぼった」
その中に主様はいらっしゃた訳ね。
「ディラン様は最高の条件だったわ。もちろん他の二人もディラン様ともうひとりの騎士と、後は軍医も狙ってた」
騎士ってご友人の侯爵様かしら。
「必死なのよ。下位貴族の女は」
そんな女の闘いで、シェリー様は勝ち残った。
でも選ばれて、結ばれて思ったのだと。ディラン様は本当にいい人ですぐに好きになったと。気持ちは後から付いて来たのだと。今では他は考えられない程、愛していると。
逞しく、強いあなたに私は付いていきます。正妻であるユカリナ様よりもあなたに。
ユカリナ様が妊娠なさってからディラン様はこの別邸から足が遠くなっていた。だからディラン様とのご関係がうまくいくように、私は嘘をつきました。
「シェリー様はユカリナ様のご妊娠にとても不安を感じているようです。あまりいい関係を築けていないから、ユカリナ様に追い出されるのではないかと仰って…ディラン様がもう少しシェリー様に会いに来て下さったなら、安心できるはずです」
シェリー様贔屓の執事にこっそりと。追い出されるとかは言ってないけど、不安に思ってる事は確かだからいいわよね。
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