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彼女が出ていくその前は
侍女長は嘘は申しておりません
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いまでも思い出す。ユカリナ様が嫁いで来られた日を。第一印象はとても繊細で、儚げで、でもしっかりとした信念を持った百合のような方…でしょうか。
私は侯爵家で侍女長をしております。侍女長となりましたのは、ご当主様が爵位を継ぐこととなった折に、領地に当時の侍女長を連れて行ったからでございます。長年お仕えしてきましたので、大変名誉なことと嬉しく思います。
ユカリナ様は伯爵家のご令嬢と言う事で、身分が私がお仕えする侯爵家の方々よりは劣りますが、私達使用人にも優しくすぐに打ち解けられました。屋敷のルールや、侯爵家の人間としての振舞い方などにを覚えるのは少し手を焼いておられたようですが、頭のよい方なのでしょう。ディラン様の協力もあり数か月もすれば完璧にこなしていらっしゃいました。本当に良い方が嫁いで来られて良かったと、何度も思いました。
ディラン様は結婚当初から、恋愛結婚かと思うほどにユカリナ様を慈しみ、守り、それは大切に扱われていました。中睦まじいお二人の姿を拝見するたびに、私まで幸せになったものです。それなのに、なんと残酷な事でございましょうか。結婚して1年もたたないうちに戦争が始まってしまったのです。それに今回は、ディラン様も初めて経験する、大きな争いになるらしいのです。
ユカリナ様はたいそうご心配になったようで出陣式では我慢されていた涙も、屋敷に戻ると決壊致しました。ディラン様は必ず生きて戻るからと、慰めていらっしゃいました。
それから3年もの間、私たちもディラン様を心配して眠れぬ夜を過ごしてまいりました。しかし、ユカリナ様が気丈にも屋敷を取りまとめて守ろうとする姿勢に感銘を受け、私たちもこれではいけないと奮起致しました。
そしてついにディラン様はご帰還されました。可愛らしい子爵家のご令嬢をお連れになって。戦争でディラン様をお支えになって下さった存在なのだとか。子爵家のご令嬢なのに、戦争の支援に回られるなんて、なんと素晴らしい方なのでしょうと私たちも歓迎いたしました。
シェリー様は辺境でお暮しになっていたからでしょうか。この屋敷は広すぎて落ち着かないとおっしゃり、夜も眠れないでいるのだとか。お食事も喉を通さないようで、このままではいけないと別邸に移られるよう提案したのは私でございます。ディラン様にも、今はシェリー様の憂いを取り除くのが優先だとご助言させて頂きましたところ、毎日多くの時間を別邸で過ごされるようになりました。
気になるユカリナ様とシェリー様のご関係ですが、あまりうまくはいっておりません。ユカリナ様はシェリー様にご自身も施された屋敷のルールや、侯爵家の人間としての振舞い方をお教えしておりましたが、伯爵家と子爵家では基本的な教育が違うのでしょう。シェリー様はたいそう苦労されておりました。
それはそうと、別邸に移られてからのシェリー様は、元気を取り戻されました。やはり私の判断は間違っていなかったのだと安堵致しました。
ユカリナ様はやはり貴族のご令嬢。私のような平民とは生きる世界が違うのだと日々感じておりましたが、シェリー様はとても気さくで、貴族のご令嬢と私たち平民の中間のような存在…と言えば分かりやすいでしょうか。まるで娘のような気持ちにさせるのです。私は独身ですが…
そういえば50歳を過ぎようとする私にまで、恋愛のイロハを教えて下さったのです。
「まだ結婚なさっていないの?」
余計なお世話です。
「いい事を教えてあげる」
私は仕事に生きると決めているのですから。
「私って子爵家の三女でしょ?」
孤児だった私を拾って下さったご当主に恩を返さなければ。
「政略結婚なんてないし自分で相手を探さないといけないのよ」
貴族様でも上位と下位ではこんなに違うのですね。
「でも、出会いなんて簡単にあるもんじゃない」
ユカリナ様は次女なのに、ディラン様と政略結婚をされた。
「だから自分から探しに行かないと」
シェリー様はそんなご苦労を…
「私にとって戦争はチャンスだった」
だからと言って、そんな危険な場所まで…
「戦場のようなハラハラドキドキする場所で出会った男女はね」
いくら結婚相手を見つけるためとはいえ、なかなかできる事じゃない。
「恋に落ちやすくなるよ」。
ディラン様との結婚されたのは策略だったのかと、不敬だとは思いましたが質問させて頂いたところ違うようです。最初はそのつもりだったけれども、今では本当に愛していると。彼にも同じように愛してほしいのだと。しかし、こんな話を平然とされるシェリー様に、実直さと危うさを感じました。
この方は私がお守りしなければ…屋敷内の平穏を保つのが私の仕事でございますから。
だから私はディラン様に、ユカリナ様のシェリー様に対する態度が厳しすぎると進言致しました。ユカリナ様には正妻としてある程度の権限が認められておりますが、シェリー様にはございません。二人の均衡を保つためでございます。
嘘は申しておりません。事実を少し誇張して大げさにお伝えしただけでございます。
しかし私の思いとは裏腹に、祝勝会を期に使用人はユカリナ様派・シェリー様派に分裂してしまったのです。
******************
御心配おかけしました。更新は穴をあけずにできそうです。
毎日何通もつまらない、よくある設定と感想を下さる方がいます。精神的に追い詰められてしまうため、感想の受付を停止させていただきました。申し訳ありません。
私は侯爵家で侍女長をしております。侍女長となりましたのは、ご当主様が爵位を継ぐこととなった折に、領地に当時の侍女長を連れて行ったからでございます。長年お仕えしてきましたので、大変名誉なことと嬉しく思います。
ユカリナ様は伯爵家のご令嬢と言う事で、身分が私がお仕えする侯爵家の方々よりは劣りますが、私達使用人にも優しくすぐに打ち解けられました。屋敷のルールや、侯爵家の人間としての振舞い方などにを覚えるのは少し手を焼いておられたようですが、頭のよい方なのでしょう。ディラン様の協力もあり数か月もすれば完璧にこなしていらっしゃいました。本当に良い方が嫁いで来られて良かったと、何度も思いました。
ディラン様は結婚当初から、恋愛結婚かと思うほどにユカリナ様を慈しみ、守り、それは大切に扱われていました。中睦まじいお二人の姿を拝見するたびに、私まで幸せになったものです。それなのに、なんと残酷な事でございましょうか。結婚して1年もたたないうちに戦争が始まってしまったのです。それに今回は、ディラン様も初めて経験する、大きな争いになるらしいのです。
ユカリナ様はたいそうご心配になったようで出陣式では我慢されていた涙も、屋敷に戻ると決壊致しました。ディラン様は必ず生きて戻るからと、慰めていらっしゃいました。
それから3年もの間、私たちもディラン様を心配して眠れぬ夜を過ごしてまいりました。しかし、ユカリナ様が気丈にも屋敷を取りまとめて守ろうとする姿勢に感銘を受け、私たちもこれではいけないと奮起致しました。
そしてついにディラン様はご帰還されました。可愛らしい子爵家のご令嬢をお連れになって。戦争でディラン様をお支えになって下さった存在なのだとか。子爵家のご令嬢なのに、戦争の支援に回られるなんて、なんと素晴らしい方なのでしょうと私たちも歓迎いたしました。
シェリー様は辺境でお暮しになっていたからでしょうか。この屋敷は広すぎて落ち着かないとおっしゃり、夜も眠れないでいるのだとか。お食事も喉を通さないようで、このままではいけないと別邸に移られるよう提案したのは私でございます。ディラン様にも、今はシェリー様の憂いを取り除くのが優先だとご助言させて頂きましたところ、毎日多くの時間を別邸で過ごされるようになりました。
気になるユカリナ様とシェリー様のご関係ですが、あまりうまくはいっておりません。ユカリナ様はシェリー様にご自身も施された屋敷のルールや、侯爵家の人間としての振舞い方をお教えしておりましたが、伯爵家と子爵家では基本的な教育が違うのでしょう。シェリー様はたいそう苦労されておりました。
それはそうと、別邸に移られてからのシェリー様は、元気を取り戻されました。やはり私の判断は間違っていなかったのだと安堵致しました。
ユカリナ様はやはり貴族のご令嬢。私のような平民とは生きる世界が違うのだと日々感じておりましたが、シェリー様はとても気さくで、貴族のご令嬢と私たち平民の中間のような存在…と言えば分かりやすいでしょうか。まるで娘のような気持ちにさせるのです。私は独身ですが…
そういえば50歳を過ぎようとする私にまで、恋愛のイロハを教えて下さったのです。
「まだ結婚なさっていないの?」
余計なお世話です。
「いい事を教えてあげる」
私は仕事に生きると決めているのですから。
「私って子爵家の三女でしょ?」
孤児だった私を拾って下さったご当主に恩を返さなければ。
「政略結婚なんてないし自分で相手を探さないといけないのよ」
貴族様でも上位と下位ではこんなに違うのですね。
「でも、出会いなんて簡単にあるもんじゃない」
ユカリナ様は次女なのに、ディラン様と政略結婚をされた。
「だから自分から探しに行かないと」
シェリー様はそんなご苦労を…
「私にとって戦争はチャンスだった」
だからと言って、そんな危険な場所まで…
「戦場のようなハラハラドキドキする場所で出会った男女はね」
いくら結婚相手を見つけるためとはいえ、なかなかできる事じゃない。
「恋に落ちやすくなるよ」。
ディラン様との結婚されたのは策略だったのかと、不敬だとは思いましたが質問させて頂いたところ違うようです。最初はそのつもりだったけれども、今では本当に愛していると。彼にも同じように愛してほしいのだと。しかし、こんな話を平然とされるシェリー様に、実直さと危うさを感じました。
この方は私がお守りしなければ…屋敷内の平穏を保つのが私の仕事でございますから。
だから私はディラン様に、ユカリナ様のシェリー様に対する態度が厳しすぎると進言致しました。ユカリナ様には正妻としてある程度の権限が認められておりますが、シェリー様にはございません。二人の均衡を保つためでございます。
嘘は申しておりません。事実を少し誇張して大げさにお伝えしただけでございます。
しかし私の思いとは裏腹に、祝勝会を期に使用人はユカリナ様派・シェリー様派に分裂してしまったのです。
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