あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶

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彼女が出ていくその前は

使用人は噂をひとつ、流しました

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 私はエルバート侯爵家で使用人として働いている。掃除・洗濯なんでもする下働きだ。

 私には憧れてやまない存在がいる。正妻のユカリナ様だ。女性としても、妻としてもすばらしく侯爵家を仕切っていらしゃっる。一使用人である私の名を覚え、あなたの仕事は丁寧ねって褒めてくれる。

 戦争孤児である私は、侍女長に拾われた。侍女長も孤児だったらしい。それでも努力して、長年お仕えして侍女長にまで上り詰めた。侍女長に対しては、憧れよりも尊敬の方が強かった。私もいつか…って夢見ている。でもその侍女長は最近、シェリー様に肩入れしているように思う。すっかりと派閥が完成してしまったこの屋敷内『私は中立です』なんて言っておきながら、ユカリナ様がシェリー様とお会いするのをそれとなく妨害している。


 ユカリナ様はこのところ元気がない。きっとシェリー様が妊娠されたからだ。しかも、最近妙な噂が流れている。お子様がお生まれになったら、ユカリナ様はシェリー様を追い出すつもりでいると。しかし、シェリー様も妊娠され、それができなくなったので焦っていると。もしかしたら、ディラン様はこの噂を鵜呑みにしているのかもしれない。そんな事、ユカリナ様が言うはずない。

 こんな根も葉もない噂。誰が広めたか私は知っている。私と同じころに入職したのに、数か月前にシェリー様付き侍女となったあの女。最近は恋人ができたとかで、やたらとまとわりついて話してくる。なぜこんな子が。私の方が仕事はできるのに。どうやってその男を落としたのか、事細かく聞かせてくる。第2夫人にアドバイスをしてもらったのだと。

 そんな鬱憤が溜まっていた頃聞いてしまった。その子がこっそりと執事に話していたのを。

『‥から、ユカリナ様に追い出されるのではないかと仰って…』

 あの執事は、やたらとシェリー様を優遇している。正妻はユカリナ様なのに、まるでシェリー様を正妻かのように扱って。執事と侍女長は第2夫人についた。じゃぁ私は?もちろんユカリナ様派だ。



 だから私も噂を流す。ユカリナ様に有利となる噂を。


「ここだけの話なんだけど」

 こう言われると黙っていられないのよね。

「シェリー様は」

 愛を得るのに必死な第2夫人。

「正妻の座を狙っているらしいの」

 ただの下位貴族の無教養な女。

「ユカリナ様がいる限り」

 私の敬愛するユカリナ様の

「そんな事はあり得ないでしょ?」

 立場を危うくする女。

「実は噂があるの」

 あの女が勝手に話しただけかもしれない

「シェリー様は」

 でも、強かな第2夫人の策略かもしれない。

「ユカリナ様と、そのお子様を亡き者にしようとしているんじゃないかって」

 さすがにこんな事まではしないだろうけど。これを聞けば、ユカリナ様派はきっと増える。

「あくまでも噂だけどね」

 ユカリナ様派が増えれば、第2夫人の立場は今よりもっと弱くなる。そうすれば、あの女の立場も必然的に弱くなる。嫉妬心は自覚してる。でも、ユカリナ様が孤立されるのを、黙ってみているわけにはいかない。



 私の思惑通り、噂は広まった。

 それが、あんな事件が起こったことで、妙に真実味がでてしまった。
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