あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶

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彼女が出ていくその時は

姉はけりをつけたいのです

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 私はシルベスター伯爵家の長女だった。婚約者の男が、まだ新婚だった公爵様の嫡男の正妻と駆け落ちしたから、私が公爵家の後妻として第1夫人となった。私も婚約者を愛していたわけではないし、公爵はただ淡々と貴族としての義務を務めているだけの男だったから、心置きなくその座に就いた。


 母が男児を欲しがっていたのは知っていた。私や妹を可愛がってくれた母。でも、父の関心はいつも弟たちにあった。そして第3夫人を迎えてからは、その関心はその女と、その後に生まれた弟に向いていた。正妻が必ず男児を産むとは限らない。しかし、それを待ってくれるわけでもなく戦争は起こる。後継ぎのいない嫡男が亡くなった場合、その弟が、それもいなかったら従兄弟が…と湧いてくる後継者。だからこそ貴族は子供を多く、なるべく早く残す事を求める。正妻の子供だからと優先されるわけではない。

 なかなか子供を授かる事がなかった私に、夫は第2夫人を娶ることになったと告げた。夫が第2夫人を迎え、女児を出産したところで分かった。別に愛しているわけでも、地位が欲しい訳でもなかった私に生まれたこの感情は、嫉妬、焦燥感。母は父を愛していたようだから、私よりも強かったであろうその感情。

 初めて理解した母の感情。母は父の愛を欲していた。私はお母様だけいればいいなんて言いつつも、心のどこかで父の愛を欲していた。でも、もういらない。私にとっての家族は公爵家の家族と母とユカリナだけ。それで十分だ。

 ユカリナはそれでも父の愛情を求めていた。愛しい妹。優しい夫に恵まれて、ようやく彼女の心は報われると思ってた。その妹が子供をなくした、離婚をするから匿ってほしいと母から言われた。事情はユカリナを救ってくれた医師の男が伝えてくれたそうだ。父は離縁などさせず、侯爵家の妻であり続けろと説得しろと母に迫っているらしい。私が匿うのは簡単だけれども、ここは生家が匿うべきだと思った。形だけの父親とはいえ、家族を守る義務は果たしてもらわないと…

 
「お父様」

 名ばかりの父。

「あなたはユカリナの父でしょう?」

 あなたを家族を思ったことはない。

「なせそんな事を言うのです」

 私は母の苦しみを知っている。

「娘の安全を、幸せを優先するのは」

 母の孤独を知っている。

「親として当然でしょう?」

 しかし、父は納得できないのか険しい表情のまま黙り込む。男児が大切なのはわかる。でも、女には女の使い道がある。お父様あなたはそれを理解していない。だからこそ、私は今、その力を発揮する。


「では命令します」

 これは復讐。あなたが顧みなかった子供からあなたへの。

「ユカリナを匿いなさい」

 男はよほどの功績をたてなければ爵位は変えられない。

「お忘れですか?」

 でも、女は簡単に変えられる。

「私はあなたの娘ではあるけれど」

 私は手に入れた。

「今は公爵家の正妻です」

 結婚と言うなの契約で

「嫡男も産んでいます」

 あなたよりも強い権力を。

あなたお父様よりも、身分は上です」



 私は母とは違った。私は彼女より先に後継ぎを産むことができた。母の無念は、私が晴らしてみせる。父はようやく頷いた。

 ユカリナを連れ出す日は決まった。
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