あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶

文字の大きさ
21 / 23
彼女が出ていったその後は

最後に一つ、君に嘘をついた

しおりを挟む
 ユカリナを幸せにできるのは、自分だけだと思っていた。


 私はユカリナが屋敷をでて1年が経過しても離婚の届けはまだ提出できずにいた。

 自惚れではなく、ユカリナとは相思相愛だっただろう。不幸な事故で子供を亡くしてしまったが、ユカリナは無事だった。その事実だけが私を安堵させていた。そう、それしか私を安堵させるものはない今の現実。

 両親からは、早く離縁を成立させて新たに妻を娶るようにと言われている。シェリーは第1夫人にはならない。侯爵夫人として足りない事が多すぎることと、犯してしまった罪が明らかになってしまったから。シェリーは男の子を産んだ。私の子供かも・・しれないが、違うかも知れない子供。乳母を雇い今はこの屋敷で暮らしているが、この先の事は決まっていない。当然だが、認知はできない。


 シェリーは、子供と離れ領地の私の両親の元で暮らしている。離縁はしない。二人の妻を失うともなれば、社交界では生きていけなくなる。それほどの醜聞だからだ。離縁はしないが、今後シェリーとの間に子供をもうける事は許されなかった。会う事もままならない、名だけの第2夫人。それがシェリーに与えられた罰だった。


 どうして、こうなってしまったのだろう。


 二人の愛する妻を手に入れたはずが、今は二人とも側にはいない。

 
 騎士学校に通い始めた頃に決まった婚約者。何の不満もなかった。むしろ、心優しく穏やかなユカリナを愛しく思った。激しい感情はないが、間違いなく私はユカリナを愛している。だから結婚した当初、ユカリナにも言った。いずれ他にも妻を娶るが、愛しているのは君だけだと。しかしシェリーと出会い、燃え上がる様な恋を知った。戸惑った。愛する人は生涯ただ一人だと思っていたからだ。でも、どこかで思っていた。きっとうまくいくと。第2夫人を迎えなければいけない事はユカリナも分かっている。ユカリナとシェリーは上手くやっていける。貴族界でありがちな夫人同士の醜い争いなど起こりようもないと…

 それがどうして…



「ご報告がございます」

 仕事から帰り屋敷に到着するやいなや、護衛長が執務室に訪れた。



 衝撃だった。

 あぁ私は側に置く者を間違ったのだ。


 私は机の一番上の引き出しを開け、ごそごそと一番下の封筒を取り出す。目に触れてしまうと、あまりに辛い現実を目の当たりにしてしまうため、隠すようにしまっていたその封筒。

 ペンを取り、手紙をしたためる。


 今、ユカリナの気持がわかった。さまざまな思惑と、周囲の人間の勘違いに振り回された私たち。君は、そんな中でも私の幸せを願ってくれていた。もし真実を話したら、君は戻って来てくれるかもしれない。でも君が私を思ってくれたように、私も君を思っているから。

 だから、私は君に嘘をつく。


『お幸せに…』


 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君を自由にしたくて婚約破棄したのに

佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」  幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。  でもそれは一瞬のことだった。 「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」  なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。  その顔はいつもの淡々としたものだった。  だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。  彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。 ============ 注意)ほぼコメディです。 軽い気持ちで読んでいただければと思います。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

身代わりーダイヤモンドのように

Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。 恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。 お互い好きあっていたが破れた恋の話。 一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。 ※短編連作 ※この話はフィクションです。事実や現実とは異なります。

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

処理中です...