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「レオン、貴様……自我を売ったか!」 シオンがエルナを庇い、腰の剣を抜く。
「売ったんじゃない、選んだのさ。……さあ、エルナ・フォン・ラインハルト! お前の罪を数えろ。婚約破棄、逃亡、そして世界の秩序を乱した罪を!」
レオンが手を振ると、リベルタスの広場が瞬時に「処刑場」へと変貌した。 幻影の民衆がエルナを罵り、石を投げる。かつてエルナが一度目の人生で経験した、あの地獄の再演だった。
「嫌……っ、やめて!」 エルナは耳を塞ぎ、蹲った。過去の記憶と、世界の修正力がもたらす精神攻撃が彼女を蝕む。
だが、その視界を、白銀の背中が遮った。
「見せしめか、くだらん。……エルナ、目を開けろ。お前が恐れる過去など、私がすべて凍らせてやる!」
シオンが咆哮すると、彼を中心に凄まじい氷の嵐が巻き起こった。 レオンの放つ闇の触手と、シオンの氷の壁が真っ向からぶつかり合い、衝撃波が広場を粉砕する。
「ユリ! エルナの意識を繋ぎ止めろ! 彼女が『自分は悪役だ』と認めた瞬間、運命は確定してしまう!」 「はい、シオン様! お姉様、私の声を聞いてください! あなたは悪役なんかじゃない、私の命の恩人です!」
ユリの祈りのような魔法が、エルナを包み込む。 エルナは震えながらも、顔を上げた。
(そうよ……私は、エルナ。誰かに決められた台本を演じる人形じゃない。私は、私の足で逃げて、私の手で未来を掴む女よ!)
「……シオン殿下、剣を。私が、このシナリオの『結末』を書き換えてあげますわ!」
エルナは、シオンが持っていた予備の短剣をひったくると、レオンの背後に浮かぶ「運命の糸(黒い霧)」に向かって真っ直ぐに突き出した。 愛憎が渦巻く戦場。逃げることをやめた令嬢の、反撃の一撃が炸裂しようとしていた。
「……私の人生に、勝手な注釈をつけないでくださいまし!」
エルナの声が、停止した世界に鋭く響いた。彼女が突き出した短剣は、レオン王子の背後に揺らめく、どろりとした黒い霧――「世界の意志」が紡ぎ出した運命の糸を、真っ向から貫いた。
キィィィィン! と、耳を劈くような金属音が響き渡り、糸が千切れる。その瞬間、レオンの瞳から闇が抜け落ち、彼は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「レオン殿下!」 ユリが駆け寄り、浄化の光を注ぎ込む。一方で、エルナの体にも異変が起きていた。運命に逆らった反動か、彼女の右腕に黒い呪いの紋章が浮かび上がり、焼け付くような激痛が走る。
「ぐっ……、あ……」 「エルナ!」
シオンが即座に彼女を抱き寄せる。彼の冷たい魔力が、エルナの痛みを和らげるように流れ込んできた。シオンの顔は蒼白で、その瞳にはかつてないほどの恐怖が浮かんでいる。エルナが傷つくことへの恐怖だ。
「……馬鹿な真似を。私の後ろにいればいいと言っただろう」 「殿下の後ろに隠れているだけじゃ、私はいつまでも『あなたの所有物』のままですわ。……それより、見てください。空が……」
エルナが指差した先。リベルタスの夜空に巨大な「亀裂」が走っていた。世界のシナリオを物理的に破壊したことで、この空間そのものが崩壊を始めていたのだ。
「ここも長くは持たん。……エルナ、ユリ、そして倒れた隣国の王子。全員まとめて転送する」
シオンは自らの血を媒介にした禁忌の魔術を発動させた。向かう先は、逃げてきたはずの故郷、アステリア王国。そこにある「始原の神殿」こそが、すべてのループと運命の源であることを、シオンは一度目の人生の終わりに突き止めていたのだ。
「さよなら、自由都市。……次は、神様に文句を言いに行きますわよ!」
光の中に消えながら、エルナは強くシオンの手を握り返していた。それは愛ゆえではなく、共に地獄を渡るための「共犯者」としての誓いだった。
「売ったんじゃない、選んだのさ。……さあ、エルナ・フォン・ラインハルト! お前の罪を数えろ。婚約破棄、逃亡、そして世界の秩序を乱した罪を!」
レオンが手を振ると、リベルタスの広場が瞬時に「処刑場」へと変貌した。 幻影の民衆がエルナを罵り、石を投げる。かつてエルナが一度目の人生で経験した、あの地獄の再演だった。
「嫌……っ、やめて!」 エルナは耳を塞ぎ、蹲った。過去の記憶と、世界の修正力がもたらす精神攻撃が彼女を蝕む。
だが、その視界を、白銀の背中が遮った。
「見せしめか、くだらん。……エルナ、目を開けろ。お前が恐れる過去など、私がすべて凍らせてやる!」
シオンが咆哮すると、彼を中心に凄まじい氷の嵐が巻き起こった。 レオンの放つ闇の触手と、シオンの氷の壁が真っ向からぶつかり合い、衝撃波が広場を粉砕する。
「ユリ! エルナの意識を繋ぎ止めろ! 彼女が『自分は悪役だ』と認めた瞬間、運命は確定してしまう!」 「はい、シオン様! お姉様、私の声を聞いてください! あなたは悪役なんかじゃない、私の命の恩人です!」
ユリの祈りのような魔法が、エルナを包み込む。 エルナは震えながらも、顔を上げた。
(そうよ……私は、エルナ。誰かに決められた台本を演じる人形じゃない。私は、私の足で逃げて、私の手で未来を掴む女よ!)
「……シオン殿下、剣を。私が、このシナリオの『結末』を書き換えてあげますわ!」
エルナは、シオンが持っていた予備の短剣をひったくると、レオンの背後に浮かぶ「運命の糸(黒い霧)」に向かって真っ直ぐに突き出した。 愛憎が渦巻く戦場。逃げることをやめた令嬢の、反撃の一撃が炸裂しようとしていた。
「……私の人生に、勝手な注釈をつけないでくださいまし!」
エルナの声が、停止した世界に鋭く響いた。彼女が突き出した短剣は、レオン王子の背後に揺らめく、どろりとした黒い霧――「世界の意志」が紡ぎ出した運命の糸を、真っ向から貫いた。
キィィィィン! と、耳を劈くような金属音が響き渡り、糸が千切れる。その瞬間、レオンの瞳から闇が抜け落ち、彼は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「レオン殿下!」 ユリが駆け寄り、浄化の光を注ぎ込む。一方で、エルナの体にも異変が起きていた。運命に逆らった反動か、彼女の右腕に黒い呪いの紋章が浮かび上がり、焼け付くような激痛が走る。
「ぐっ……、あ……」 「エルナ!」
シオンが即座に彼女を抱き寄せる。彼の冷たい魔力が、エルナの痛みを和らげるように流れ込んできた。シオンの顔は蒼白で、その瞳にはかつてないほどの恐怖が浮かんでいる。エルナが傷つくことへの恐怖だ。
「……馬鹿な真似を。私の後ろにいればいいと言っただろう」 「殿下の後ろに隠れているだけじゃ、私はいつまでも『あなたの所有物』のままですわ。……それより、見てください。空が……」
エルナが指差した先。リベルタスの夜空に巨大な「亀裂」が走っていた。世界のシナリオを物理的に破壊したことで、この空間そのものが崩壊を始めていたのだ。
「ここも長くは持たん。……エルナ、ユリ、そして倒れた隣国の王子。全員まとめて転送する」
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