17 / 50
17
しおりを挟む
ついに、水平線の彼方に緑豊かな大地が見えてきた。 アステリア王国の古文書にすら記されていない、伝説の「未踏の大陸」。 そこは、世界の意志から切り離された、真の意味での自由が眠る場所のはずだった。
「お姉様、見えました! あれが新しい世界ですね!」 ユリが歓喜の声を上げる。レオンも、甲板で清々しい風を受けながら笑っていた。
「……ようやく辿り着いたな、エルナ」 体調を回復させたシオンが、エルナの隣に立つ。彼の髪は元の黒に戻っていたが、その魔力は以前よりも研ぎ澄まされ、どこか不穏な輝きを放っていた。
船が海岸に接岸し、四人はついに新しい土を踏んだ。 そこには、見たこともない色彩の植物が咲き乱れ、空中には透明な精霊たちが舞っている。
「ここなら、王宮の作法も、悪役令嬢の役割も関係ありませんわ! 私は、私の好きなように生きるんですから!」
エルナが両手を広げて叫んだその時――。 森の奥から、数人の人影が現れた。 彼らは人間ではなかった。頭部に美しい角を持ち、肌には銀色の鱗が輝く、古代種族「ドラゴニュート」。
「……異邦の民よ。この地へ足を踏み入れるとは、命知らずなことだ」
リーダー格の男が、巨大な槍を地面に突き立てる。 「この大陸は、かつて世界を捨てた『本物の神』が住まう場所。定命の者が触れていい領域ではない」
同時に、空が急激に暗転した。 アステリア王国から追ってきたはずの「世界の修正力」が、ここではより強固な実体を持って、空から巨大な目の形となって彼らを見下ろしていた。
「……ふっ、退屈しなくていいな」 シオンが不敵に笑い、エルナの肩を抱く。 「エルナ。どうやら新しい世界でも、私はお前を守るために剣を振るう必要がありそうだ」
「望むところですわ! シオン殿下、そして皆さま! 逃避行はまだまだ序盤ですわよ!」
新大陸での過酷な生存競争、そして世界の真実を巡る戦い。 エルナとシオンの「愛と執着」の旅路は、ここから更なる激動の展開へと突き進んでいくのであった。
未知の大陸、その名も『レガリア』。上陸したエルナたちを待ち受けていたのは、屈強な肉体と銀の鱗を持つ古代種族、ドラゴニュート(竜人族)の戦士たちだった。 彼らの集落へと連行された四人は、巨大な竜の骨で組まれた長屋に閉じ込められる。
「シオン様、あの方たちの槍……魔力が込められていて、私の浄化魔法を弾くんです。ここでの『魔法』は、私たちが知っているものとは法則が違うみたい」 ユリが不安げに呟く。一方でシオンは、脱出の機会を窺うというよりは、隣に座るエルナの指先を執拗に弄んでいた。
「……殿下、こんな状況でよくそんなに落ち着いていられますわね。下手したら食べられてしまいますわよ?」 「案ずるな、エルナ。奴らがその汚い牙をお前に向けた瞬間、この村ごと氷の底に沈めてやる。……それより、お前の指先が少し冷えている。私から離れるからだ」
(この男、状況判断よりも私の体温維持の方が優先順位が高いの!?)
エルナは溜息をつき、拘束されている縄を現代知識で習得した「サバイバル術」であっさり解いた。そして、集落の長である剛健な男、ガルドの前に進み出る。
「長(オサ)とお呼びすればよろしいかしら? 私たちを殺すのは勝手ですが、その前に損得勘定をなさいませんか?」
エルナは馬車からこっそり持ち出していた、アステリア王国の特産品である「岩塩」と「乾燥スパイス」を差し出した。 この大陸は魔力は豊富だが、味覚の文化は原始的だった。ガルドが恐る恐るスパイスの効いた干し肉を口にした瞬間、その瞳に衝撃が走る。
「……なんだ、この熱い刺激は。脳が焼けるような……だが、止まらん!」
「それは『胡椒』と『唐辛子』の魔法ですわ。私を殺さず、協力者として扱うなら、この大陸の食文化を一変させて差し上げますわよ」
こうしてエルナは、「悪役令嬢」の外交手腕とスパイスの力で、敵意に満ちた竜人族の心(と胃袋)を掴むことに成功した。しかし、それを見つめるシオンの瞳は、エルナが自分以外の男と交渉していることへの嫉妬で、ドロドロに濁っていた。
「お姉様、見えました! あれが新しい世界ですね!」 ユリが歓喜の声を上げる。レオンも、甲板で清々しい風を受けながら笑っていた。
「……ようやく辿り着いたな、エルナ」 体調を回復させたシオンが、エルナの隣に立つ。彼の髪は元の黒に戻っていたが、その魔力は以前よりも研ぎ澄まされ、どこか不穏な輝きを放っていた。
船が海岸に接岸し、四人はついに新しい土を踏んだ。 そこには、見たこともない色彩の植物が咲き乱れ、空中には透明な精霊たちが舞っている。
「ここなら、王宮の作法も、悪役令嬢の役割も関係ありませんわ! 私は、私の好きなように生きるんですから!」
エルナが両手を広げて叫んだその時――。 森の奥から、数人の人影が現れた。 彼らは人間ではなかった。頭部に美しい角を持ち、肌には銀色の鱗が輝く、古代種族「ドラゴニュート」。
「……異邦の民よ。この地へ足を踏み入れるとは、命知らずなことだ」
リーダー格の男が、巨大な槍を地面に突き立てる。 「この大陸は、かつて世界を捨てた『本物の神』が住まう場所。定命の者が触れていい領域ではない」
同時に、空が急激に暗転した。 アステリア王国から追ってきたはずの「世界の修正力」が、ここではより強固な実体を持って、空から巨大な目の形となって彼らを見下ろしていた。
「……ふっ、退屈しなくていいな」 シオンが不敵に笑い、エルナの肩を抱く。 「エルナ。どうやら新しい世界でも、私はお前を守るために剣を振るう必要がありそうだ」
「望むところですわ! シオン殿下、そして皆さま! 逃避行はまだまだ序盤ですわよ!」
新大陸での過酷な生存競争、そして世界の真実を巡る戦い。 エルナとシオンの「愛と執着」の旅路は、ここから更なる激動の展開へと突き進んでいくのであった。
未知の大陸、その名も『レガリア』。上陸したエルナたちを待ち受けていたのは、屈強な肉体と銀の鱗を持つ古代種族、ドラゴニュート(竜人族)の戦士たちだった。 彼らの集落へと連行された四人は、巨大な竜の骨で組まれた長屋に閉じ込められる。
「シオン様、あの方たちの槍……魔力が込められていて、私の浄化魔法を弾くんです。ここでの『魔法』は、私たちが知っているものとは法則が違うみたい」 ユリが不安げに呟く。一方でシオンは、脱出の機会を窺うというよりは、隣に座るエルナの指先を執拗に弄んでいた。
「……殿下、こんな状況でよくそんなに落ち着いていられますわね。下手したら食べられてしまいますわよ?」 「案ずるな、エルナ。奴らがその汚い牙をお前に向けた瞬間、この村ごと氷の底に沈めてやる。……それより、お前の指先が少し冷えている。私から離れるからだ」
(この男、状況判断よりも私の体温維持の方が優先順位が高いの!?)
エルナは溜息をつき、拘束されている縄を現代知識で習得した「サバイバル術」であっさり解いた。そして、集落の長である剛健な男、ガルドの前に進み出る。
「長(オサ)とお呼びすればよろしいかしら? 私たちを殺すのは勝手ですが、その前に損得勘定をなさいませんか?」
エルナは馬車からこっそり持ち出していた、アステリア王国の特産品である「岩塩」と「乾燥スパイス」を差し出した。 この大陸は魔力は豊富だが、味覚の文化は原始的だった。ガルドが恐る恐るスパイスの効いた干し肉を口にした瞬間、その瞳に衝撃が走る。
「……なんだ、この熱い刺激は。脳が焼けるような……だが、止まらん!」
「それは『胡椒』と『唐辛子』の魔法ですわ。私を殺さず、協力者として扱うなら、この大陸の食文化を一変させて差し上げますわよ」
こうしてエルナは、「悪役令嬢」の外交手腕とスパイスの力で、敵意に満ちた竜人族の心(と胃袋)を掴むことに成功した。しかし、それを見つめるシオンの瞳は、エルナが自分以外の男と交渉していることへの嫉妬で、ドロドロに濁っていた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる