10 / 100
010 頭痛
しおりを挟む
次の日の午前中から、さっそく仕事に取り掛かることにした。
朝食はパンと卵焼き、そして濃いめのコーヒーを一杯飲んで、身支度を済ませる。
鏡の前に立ち頭髪に乱れがないか確認していると後ろから「なにカッコつけてんですか」というレミーの声が聞こえたが、まあ、いい。
まずは大通りの教会の前でマリアたち3姉妹と落ち合った。
やはり昨夜の服装はステージ衣装だったのだろう。
今日は3人とも落ち着いた服装だが、それでもどこか華やかで3人揃っていると人混みの中でもよく目立つ。
「今日はミサがあるみたいなので、とりあえずこの中から探しましょう」
教会に入り、なるべく真ん中あたりの適当な席につく。
教会の中はそこまで広くはない。人数は多いが、充分に射程距離の圏内だろう。
昨夜やった精神感応の応用で、「バルガルド」「龍醒香薬」という言葉に記憶の奥底が反応する人物がいないか確認する。
昨夜レミーに言われた通り、この使い方は確かに通常の精神感応とは違う。
便宜上ではあるが、記憶の反応を見るだけのことは記憶探知、特定の記憶を呼び起こすなどして心を動かすことは精神操作と呼ぶことにした。
そして、カーライル王国に来るまでの旅路でサイクロプスを殺したものは精神破壊。
俺はどれも精神感応の一種だと思うのだけど、「絶対違いますよ」と言い張るレミーの主張に従った形だ。
記憶探知なら、特定の記憶を呼び起こしたりメッセージを送り込んだりするわけではなく、記憶の反応を見るだけなので、やられているほうは特に何かされたという感覚は持たないはずだ。
5人…10人…と記憶探知を行っていく。
神父の説教が続いている。
ただし、口では「神様はいつもあなたを見ています。それは戒めでもあり愛でもあり…」などと話しているが、心の中の「あの信者のおっぱいすげえな」という声が記憶探知のついでに聞こえてしまったのは内緒だ。
ちなみに、「あの信者」とはマリアたち3姉妹の次女、エレン。
俺が神父様の言葉で一番共感できたのはその心の声だったことも内緒だ。
それはともかく、教会にいる全員の記憶探知が完了した。
小声で「終わったよ」とマリアに伝え、神父の説教に眠りこけていたバーバラを起こし、席を立って教会を出た。…父の仇を探してる中で寝るなよな。
ここには「バルガルド」や「龍醒香薬」というキーワードに反応する人間はいなかった。
その後も教会に続き、洋服屋やレストランなどの各種店舗を探し回り、広場や道すがらでも記憶探知を行ったが、見つからない。
ただ、裏町の倉庫街まで歩いてきた時だった。
まだ夕暮れには少し早いが背の高い倉庫に日差しが阻まれて薄暗い路地に差し掛かったあたり、突然の頭痛が俺を襲った。
歩みを止めて頭を抱えて膝をつく。頭の中に映像が流れ込む。
男の手。札束。小さな紙袋、白い粉。ニヤニヤ笑うチンピラ風の男たち。神経質そうな顔のギルド職員の男。ギルド職員。俺に「平民のくせに通信魔術なんかで食っていこうとしたのが間違いだよ」と言った男。
「大丈夫ですか!?」
マリアが俺の身体を支える。
「…大丈夫、大丈夫だよ」
頭痛はもう治まっている。一瞬の頭痛だった。
「すいません、ご無理させてしまいましたね。魔力切れですか?」
「…いや、違う。魔力はまだ1/3も消費してない」
確かに使い慣れない記憶探知を朝からずっと使い続けているが、そんなことで俺の魔力が尽きるわけがない。
ラノアール王国での10年間。毎日14時間以上の過重労働。こんな程度で魔力が尽きるようでは仕事になるはずがない。
「それなら、何かご病気ですかね…」
心配そうに次女のエレンが俺の顔を覗き込む。
「いや、それも違うと思う。たぶん、記憶探知を発動したまま歩いていたせいで、この場所の残留思念が流れ込んできたんだと思う」
残留思念。この能力もまた記憶探知とは違う。
残留思念感応といったところか。
頭痛とともに流れ込んできた映像は、おそらくこの場所で行われた龍醒香薬の取引の場面だ。
あのギルド職員め、俺に偉そうなこと言いながらヤク中だったんじゃねーか。
朝食はパンと卵焼き、そして濃いめのコーヒーを一杯飲んで、身支度を済ませる。
鏡の前に立ち頭髪に乱れがないか確認していると後ろから「なにカッコつけてんですか」というレミーの声が聞こえたが、まあ、いい。
まずは大通りの教会の前でマリアたち3姉妹と落ち合った。
やはり昨夜の服装はステージ衣装だったのだろう。
今日は3人とも落ち着いた服装だが、それでもどこか華やかで3人揃っていると人混みの中でもよく目立つ。
「今日はミサがあるみたいなので、とりあえずこの中から探しましょう」
教会に入り、なるべく真ん中あたりの適当な席につく。
教会の中はそこまで広くはない。人数は多いが、充分に射程距離の圏内だろう。
昨夜やった精神感応の応用で、「バルガルド」「龍醒香薬」という言葉に記憶の奥底が反応する人物がいないか確認する。
昨夜レミーに言われた通り、この使い方は確かに通常の精神感応とは違う。
便宜上ではあるが、記憶の反応を見るだけのことは記憶探知、特定の記憶を呼び起こすなどして心を動かすことは精神操作と呼ぶことにした。
そして、カーライル王国に来るまでの旅路でサイクロプスを殺したものは精神破壊。
俺はどれも精神感応の一種だと思うのだけど、「絶対違いますよ」と言い張るレミーの主張に従った形だ。
記憶探知なら、特定の記憶を呼び起こしたりメッセージを送り込んだりするわけではなく、記憶の反応を見るだけなので、やられているほうは特に何かされたという感覚は持たないはずだ。
5人…10人…と記憶探知を行っていく。
神父の説教が続いている。
ただし、口では「神様はいつもあなたを見ています。それは戒めでもあり愛でもあり…」などと話しているが、心の中の「あの信者のおっぱいすげえな」という声が記憶探知のついでに聞こえてしまったのは内緒だ。
ちなみに、「あの信者」とはマリアたち3姉妹の次女、エレン。
俺が神父様の言葉で一番共感できたのはその心の声だったことも内緒だ。
それはともかく、教会にいる全員の記憶探知が完了した。
小声で「終わったよ」とマリアに伝え、神父の説教に眠りこけていたバーバラを起こし、席を立って教会を出た。…父の仇を探してる中で寝るなよな。
ここには「バルガルド」や「龍醒香薬」というキーワードに反応する人間はいなかった。
その後も教会に続き、洋服屋やレストランなどの各種店舗を探し回り、広場や道すがらでも記憶探知を行ったが、見つからない。
ただ、裏町の倉庫街まで歩いてきた時だった。
まだ夕暮れには少し早いが背の高い倉庫に日差しが阻まれて薄暗い路地に差し掛かったあたり、突然の頭痛が俺を襲った。
歩みを止めて頭を抱えて膝をつく。頭の中に映像が流れ込む。
男の手。札束。小さな紙袋、白い粉。ニヤニヤ笑うチンピラ風の男たち。神経質そうな顔のギルド職員の男。ギルド職員。俺に「平民のくせに通信魔術なんかで食っていこうとしたのが間違いだよ」と言った男。
「大丈夫ですか!?」
マリアが俺の身体を支える。
「…大丈夫、大丈夫だよ」
頭痛はもう治まっている。一瞬の頭痛だった。
「すいません、ご無理させてしまいましたね。魔力切れですか?」
「…いや、違う。魔力はまだ1/3も消費してない」
確かに使い慣れない記憶探知を朝からずっと使い続けているが、そんなことで俺の魔力が尽きるわけがない。
ラノアール王国での10年間。毎日14時間以上の過重労働。こんな程度で魔力が尽きるようでは仕事になるはずがない。
「それなら、何かご病気ですかね…」
心配そうに次女のエレンが俺の顔を覗き込む。
「いや、それも違うと思う。たぶん、記憶探知を発動したまま歩いていたせいで、この場所の残留思念が流れ込んできたんだと思う」
残留思念。この能力もまた記憶探知とは違う。
残留思念感応といったところか。
頭痛とともに流れ込んできた映像は、おそらくこの場所で行われた龍醒香薬の取引の場面だ。
あのギルド職員め、俺に偉そうなこと言いながらヤク中だったんじゃねーか。
10
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる