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016 黒竜さん
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黒竜への扉を開く前に、各自装備を確認する。
ジョシュアは長剣、ベアは大斧、マグノリアはロッドをその手に構え、フローレンスが胸の谷間からロザリオを出して祈ると、十字架が輝きを放って大きな光の盾が現れた。
レミーは左の肩にかけている大砲のような魔導具をジャキンッと鳴らし、右手には小型の銃のような魔導具を構える。首からはこの前の障壁阻害弾だろうか、他の種類のものもあるようだが、たくさんの球型の魔導具をぶら下げている。
俺だけが丸腰だ。
「ちょっと!なんか、俺を!俺を守る魔導具とかはないの!?」
「ん?」と言ってレミーがこちらを振り返り、ジャケットのポケットからカードの束を取り出す。
「じゃあ、この障壁護符をいくつか渡しておきますね。地面に叩きつければ強力な魔力障壁が出ますから」
「あ、ありがと」
「ま、黒竜のブレスが止められるかどうかはわかんないですけど」と言うレミーに、「え、わかんないじゃ困るよ!」と抗議する俺の声も虚しく、マグノリアが扉の紋章に手をかざし、ゴゴゴゴゴ…と音を立てて扉が開いていく。
扉の向こうは、いくつも魔力の篝火が灯る広大な空間だった。
その奥に魔力の光を浴びて黒く輝く大きな竜が寝そべっている。
分厚そうな瞼をゆっくりと開けた黒竜の声が俺たちの脳内に響く。
黒竜による精神感応の声だった。
<…ほう。また我のエサになりに人間どもがやってきたか>
「誰がエサになどなるか!俺たちはお前を倒しに来たんだ!」
ジョシュアが長剣を振りかぶって駆け出す。
ベアがその後に続き、マグノリアが詠唱しながら左へ、フローレンスとレミーが右へと展開する。
俺は扉を入ったところから一歩も動けずにいると、すぐ背後でガコォン!と扉が勢いよく閉まる。逃げられないじゃん!
「喰らえ!」
まだ黒竜まで距離があるが、ジョシュアが走りながら剣を振り抜く。
剣閃が光を放って黒竜に飛ぶ。
同時に詠唱を完了させたマグノリアの魔術、氷結槍刺が飛ぶ。
<…つまらぬ>
黒竜に届くこともなく、空中で剣閃と氷結槍刺がパシンッ!と音を立ててかき消される。
黒竜が大きな口を開け咆哮すると、広大な空間内に衝撃波が届く。
俺はすぐに障壁護符を地面に投げて魔力障壁を発生させたが、一瞬遅かったのか、発生したばかりの障壁は黒竜の衝撃波に砕かれ、俺の身体はそのまま背後の扉に叩きつけられる。
メキャッ!と変な音がして、たぶん骨がどこか折れた。
激痛に耐えて立ち上がろうと膝をつくと、ジョシュア、ベア、マグノリア、フローレンスも壁に叩きつけられたのだろう、地面に倒れ込んでいる。
立っているのはレミーだけ。見れば足元の地面には3枚の障壁護符が刺さっている。重ねがけできるのか、言ってよ事前に。
<それで終わりか?人間どもよ…>
そうだ。向こうの精神感応が聞こえてくるなら、おそらくこちらからも通るはずだ。
<もう終わって帰りたいのは山々だけどね…精神破壊!>
再び黒竜が咆哮する。
今度は衝撃波は飛んでこない。苦しんでいるようだ。
<グオォオオォッ!矮小な人間ごときが、我の精神に押し勝とうというのか…!>
ぐぐぐぐぐっ。精神破壊が押し返される感覚。
負けじとさらに大量の魔力を押し込める。
<ぐぬおおっ!貴様ぁ!>
俺と黒竜の間の中空に青い火花が飛び散る。その右側から。
「終わりです!魔光爆炎砲!」
ズドーンッ!という轟音とともに、レミーが左肩にかけた大砲のような魔導具から白く輝く光の炎を放つ。
<ぐあっ!>
左側頭部に直撃をくらった黒竜がよろめき、俺に対抗していた魔力が弱まる。
精神破壊の魔力が黒竜の精神の奥深くまで通り、その刹那、黒竜の記憶の断片が俺に流れ込む。
耳の尖った小さな少女。エルフか。花畑。傷付き血を流す自分の黒い翼。エルフの少女の手。笑顔。あたたかい記憶。戦火。燃え上がるエルフの村。逃走。迷宮。巨大な黒い機械の箱。吸い込まれるエルフ。守らなければという決意。悠久の時間。挑み来る冒険者たち。
俺は精神破壊を止めた。
<…ぐっ、な、なぜ殺さぬ>
「…殺せないよ、黒竜さん。あんた、悪い竜じゃないもん」
どういうことだ、と、ジョシュアたちは地面に這いつくばったまま俺のほうを見る。
「悪いのは、俺たち、人間たちだ」
ジョシュアは長剣、ベアは大斧、マグノリアはロッドをその手に構え、フローレンスが胸の谷間からロザリオを出して祈ると、十字架が輝きを放って大きな光の盾が現れた。
レミーは左の肩にかけている大砲のような魔導具をジャキンッと鳴らし、右手には小型の銃のような魔導具を構える。首からはこの前の障壁阻害弾だろうか、他の種類のものもあるようだが、たくさんの球型の魔導具をぶら下げている。
俺だけが丸腰だ。
「ちょっと!なんか、俺を!俺を守る魔導具とかはないの!?」
「ん?」と言ってレミーがこちらを振り返り、ジャケットのポケットからカードの束を取り出す。
「じゃあ、この障壁護符をいくつか渡しておきますね。地面に叩きつければ強力な魔力障壁が出ますから」
「あ、ありがと」
「ま、黒竜のブレスが止められるかどうかはわかんないですけど」と言うレミーに、「え、わかんないじゃ困るよ!」と抗議する俺の声も虚しく、マグノリアが扉の紋章に手をかざし、ゴゴゴゴゴ…と音を立てて扉が開いていく。
扉の向こうは、いくつも魔力の篝火が灯る広大な空間だった。
その奥に魔力の光を浴びて黒く輝く大きな竜が寝そべっている。
分厚そうな瞼をゆっくりと開けた黒竜の声が俺たちの脳内に響く。
黒竜による精神感応の声だった。
<…ほう。また我のエサになりに人間どもがやってきたか>
「誰がエサになどなるか!俺たちはお前を倒しに来たんだ!」
ジョシュアが長剣を振りかぶって駆け出す。
ベアがその後に続き、マグノリアが詠唱しながら左へ、フローレンスとレミーが右へと展開する。
俺は扉を入ったところから一歩も動けずにいると、すぐ背後でガコォン!と扉が勢いよく閉まる。逃げられないじゃん!
「喰らえ!」
まだ黒竜まで距離があるが、ジョシュアが走りながら剣を振り抜く。
剣閃が光を放って黒竜に飛ぶ。
同時に詠唱を完了させたマグノリアの魔術、氷結槍刺が飛ぶ。
<…つまらぬ>
黒竜に届くこともなく、空中で剣閃と氷結槍刺がパシンッ!と音を立ててかき消される。
黒竜が大きな口を開け咆哮すると、広大な空間内に衝撃波が届く。
俺はすぐに障壁護符を地面に投げて魔力障壁を発生させたが、一瞬遅かったのか、発生したばかりの障壁は黒竜の衝撃波に砕かれ、俺の身体はそのまま背後の扉に叩きつけられる。
メキャッ!と変な音がして、たぶん骨がどこか折れた。
激痛に耐えて立ち上がろうと膝をつくと、ジョシュア、ベア、マグノリア、フローレンスも壁に叩きつけられたのだろう、地面に倒れ込んでいる。
立っているのはレミーだけ。見れば足元の地面には3枚の障壁護符が刺さっている。重ねがけできるのか、言ってよ事前に。
<それで終わりか?人間どもよ…>
そうだ。向こうの精神感応が聞こえてくるなら、おそらくこちらからも通るはずだ。
<もう終わって帰りたいのは山々だけどね…精神破壊!>
再び黒竜が咆哮する。
今度は衝撃波は飛んでこない。苦しんでいるようだ。
<グオォオオォッ!矮小な人間ごときが、我の精神に押し勝とうというのか…!>
ぐぐぐぐぐっ。精神破壊が押し返される感覚。
負けじとさらに大量の魔力を押し込める。
<ぐぬおおっ!貴様ぁ!>
俺と黒竜の間の中空に青い火花が飛び散る。その右側から。
「終わりです!魔光爆炎砲!」
ズドーンッ!という轟音とともに、レミーが左肩にかけた大砲のような魔導具から白く輝く光の炎を放つ。
<ぐあっ!>
左側頭部に直撃をくらった黒竜がよろめき、俺に対抗していた魔力が弱まる。
精神破壊の魔力が黒竜の精神の奥深くまで通り、その刹那、黒竜の記憶の断片が俺に流れ込む。
耳の尖った小さな少女。エルフか。花畑。傷付き血を流す自分の黒い翼。エルフの少女の手。笑顔。あたたかい記憶。戦火。燃え上がるエルフの村。逃走。迷宮。巨大な黒い機械の箱。吸い込まれるエルフ。守らなければという決意。悠久の時間。挑み来る冒険者たち。
俺は精神破壊を止めた。
<…ぐっ、な、なぜ殺さぬ>
「…殺せないよ、黒竜さん。あんた、悪い竜じゃないもん」
どういうことだ、と、ジョシュアたちは地面に這いつくばったまま俺のほうを見る。
「悪いのは、俺たち、人間たちだ」
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