王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー

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072 闇組織

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「この一連の事件、あまりにタイミングが良すぎるわ。すべて神聖ミリキア教国の仕業で間違いないわね」

シェリルは、鼓膜まで凍りついてしまいそうな冷たい声でそう言った。

焼け落ちた工場に隣接する工員たちの居住地、俺たちはその広場に集まっていた。

その場所には俺、シェリル、レミー、シシリー、バーグルーラ、それと工員の人間たちのリーダーであるカッペル、エルフのミミア、ドワーフのドラウグティフェリもいた。

工場は燃えてしまったが、ミミアをはじめとするエルフたちの空間魔術で迅速に避難が行われ、工員たちに死亡者がいなかったのはせめてもの救いだ。

シェリルの言う通り、確かに神聖ミリキア教国の仕業と考えるのが自然だ。

まず、懸命な消火活動により鎮火した工場の内部や周囲を残留思念感応サイコメトリーで探ってみても何の手がかりも得られなかった。
同じく燃やされた自宅にも反応は何もなかった。
しかも自宅地下の倉庫に格納していた古代機械の片割れであるカストルもまた、魔王城の地下で眠っていたデケウスと同様に奪い去られていた。

「きっと、神聖ミリキア教国の白い法衣は魔力障壁の一種で、あとから何らかの魔術で探知できないような加工がされているんですよ…」

レミーが険しい表情でそう絞り出した。

異端の排除を教義に掲げるミリキア教の手先が、亜人を含めた平等を謳うラノアール民主主義共和国の大統領を暗殺し、その民衆の結束を支える先進的な魔導具を生み出す俺たちの工場を焼き討ちし、あわせて何らかの理由で2つの古代機械を奪い去った。

それら一連の犯行は、俺の残留思念感応サイコメトリーで探れない法衣を着用して行われた。

確かにそう考えれば筋は通っている。

「工場で火を扱う部門にいたのは俺たちドワーフだ。ドワーフが火の扱いを間違えるわけはないし、出火した場所は火の気なんか何もないはずのところだった。誰かが火を放ったのは間違いないんだ」

ドラウグティフェリも怒気を孕んだ声でそう言った。

「ドワーフの王様もよ、今すぐにでも神聖ミリキア教国に向けて出兵するって言ってるぜ」

魔王ネクロードミレーヌもミリキア侵攻を開始すると言っていたし、今回の焼き討ちを受けてカーライル王も王国軍をいつでも出撃できるように準備を進めているそうだ。

「私たちエルフは争いを好まないが、それでも今度ばかりはできる限りの支援をさせて欲しいと女王陛下もおっしゃっている」

ミミアは冷静な声でそう言ったが、握り締めた拳はブルブルと震えている。

「アタシもこんなの許せないよ…!」

いつも笑顔のシシリーも眉間に皺を寄せて怒りをあらわにしている。

<シシリーよ、我がいつでも我の意思で元の大きさに戻れるようにしておけるか?>

バーグルーラのその問いかけに、シシリーは小さく頷いて「できるよ」と言った。

<ふふふ、いざとなれば神聖ミリキア教国の国ごと、我の竜王滅殺砲ドラグニルゼロで消し飛ばしてやるわ>

レミーが立ち上がり、拳を突き上げた。

「こうなったら徹底的にやってやりましょう!全面戦争ですよ!」

レミーに続いてみんなも立ち上がろうとするのを、俺は「ちょっと待ってくれ」と制した。

「何を待つの?もう状況証拠は出揃っているわ」

シェリルが珍しくイラつきを抑えきれない声でそう言った。

「でも、状況証拠だけだ」

全面戦争を仕掛けるには、あまりに確証が足りないと俺は感じていた。
確証と言えそうなものはデケウス盗難の一瞬の記憶の残滓だけで、あとはすべて状況からの推測に過ぎない。
裏で神聖ミリキア教国が糸を引いていたとしても実行犯が別かもしれないし、戦争を仕掛けて「勘違いでした」では済まされない。

「俺ら、もう我慢できないっすよ!もしミミアさんたちがいなかったら、俺ら全員焼け死んでてもおかしくなかったんすよアニキ!!!」

カッペルが立ち上がってそう叫んだ。
俺が「アニキって呼ぶな」と言いかけた瞬間、俺たちに向けて見知らぬ男の声がかけられた。

「失礼、ティモシー・スティーブンソンさんですか?」

声のほうを見れば、上下真っ黒のおかしなデザインの服を着た男。
眼鏡のレンズも薄い黒だ。

「我々、ファミリーのボスがあなたにお会いしたいそうです」

ファミリー。
龍醒香薬ドラグドラッグという麻薬を取り扱ったり人身売買を行ったり、様々な違法行為を働いてこの街で暗躍する闇組織だ。

そのボスが俺に会いたいという。
このタイミングで。

神聖ミリキア教国の手先として、こいつら闇組織が動いて火を放ったのか?
だとしたら、俺はミリキアの前にこいつらを皆殺しにするだろう。

「会ってやるよ、どこにいる」

俺が立ち上がると、黒ずくめの男は「こちらへ」と言って背中を見せて歩いていった。


…………………………………………


男に案内されて入ったのは、カーライルの街の大通りから少し脇道に入ったところにある高級家具の店だった。

ついてきたのは俺とシェリル、レミー、シシリー、バーグルーラのいつもの5人だけ。
カッペル、ミミア、ドラウグティフェリには居住地に残ってもらった。
何かあればお互いすぐに連絡を取り合うことにしている。

その家具店は、並んでいる椅子や机、棚などが明らかに年季の入った高級品であろうこと以外は何の変哲もない普通の商店だった。

店の奥で髪を横分けにして口髭をきれいに整えた初老の男が「お待ちしておりました」と、うやうやしく頭を下げて扉を開くと、上階へと続く狭い階段があらわれた。

黒ずくめの男がこちらを振り返らずにその階段を昇っていく。俺たちもそのあとに続く。
ギシ、ギシ、と階段を踏むたびに板が軋む音が響く。

「どうぞ」

黒ずくめの男が階段を上がってすぐ手前にあるドアを開けた。
その部屋には窓がなく、まだ夕方前だというのに蝋燭の灯りだけで薄暗いが、毛足の長い絨毯や部屋の中央の低いテーブル、それを挟むように置かれた革張りのソファがどれもシンプルでありながら荘厳な雰囲気を醸し出していた。

部屋の中には俺たちを案内してくれた男の他に、壁際に立つ3人、これは髭面の大男ともっと大きなぼんやりした顔の男、小男の3人。そしてソファに沈み込み脚を組んだ刃物のような雰囲気の男が1人いた。全員が同じような黒ずくめの妙なデザインの服を着ている。

「まあ座ってくれ」

ソファの男がそう言った。一目見た年齢は俺と同じくらい、20代後半くらいだろうか。
ただどこか老成した気配を漂わせており、見ようによっては40代にも見える。
身体は大柄だが痩せ型で手足が長く、一切贅肉のない顔はまるで彫刻のようだった。
後ろに撫でつけられた漆黒の髪の下で、同じく真っ黒な瞳は肉食獣のようにギラギラと輝いている。

「よく来たな、俺がこのファミリーを仕切る長瀬龍二ってもんだ」


…………………………………………


この長瀬龍二については以下タイトルの短編を参照ください。

→「現世を追放された時代遅れのヤクザは、異世界の闇で成り上がっていく」
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