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第60話 冗談は見た目だけにしやがれってんだ
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魔境として知られる『バルセール大樹海』。
そこでスタンピードが発生し、合計二千もの凶悪な魔物が領都に迫った。
大災害規模のこの事件だったが、主にこの街の騎士団と冒険者たちの活躍によって事なきを得た。
信じられないことに、二千の魔物を退けるところか、殲滅してしまったのである。
「こ、この度の素晴らしい戦果、大儀であった。お、お陰で大した被害も出ず、領地を護ることができたのだ。りょ、領主としてそなたたちの働きに感謝したい」
大きな身体を椅子に腰を沈めながら、今回の戦いで大きな役割を果たした二人の人物に、自ら労いと謝意を示すのは、領主を務めるアルトレウ侯爵だ。
でっぷりとよく肥えた中年の男で、二人の戦士たちを前に緊張しているのか、やたらと汗が止まらない。
その二人というのは、バルセール騎士団の団長アンジュと、この街の冒険者ギルドのマスターであるバネットだった。
「(この二人、威圧感が半端ないのだがっ!? しかも仲が悪いのか、剣呑な雰囲気が!? やっぱり同時に呼ぶべきではなかったああああああっ!)」
領主の前だというのに、今にも一触即発の空気を醸し出している二人に、侯爵は怯えまくっていた。
この領地の最高権力者であるはずなのだが、実は騎士団と冒険者ギルドには頭が上がらないのである。
なにせどちらも領内で最強の戦力だ。
もし謀反でも起こされたら、領主など簡単にやられてしまうだろう。
「(冒険者ギルドはともかく、騎士団は儂の直属のはずなのだがのう……)」
まったく制御が効かない騎士団長のせいで、領主直属という言葉は名目だけのものになりつつあった。
「(……褒美を与えて、すぐに帰ってもらうとしよう)」
領主との謁見を終え、部屋から出るアンジュとバネット。
先に口を開いたのはアンジュの方だった。
「おい、ババア」
「あ? 誰がババアじゃ、このクソ小娘?」
「あれは誰の仕業か、お前は分かってんだろ?」
「何の話じゃ? そもそも年上に対する口の利き方というものがあるじゃろ? 騎士団長にもなって、そんな当たり前のこともできぬのか?」
「うるせぇ、質問に答えやがれ。あの雷と地割れ……あいつの仕業なんじゃねぇか?」
あのとき何が起こったのか、雷と地震が怖かったせいで、しばらく理解できなかったアンジュだったが、後から部下の騎士たちから得た情報などをまとめることで、一つの結論に至っていた。
「……」
「やっぱそうかよ」
バネットからの返事がないことで、逆にアンジュは確信した。
「【農民】のルイス……オレ様とやり合ったときは、全然本気じゃなかったってことか。とんでもねぇ化け物だ」
「何じゃ、お主? あやつと戦ったのか? なるほど、そういうことか」
「ああ? そういうことかって何だよ?」
「今まで男に負けたことのなかったお主が、初めての敗北を喫した……それであやつに惚れてしもうたわけじゃな」
「ほっ……」
ニヤニヤと笑いながらバネットが口にした言葉に、アンジュは思わず変な声を出してしまう。
「んんんっ、んなわけねぇだろ!? オレ様があいつに惚れたっ!? 冗談は見た目だけにしやがれってんだっ!」
「(なんて分かりやすい反応じゃ……顔も真っ赤じゃし……半分はカマかけのつもりじゃったが、どうやらマジのようじゃの)」
犬猿の間柄のアンジュの初心すぎる反応に、微笑ましいものを見るような目になるバネット。
「惚れたからあやつを騎士団に引き込もうとしたんじゃなかったのか?」
「ちちち、違ぇよ!? 単にあいつの強さに惚れ込んだだけだ!」
「ほら、惚れておるじゃないか」
「その惚れたじゃねぇから! ぶっ殺すぞ!?」
ギャアギャアと叫ぶアンジュ。
しかしそこで、不意に神妙になって。
「……そもそも、あいつは騎士団には要らねぇ」
「む? 諦めたのかの?」
「そうじゃねぇよ。あれほどのやつ、うちの騎士団に置いとくのは役不足ってことだ」
「……ふむ」
「悔しいが、むしろ冒険者の方が実力を発揮できるだろうぜ」
「そうじゃのう」
アンジュの言う通りだと、バネットは頷く。
ルイスの実力は、いち領地の騎士団員に留まっていいレベルではない。
「(もっとも、それは冒険者ギルドでも同じことじゃ。少なくとも、到底この街のギルドだけで収まるような器ではないじゃろうの)」
ーーーーーーーーーーーーー
本作はここで完結となります。お読みいただき、ありがとうございました。
そこでスタンピードが発生し、合計二千もの凶悪な魔物が領都に迫った。
大災害規模のこの事件だったが、主にこの街の騎士団と冒険者たちの活躍によって事なきを得た。
信じられないことに、二千の魔物を退けるところか、殲滅してしまったのである。
「こ、この度の素晴らしい戦果、大儀であった。お、お陰で大した被害も出ず、領地を護ることができたのだ。りょ、領主としてそなたたちの働きに感謝したい」
大きな身体を椅子に腰を沈めながら、今回の戦いで大きな役割を果たした二人の人物に、自ら労いと謝意を示すのは、領主を務めるアルトレウ侯爵だ。
でっぷりとよく肥えた中年の男で、二人の戦士たちを前に緊張しているのか、やたらと汗が止まらない。
その二人というのは、バルセール騎士団の団長アンジュと、この街の冒険者ギルドのマスターであるバネットだった。
「(この二人、威圧感が半端ないのだがっ!? しかも仲が悪いのか、剣呑な雰囲気が!? やっぱり同時に呼ぶべきではなかったああああああっ!)」
領主の前だというのに、今にも一触即発の空気を醸し出している二人に、侯爵は怯えまくっていた。
この領地の最高権力者であるはずなのだが、実は騎士団と冒険者ギルドには頭が上がらないのである。
なにせどちらも領内で最強の戦力だ。
もし謀反でも起こされたら、領主など簡単にやられてしまうだろう。
「(冒険者ギルドはともかく、騎士団は儂の直属のはずなのだがのう……)」
まったく制御が効かない騎士団長のせいで、領主直属という言葉は名目だけのものになりつつあった。
「(……褒美を与えて、すぐに帰ってもらうとしよう)」
領主との謁見を終え、部屋から出るアンジュとバネット。
先に口を開いたのはアンジュの方だった。
「おい、ババア」
「あ? 誰がババアじゃ、このクソ小娘?」
「あれは誰の仕業か、お前は分かってんだろ?」
「何の話じゃ? そもそも年上に対する口の利き方というものがあるじゃろ? 騎士団長にもなって、そんな当たり前のこともできぬのか?」
「うるせぇ、質問に答えやがれ。あの雷と地割れ……あいつの仕業なんじゃねぇか?」
あのとき何が起こったのか、雷と地震が怖かったせいで、しばらく理解できなかったアンジュだったが、後から部下の騎士たちから得た情報などをまとめることで、一つの結論に至っていた。
「……」
「やっぱそうかよ」
バネットからの返事がないことで、逆にアンジュは確信した。
「【農民】のルイス……オレ様とやり合ったときは、全然本気じゃなかったってことか。とんでもねぇ化け物だ」
「何じゃ、お主? あやつと戦ったのか? なるほど、そういうことか」
「ああ? そういうことかって何だよ?」
「今まで男に負けたことのなかったお主が、初めての敗北を喫した……それであやつに惚れてしもうたわけじゃな」
「ほっ……」
ニヤニヤと笑いながらバネットが口にした言葉に、アンジュは思わず変な声を出してしまう。
「んんんっ、んなわけねぇだろ!? オレ様があいつに惚れたっ!? 冗談は見た目だけにしやがれってんだっ!」
「(なんて分かりやすい反応じゃ……顔も真っ赤じゃし……半分はカマかけのつもりじゃったが、どうやらマジのようじゃの)」
犬猿の間柄のアンジュの初心すぎる反応に、微笑ましいものを見るような目になるバネット。
「惚れたからあやつを騎士団に引き込もうとしたんじゃなかったのか?」
「ちちち、違ぇよ!? 単にあいつの強さに惚れ込んだだけだ!」
「ほら、惚れておるじゃないか」
「その惚れたじゃねぇから! ぶっ殺すぞ!?」
ギャアギャアと叫ぶアンジュ。
しかしそこで、不意に神妙になって。
「……そもそも、あいつは騎士団には要らねぇ」
「む? 諦めたのかの?」
「そうじゃねぇよ。あれほどのやつ、うちの騎士団に置いとくのは役不足ってことだ」
「……ふむ」
「悔しいが、むしろ冒険者の方が実力を発揮できるだろうぜ」
「そうじゃのう」
アンジュの言う通りだと、バネットは頷く。
ルイスの実力は、いち領地の騎士団員に留まっていいレベルではない。
「(もっとも、それは冒険者ギルドでも同じことじゃ。少なくとも、到底この街のギルドだけで収まるような器ではないじゃろうの)」
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本作はここで完結となります。お読みいただき、ありがとうございました。
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清清しいまでの力技、好きっすw
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