【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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8.妹と義妹

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フィンに連れてこられたのは、高級そうな仕立て屋だった。
 こんなところ、俺には身分不相応すぎて、思わず足を止める。

「いいよそんな高そうなとこ入らなくて! 着替えなんだから、古着で十分だって!」

「いいんだ。君に似合う服を贈りたいだけだから」

 そう言って、フィンはためらいもなくお店の中へ進んでいった。

「いらっしゃいませ、あの、ご予約は——」

 フィンは懐から何かカードのようなものを取り出した。
 それを見た店員の顔が、一瞬で変わる。

「っ! 失礼いたしました。王族の方からのご紹介でいらっしゃいますね」

 え、王族!?
 王族関係の紹介状ってっ! なんでそんなものフィンが持ってるんだよ!?

「急で済まない。これで何とか融通利かせてくれないだろうか。
 この子の服をいくつか仕立てたいんだ。それと、今すぐ着られる服も」

 いやいやいや、俺、着替えが一着あれば十分だって!
 なんで、何着も作る話になってるんだ?
 
 それにしても……”フィン様”。
 やっぱり、男爵家のサーラじゃ釣り合わないくらい高貴な身分なんだろうな。
 せっかく両想いなのに。
 このままじゃ、サーラはフィンと結婚できないのか……?

 ああ、だから、フィンはサーラには素直に気持ちを伝えられないのか。
 それでフィンは外堀から埋めて、なんとかしようとしてるんだな、きっと。
 優秀そうなフィンのことだから、ちゃんと考えて動いてるんだと思う。
 だって、騎士たちの指導の時に言ってた。
 「事前の準備が何より大切」だって。
 最近やけに忙しいのも、そのせいだったりして。

 サーラとフィンが結婚したら、俺はフィンの義兄になる。
 今回の服のプレゼントは、未来の義兄として——
 フィンにふさわしい姿で並ぶためのもの、なんだろう。

 しょうが無い。
 ここはフィンの優しさに甘えて、服を買ってもらうことにしよう。

 サーラの幸せのためだもんな。
 俺、今度こそ”いもうと”を幸せにするって決めたんだから。

 ——いもうと。

 その言葉に、胸が痛む。
 前の世界にいた、本当の妹のことを思い出す。

 あの子は病弱で、長く入院していた。
 両親は入院費を稼ぐために働きづめで、家はいつも静かだった。
 小さな妹は寂しそうに笑って、何度も俺の服の裾を引っ張っていた。

「ねえ、お母さんはなんですぐに帰っちゃうの? 私もお家に帰りたい」

「母さんは、俺たちのために頑張ってくれてるんだ。それにさ、お兄ちゃんの俺がいるだろ? 俺がその分長く一緒にいるからさ」

 俺は妹を励まして、毎日のように見舞いに行ってた。
 俺も、一人で家に留守番してるより、妹の見舞いに行っている方が良かったから。

 そのうち、病院でも「頼もしいお兄ちゃん」なんて褒められるようになって、俺は看護師さんに可愛がられた。
 妹の枕元で宿題をしていると、分からない問題を教えてくれる看護師さんもいたし、俺におやつをくれる看護師さんもいた。
 俺にとっては第二の家みたいなものだったんだ。
 
 社会人になってからも、それは変わらなかった。
 就業時間を過ぎれば、仕事の合間に見舞いに行った。
 なかなか仕事を抜けられずに、夜の面会時間ぎりぎりに駆け込むこともあった。

「お兄ちゃん、また会社に戻るの? ちゃんと休んでよ!」

「だいじょーぶ、家に帰れるときは寝てるから」

 会社に寝泊まりすることが多かった俺は、病院に行くことが息抜きになっていた。
 こっそり売店で買ったパンや弁当を食べていると、妹が腰に手を当てて怒る。

「夕食はちゃんと食べなよ!」

「いやー、また会社に戻るし。家に帰れるときはちゃんと食べてるから」

「そんなこと言って、お兄ちゃん毎日のように会社に戻ってるじゃない。家で休んでよ!!」

 小さな体で俺を叱るその姿が、小動物みたいで可愛かった。
 そんな風に怒られるのも、俺にとっては嬉しかったんだ。


 そんな妹は、あるゲームのキャラに夢中だった。

「この推しが本当に尊いの! 世界一なの!!
 あーあ、元気だったら働いて稼いだお金を、推し活に使えたのになあ。
 でも、こうして毎日推しに会えるだけで元気がもらえるんだから、感謝しないとね」

 妹はちょっとだけ残念そうに、けれど愛おしそうに推しをキラキラした目で見つめていた。
 そして、自慢げに俺にも見せてくれたんだ。
 その推しのことは、全然覚えてないけど。

 その姿は、義妹のサーラと重なる。
 好きなものを語るときの熱。
 それを応援したいと思う気持ち。
 サーラの生き生きと推し活をしている姿を見ると、俺は嬉しくて仕方なかった。
 あの頃も今も、俺の中の“兄”は変わらないんだ。

 社会人になって三年目の俺の誕生日、妹は売店で買った小さなケーキを「サプライズ!」って言って俺に渡してくれた。
 俺、感動して思わず抱きつこうとして——思いっきり避けられたっけな。
 俺、妹のベッドの柵に思いっきり頭をぶつけて、妹に爆笑された。

 でも、次の瞬間、妹は真剣な顔になって言った。

「お兄ちゃん、働きすぎだよ。こんなに無理して、他の人の仕事まで引き受けてさ。
 もし倒れたりしたら……」

 妹は、自分の見舞いが負担になってるんじゃないかってことも心配してるみたいだった。
 だから俺は、笑いながらガッツポーズを作って見せた。

「俺は大丈夫。独り身だし、気楽なもんさ。こうしてお前の笑顔が見れて、息抜きもできてるから!」
 
 ……でも、本当は大丈夫じゃなかったみたいだ。
  俺、それからの記憶が全くないから。
  きっと、俺はあの後――過労で、死んだんだろう。

 妹を残して。
 お互いに支えあってきた妹を。

 今でも思う。
 妹は泣いたんだろうか。
 自分のせいだと責めたりしていないだろうか。
 これは、自分の限界もわからなかった俺のミスだったのに。

 ……ごめんな。
 本当は、もっと生きて、笑わせたかった。
 妹が元気になって、大切な人と歩む姿も見届けたかった。
 ドナーさえ見つかれば、この入院生活も終わりになる予定だったんだ。

 だから、俺は誓う。
 もう二度と、大切な妹を泣かせない。
 今度こそ、この世界で、ちゃんといもうとを幸せにするんだ。
 今いる義妹……サーラを。
 今度こそ、絶対に。
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