【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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20.俺って美女だったんだな。

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 そんなわけで、舞踏会の当日を迎えた。
 朝から屋敷の中は、妙に騒がしい。
 
「舞踏会は夜なんだから、夕方で間に合うだろ? 何でこんなにバタバタしてるんだ?」

 そう言った俺に、サーラがずいっと顔を近づけてきた。

「何をおっしゃいますの、お義兄さま! 美しくなるためには、朝どころか昨日から準備していてもおかしくないんですのよ!」

 その迫力に押されて、俺はそれ以上何も言えず、大人しく鏡の前に立った。

 まあ男だし、モブ顔だし。
 少しくらい頑張らないと、女性には見えないだろうからな。
 仕方ない。ここはサーラに任せるしかない。

 そうしてサーラが用意した”変身セット”がすごかった。

 まずは、サーラのお母さんの形見だというガラスの靴。

「そんな大切なもの、俺に履けるわけないだろ!」

「あら、お義兄様は先ほど普通のハイヒールを履いて歩くことすらできませんでしたよね?女性はハイヒールを履くのが基本ですのに。
 その状態で、更にダンスなどできませんわ。
 この靴はなんと魔道具ですの。
 履いた方に合わせてサイズも変わりますし、歩行もサポートして下さいます。お義兄様でも大丈夫ですわ。
 それに、お義兄さまのお役に立つのであれば、亡くなったお母さまもきっと喜んでくださいます」

 そこまで言われたら、断れない。
 さっき普通のハイヒールを履いて、三歩でギブアップしたばっかりだ。
 あんなつま先立ちで歩くとか、絶対ムリ。
 世の女性ってほんと凄いな。

 サーラのお母様に、心の中で「お借りします」と伝えて、ガラスの靴を履く。
 履いた途端、俺の足にぴったりのサイズに変わった。
 一番驚いたのは、俺が歩こうとしなくても、「あっちに行きたい」と思うだけで自然に足が動くことだった。

 いや、便利すぎるだろ。

 サーラに聞くと、ずいぶん古い魔道具らしい。
 昔は魔法が今より身近だったからかな。
 これは大切に使わせてもらわないとだ!

 それから、俺はコルセットを装着した。
 ただ身につけただけで、俺のウエストはギュッと押さえられた。

「うぇぇっ、これって苦しいものなんだな」

「お義兄様、まだまだウエストを絞れますわよ。さあ、息を吸ってー、吐いてぇーー!!」

俺が息を吐いた瞬間、サーラがぎゅうっとコルセットの紐を締め上げた。

「ぎゃーーっ!!」

 俺は思わず、悲鳴を上げる。
 このやり取りを三回も繰り返した。
 こんなの、呼吸するだけでもひと苦労だ。
 世の中の女性、こんな苦しい思いをしてドレス着てるのかよ?
 ほんと、尊敬するわ。

 それから、水色のドレスに袖を通し、金の髪のカツラをかぶせられる。
 首元までレースをあしらったドレスのおかげで、喉ぼとけは隠れた。
 訓練してもちっとも筋肉のつかなかった俺の身体は、ドレスを着ると不思議とスレンダーな女性体型になった。

 ドレスを着た俺は、遠目には女性に見えるんじゃ無いかなって、鏡を見て思った。
 化粧前の俺の顔は地味な男だったけどな。

 サーラは俺を見て満足そうに笑い、俺を椅子に座らせてきた。

「では、あとはお化粧ですわね。お義兄様はお化粧映えすると思いますのよ!」

 サーラは拳を握って気合いを入れてるけど、化粧映えってなんだ?
 俺にはちっとも分からん。
 まあ、ここまで来たらもうもうサーラに任せるしかない。


 サーラが迷いなく色んなものを塗りたくっていく。
 まつ毛にはつけまつげ。
 目の色を変える目薬まで使われた。
 俺の瞳は淡い青に変わり、肌はつやつやになった。
 どうやら、これもサーラの母愛用の魔道具だったらしい。
 使用期限とかあるんじゃ無いか?って心配してたけど、未開封なら十年はもつから、大丈夫なんだってさ。

 しかしサーラのお母さんは、ずいぶんおしゃれに気をつかってたんだな。
 けど、世の女性は、いつの時代もおしゃれのためなら頑張るから、これが普通なのかもしれないな。

 俺の母さんは俺を育てるのに手一杯で、おしゃれなんか後回しだったけど。
 それでも、昔は自分でクリーム作って塗り込んでたな。
 そんなことを思い出しながら鏡を覗き込んだ俺は、思わず息をのんだ。

 ーー誰だ、この絶世の美女。

 いや、ほんと。化粧ってすごい。

 もともとの丸い目は大きく強調されて、なぜかうるんで見える。
 まつ毛は増えて、めちゃくちゃ長い。
 鼻はなぜか高く見えるし、青白いはずの肌は透き通るような肌に代わっていた。
 唇なんてプルンとつややかで、つい触りたくなる。

 いや、待て。
 これ、俺だよな?

 俺が瞬きをすると、鏡の中の美女も同じように瞬きをする。

 ほんと、すごいな。
 感動してる俺に、サーラはうっとりした声を出した。

「お義兄様、素敵ですわ。いいえ、お義姉様ですわね。
 こんなに美しく成るなんて、わたくし、本当に感動いたしました」

「そ、そうかな?」

 そんなふうに言われたら、俺も悪い気はしない。
 そのまま母さんと馬車に乗り込み、サーラに見送られながら屋敷を出た。

 それにしても、化粧って恐ろしいな。
 世の男たち、女性と結婚する前に一度はスッピン見といた方がいいぞ。

 いや、俺が言うのもなんだけどさ。
 好きな子の顔なら、どんな顔でも、可愛いと思うんだろうけど。
 ここまで別人だったら、一生に一度の大切な初夜でびっくりするだろうからな。
 その反応のせいで相手を悲しませたとしたら、せっかくの初夜が台無しだ。

 まあ、俺はゲイだから関係ないけどさ。
 
 なんてどうでもいいことを考えているうちに、馬車は城門をくぐっていた。

 馬車の窓の外は、金色の灯がいくつもきらめいている。
 夜空に浮かび上がる王城は、まるで別世界のようだった。
 
 まさか、俺がドレス姿で王宮の舞踏会に出る日が来るなんて思いもしなかった。
 ほんの少し前まで、ベッドの中でウジウジしてたってのに。

 ーーフィンもどこかで笑ってるかな。
 俺のこと、見たら絶対に気付かないだろうけどさ。

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