【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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30.フィンの相棒になれたかな?

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 目が覚めてから二週間がたった。
 まだベッドの上の生活だけれど、昼間はもう普通に起きていられるくらい元気だ。
 そして、フィンがずっとそばにいる。

 あの襲撃のあと、「自分が怪我をした」ことにして、休暇をもぎ取ってきたらしい。
 それでも、俺の世話を焼きながら、ベッドの上で政務の指示や書類整理をしている。
 真面目な姿を見るたび、やっぱり尊敬しちゃうんだよね。

 俺の怪我は、ガルディア団長が診てくれている。
 本当なら医師に見せた方がいいんだろうけど、今は誰が敵か分からない。
 だから、できる限り俺の存在は隠しておきたいんだって。

 それに、ガルディア団長は近衛騎士だから、怪我の処置はできるし、医学の知識も持ってる。
 だから、安心して任せられる――はずだったんだけど。

「ガルディアには本当はエリゼオを見せたくない。けれど、怪我の様子がそれでは分からないから仕方ないね。
 診るだけなら許すよ。
 でも薬を塗ったり包帯を巻いたりするのは、私がする。
 指一本でも触れさせないよ」

 「フィン! 何言ってるんだよ」

 思わず声を張り上げた。
 俺のために診てくれるのに、それはないだろ。

 フィンは、しゅんと肩を落としたかと思うと、上目づかいで見てくる。

「ごめん。嫌いにならないで。
 でも、エリゼオには私しか触れさせたくないんだ」

 その顔がもう、ずるい。
 頭に耳、お尻にしっぽが生えてる気がする。
 まさに、飼い主に叱られた犬。
 可愛すぎる。

「っっ! き、嫌いになんかならないよっ!
 でも、ガルディア卿にそんなこと言っちゃだめだよ」

 俺が言うと、フィンはぱっと笑顔になった。
 俺の一言で、コロコロと表情を変えるんだよ。
 かわいいだろ?
 俺の王子様は。

 包帯を巻かれるたび、背中から抱きしめられるような体勢になるのがたまらなくて、心臓がうるさい。
 好きな人に触れられてるってだけで、呼吸が浅くなる。

 ……俺、ゲイだからさ。
 両想いになったら、普通にキスしたり、抱きしめたり、……え、えっちだって普通にあると思ってた。
 けど、フィンはそういう意図で触れてくることは全然無かった。
 怪我しててもさ、キスくらいできるのに。
 俺、フィンにキスをして欲しくて、何となく甘い雰囲気の時に目をつぶってキスをして欲しいってアピールしてみた。
 けれど、そういうときに決まってフィンは、俺からすっと離れていってしまう。
 フィンは俺とキスしたくないのかな?

 フィンの”好き”は、俺の思う”好き”と違うのかもしれない。
 まあ、それも仕方ないかな。
 だって、フィンはゲイじゃないんだろうからさ。
 好きって言ってもらえるだけで、俺は幸せなんだ。

 フィンは跡継ぎを作らなくちゃいけないから、俺と結婚しても、きっと側妃を迎えることになる。
 その時のことを考えたら、フィンとそういう関係にならない方がいいのかもって思った。
 だってさ、もし俺が全部を知ってしまったら……フィンが誰かを抱くとき、きっと耐えられない。
 俺が抱きしめられる度、キスをする度に、他の人にも同じことをしてるのかなって考えちゃうから。
 だから、欲張らない。それが俺たちの関係だ。


 
 俺たちの食事も、すべてガルディア団長が運んできてくれた。
 ただ、なぜかフィンが毒見をしてから俺に食べさせる。

 毒見なんて、むしろ俺がする!って言ったら、

「何言ってるの? 怪我してるのに毒味なんて、自殺行為だよ。
 大丈夫。私は幼い頃から毒耐性の訓練を受けているんだ。そもそも、毒見は他の者もしている。
 これは、私が安心するための確認だから、気にしないで」

 そう言って、一口ずつ俺の皿からとって食べてみせる。
 しかも、「君は細いから」と言って、必ず自分の皿から俺の好物を分けてくれる。
 俺にはスプーンもフォークも持たせてくれず、全部フィンが食べさせてくれるんだ。

 「自分でやるから」と言うたび、「けが人は甘えていいんだよ」と笑って、絶対譲らなかった。
 その笑顔に勝てるわけなんか無くて、俺はもう完全に降参だった。

「君にこうしてご飯を食べさせてあげる日がまた来るなんて夢みたいだ」

 なんて言うフィンは、すごく嬉しそうだった。
 あの王都でのデートの時も食べさせてくれたな。
 多分、こうやって”世話を焼く”のが、フィンの愛し方なんだ。

 フィンは仕事をするときも、俺の頭を膝に乗せたままベッドの上。
 彼は簡易テーブルをベッドに乗せて、サインや確認をしている。
 俺の頭、絶対邪魔だと思うんだよね。
 それに不便と思う。
 それでもフィンは、絶対に離れなかった。
 俺もフィンと離れたくなかったから、俺も何も言わなかったんだ。

 ある日、領地経営の帳簿整理をしていたフィンが眉をひそめた。
 何十枚もある書類を前にして、珍しく苦戦している。

 俺も何か役に立てないかなと思って、一緒に書類を見せてもらった。
 項目ごとに抜き出し、重複部分を整理したら、膨大だった帳簿が数枚にまとまった。

「……これ、君がやったのか? 凄い。こんなやり方、初めて見たよ」

「日誌をそのまま載せてるから、数字が重複してて見づらいんだよ。それを項目ごとに整理したんだ」

「エリゼオは本当に凄いな。
 今までのやり方にこだわってちゃ駄目だよな。
 君にはいつも、驚かされるばかりだ」

 それから、フィンから時々仕事の相談をしてくれるようになった。
 俺はそれがすごく嬉しかった。
 
 守られるだけじゃなくて、隣に立って支え合える。
 そんな”相棒”になれた気がして、胸がじんわりと温かくなった。

◇◇◇

「もうさ、お兄ちゃんがやると、必ず王子の溺愛ルートになるの何で?
 これだとゲームが終わっちゃうじゃん!
 あまあまシーン堪能してないで、早く敵を倒すのよ!
 じゃないと、誰とも結婚できないんだから!
 私はここから推しルートに戻してみせる!」

 妹の声が聞こえてきた気がする。
 時々、妹から王子の好感度を上げてって頼まれて、ゲームをやってたんだ。
 そう言えばせっかく王子の好感度上げたのに、俺、全然喜ばれなかったな。


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