【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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31.だから言いたくなかったんだ

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 ベッドの上でぐだぐだ過ごす生活も、今日で終わりだ。
 ようやく体に力が入るようになって、ガルディア団長からも「もう安静は不要」とお墨付きをもらった。

「よし、動ける!」

 勢いよく立ち上がった俺の腕を、すかさずフィンがつかんだ。

「危ない、まだ完全じゃないだろう」

「いや、歩くだけだから」

「歩くだけで転んだ前例がある」

「……フィン、それ一週間も前の話で、怪我をしてから初めて歩いてみた時の話だよ?
 それからは一回もないじゃないか」

 そんなくだらないやりとりをフィンとしていること自体が楽しくて、なんだか笑いがこみ上げてきた。
 フィンも俺の肩を支えながら、ふっと笑ったあと、少しだけ眉を下げた。

「明日からは公務に戻る。しばらく君と二人きりで過ごせたが、そうもいかなくなる」

「そっか……」

 少し寂しい。けれど、それが本来のフィンの日常なんだ。
 俺は胸を押さえてから、ぱっと顔を上げた。

「じゃあ俺、手伝うよ!」

「え?」

「整理とか! 書類運ぶとか! なんでもやる!」

 フィンがぽかんと目を瞬かせたあと、笑いをこらえるように口元を押さえた。

「君が……私の手伝いを?」

「馬鹿にしたな!? ついこの間だって俺、役に立ったじゃないか」

「いや、そこは信じてる。そうじゃなくて、君が隣で仕事をしてくれるなんて思いもしなかったから」

 よく見たら、フィンは俺を笑ってるんじゃなくて、うれしくて笑うのをこらえてたみたいだった。

「君が、仕事中も私のそばに? そんな幸運があってよいのか?
 私は、君と朝から晩まで一緒にいられるのか?」

 フィンがぶつぶつとつぶやく声を聞いて、俺はこれならやらせてもらえそうだと期待したその時。

「駄目だ」

 突然、フィンの後ろから声が響く。
 うわっ。すっかりあなたの存在を忘れてましたよ。ガルディア団長。
 だって、気配がないんだもん。

「なんでっ。迷惑かけないから」

「失礼ですが、今の状況ではあなたの安全を守ることができません。
 近衛騎士をつけて歩いていたら、あなたが特別な存在だと宣伝して歩くようなものです。
 あの舞踏会の苦労がすべて水の泡だ」

「でも、すでに襲撃されてますよね?
 きっと俺が何か関係あると思って襲撃してきたんじゃないですか?
 こうして隠れていたって、意味ないと思います。
 だったら、自分のできることをフィンのためにしたいんです」

 ガルディア団長は、深く息を吐いた。
 それから、フィンを見つめる。

「殿下。まだ何も話されていないのですか? もうエリゼオ様は当事者です。きちんと説明されてください」

 え? あの襲撃は、俺がフィンと一緒にいるところを狙われたんだ。
 今までの婚約者はみんな、命を狙われたと聞いている。
 ってことは、あの襲撃は俺が婚約者だと気づいたら、敵が襲撃したんじゃないの?

 フィンをじっと見つめると、俺から珍しく目を逸らした。

「フィン……?」

 気まずそうにフィンが頬をかく。

「君には、こんなきな臭い話からは遠ざけたいんだ。
 敵の目的はエリゼオじゃない。だから、大丈夫だ。
 説明も必要ない」

「俺、自分が安全ならそれでいいわけじゃない。
 ちゃんとフィンのことも守りたいんだ。
 それには、説明してくれなきゃわからないよ?
 俺、教えれくれないなら、家に帰るから」

「それは困る! 一緒にいてくれるって約束したじゃないか」

「じゃあ、説明して」

 俺に詰められて、観念したみたいだった。
 フィンは俺をソファに促し、自身も向かいのソファに座ってから、静かに話し始めた。

 どうやら敵の狙いは、最初は婚約者ではなくフィン本人だったらしい。
 けれど、フィンが公式の場に出るときの顔を変えたせいで、フィンの普段の消息が掴めなくなって、狙いを婚約者に変えたんだって。
 普段は素顔でいるからね。
 公式の顔しか知らないと、フィンがどこにいるのか掴めなかったみたい。
 それに、公式行事は少なかったし、あっても警備がきついから、そこで襲撃は難しかったはずだ。
 二十五歳になった時点で結婚できていなければ、王になれないと国で決まっている。
 だから、婚約者を襲撃して結婚を阻止して、フィンを王にさせたくなかったんじゃないかって話だった。


「ねえ。一つ不思議なんだけど。聞いてもいいかな?」

「なんだ?」

「顔を変えたって言ってもさ、幼少期のころは素顔を見せてたんだろう?
 そしたら、フィンの素顔なんてすぐにわかるんじゃないの?」

 俺の質問に、フィンはため息をついた。

「私は幼少期、今と全く見た目が違っていたんだ。
 魔力が多すぎて魔力の循環がうまくいかず、成長が歪んでいた。
 そのせいで、顔も体型も何もかもが今とは違ったんだよ」

「襲撃を受けてからはしばらく部屋にこもっていて、その間に魔力を循環させることができるようになった。
 それで、今の顔に急激に変化したんだ。
 その時の私の素顔を知っていたのは、両親と、そこにいるガルディアだ。
 素顔を公開するまで私が襲われなかった事実があるから、今もガルディアを信頼している」

 なるほど。
 だから敵はフィンの素顔を知らず、婚約者を狙うしかなかったのか。
 それで、先日フィンの素顔を公開したから、さっそく襲撃したのか。

 じゃあ、フィンこそ危ないんじゃないか!?


「エリゼオ様だって、いつ敵に気づかれるか分かりません。しかし、近衛騎士をつけたら、それこそ襲ってくださいというようなものです」

 今日のガルディアはよくしゃべるな。
 まあ、それだけ重要な話ってことか。

「ですから、エリゼオ様には騎士団員を護衛につけたいと再三殿下に申しているのですが……」

 ガルディアはそう言いつつ、視線をフィンに向ける。

「またその話か。私は反対だ。騎士団員であっても、敵ではないとは限らない」

「一人だけ潔白が証明されている団員がいるではないですか」

 え? 
 誰なんだろう?

「早くカリオを呼んでください。カリオをエリゼオ様の侍従として側につけるのです。
 そしてエリゼオ様は、殿下のご学友としてこちらに滞在される。それが最も自然です」

 カリオ!
 確かに、カリオなら俺の友人だし、確か攻略対象者だから、敵ではないはずだ。
 これ以上の人材はいないかも。

「フィン! カリオが俺のそばにいてくれたら、俺、嬉しいな」

 俺が目を輝かせて訴えると、フィンは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。

「だから、言いたくなかったんだ……」
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