【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
36 / 64

35.平穏な日々はそろそろおしまい

しおりを挟む
 翌朝、俺が目を開けると、フィンはすでに服を着がえ、窓辺で軽く体をほぐしていた。

「おはよう。昨夜は遅かったんだ。
 まだ寝ていていいんだよ」

 その柔らかな声で、一気に目が覚める。

「俺、寝坊した!?
 これから仕事だろ? 俺も一緒に行く!」

 慌てて起き上がった俺の額に、フィンが軽くキスを落とす。
 その瞬間、俺は昨夜の甘いやり取りが一気に蘇り、顔が熱くなる。

「焦らなくていい。まだ時間はある。私は少し体を動かしてくるよ」

 見ると、フィンは軽い運動着のような恰好だった。
 もちろん、騎士団の訓練着じゃない。
 もう騎士団には顔は出せないもんな。
 だって、フィンが第一王子ってことは、みんなが知ってしまったんだから。

 それでも、フィンは毎朝ガルディア団長と手合わせし、自主練を欠かさないんだ。
 さすがだよ。

 俺も怪我が完全に治ったら、鍛え直したい。
 守られてばっかりじゃ、いつか大事な場面で逃げ遅れてしまう。

 そんなことをぼんやり考えながら寝室の隣にある自室の扉を開けると──サーラとカリオが揃って立っていた。

「おはようございます、お義兄様。本日より侍女としてお仕えいたしますわ」

 へえ。カリオがそばにいても、サーラは平気になったのか。

 いや、違う。
 サーラ、右側だけめっちゃ震えてんじゃん!
 器用だなあ。

 まあ、叫び出さないだけ成長したよな。

 カリオは侍従服姿。
 俺も、これからフィンの侍従としてついていくことになってる。
 ただし、フィンの嫉妬のせいで俺とカリオの“お揃い”は禁止された。
 俺だけシャツが特別仕様なんだ。
 フィンが持ってるシャツと同じデザインなんだって。
 それでもすごく揉めたんだけどね。
 俺の安全のためって言ったら、しぶしぶフィンは折れたんだ。

「おはよう、サーラ。カリオ。これからよろしくな」

 身支度を終え、訓練から戻ったフィンと朝食を取ると、ガルディアと合流して執務室へ向かった。
 ちなみに、サーラはお留守番だ。


 執務室につくと、フィンの机の上には山のような書類。
 休み中だって、仕事してたよな?
 それなのになんでこんなにあるんだよ!
 そっか。今までは、文官の上司として仕事をしてたって聞いてたけど、今は第一王子として仕事をしてるんだものな。
 仕事量も増えたんだろうな。
 やっぱり、王子って大変なんだな。

 俺は隅で侍従らしく控えつつフィンの仕事ぶりを眺めていた。
 文官から次々と書類が渡され、フィンは即座に判断を下していく。

(ほんと、すごいよな。こんなの毎日やってるのか)

 でも、見ていると気がついた。
 書類はバラバラで、効率が悪い。

 俺はすっと前に出て、書類を種類ごとに仕分けし、必要箇所にチェックを入れてフィンに手渡した。

「……エリゼオ、君はやっぱりすごいな。ありがとう。これで仕事がはかどるよ」

 俺、その一言が嬉しくて、もっと役に立ちたくなる。

 こうして俺たちの日々は穏やかに過ぎていった。

 俺はカリオ相手に訓練をしたりして、それをフィンに見つかっては嫉妬されてた。

 サーラは、侍女の役目を終えて、カリオもいなくなった途端、へなへなと膝から崩れ落ちてた。
 
 それから「お義兄様、侍女の顔を取らせてくださいまし」って言った後に叫ぶのも日常だ。

「はーーー、尊い、尊すぎますわ。
 常にきりっとしたご表情で周囲を警戒していらっしゃいますのに。
 お義兄様に話しかけられた時だけに、優し気な表情になりますの。
 そのときにちらりと見える白い歯!
 そして、ときどき侍女のわたくしにまで気遣いを見せてくださる優しさ!!
 もう、全てが尊いのです!! こんな素敵な方、今まで見たことありませんわ!!
 しかも、わたくし、今、そのかたと一緒の空気を吸っている!!
 罰が当たらないでしょうか!? いいえ、罰が当たっても、わたくし、本望!!
 この思い出だけで、わたくしは百年生き永らえますわーー!!」

 サーラはいつも一気にまくし立ててる。
 叫んでるのに、外に聞こえないように小声なんだよ。
 ほんと、器用だよな。

 そしてガルディア団長は、相変わらず無表情だけど、フィンが嬉しそうに笑っている姿を見たときだけ、目元が緩むことに気が付けた。

 そしてフィンと二人きりになれば、外では触れ合えない反動のように、俺をぎゅっと抱きしめて、たくさんたくさんキスを落とす。
 俺、フィンとの触れ合いは恥ずかしいけど、でも、幸せだった。

 でも、そんな穏やかな日々は長くは続かなかったんだ。

しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...