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35.平穏な日々はそろそろおしまい
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翌朝、俺が目を開けると、フィンはすでに服を着がえ、窓辺で軽く体をほぐしていた。
「おはよう。昨夜は遅かったんだ。
まだ寝ていていいんだよ」
その柔らかな声で、一気に目が覚める。
「俺、寝坊した!?
これから仕事だろ? 俺も一緒に行く!」
慌てて起き上がった俺の額に、フィンが軽くキスを落とす。
その瞬間、俺は昨夜の甘いやり取りが一気に蘇り、顔が熱くなる。
「焦らなくていい。まだ時間はある。私は少し体を動かしてくるよ」
見ると、フィンは軽い運動着のような恰好だった。
もちろん、騎士団の訓練着じゃない。
もう騎士団には顔は出せないもんな。
だって、フィンが第一王子ってことは、みんなが知ってしまったんだから。
それでも、フィンは毎朝ガルディア団長と手合わせし、自主練を欠かさないんだ。
さすがだよ。
俺も怪我が完全に治ったら、鍛え直したい。
守られてばっかりじゃ、いつか大事な場面で逃げ遅れてしまう。
そんなことをぼんやり考えながら寝室の隣にある自室の扉を開けると──サーラとカリオが揃って立っていた。
「おはようございます、お義兄様。本日より侍女としてお仕えいたしますわ」
へえ。カリオがそばにいても、サーラは平気になったのか。
いや、違う。
サーラ、右側だけめっちゃ震えてんじゃん!
器用だなあ。
まあ、叫び出さないだけ成長したよな。
カリオは侍従服姿。
俺も、これからフィンの侍従としてついていくことになってる。
ただし、フィンの嫉妬のせいで俺とカリオの“お揃い”は禁止された。
俺だけシャツが特別仕様なんだ。
フィンが持ってるシャツと同じデザインなんだって。
それでもすごく揉めたんだけどね。
俺の安全のためって言ったら、しぶしぶフィンは折れたんだ。
「おはよう、サーラ。カリオ。これからよろしくな」
身支度を終え、訓練から戻ったフィンと朝食を取ると、ガルディアと合流して執務室へ向かった。
ちなみに、サーラはお留守番だ。
執務室につくと、フィンの机の上には山のような書類。
休み中だって、仕事してたよな?
それなのになんでこんなにあるんだよ!
そっか。今までは、文官の上司として仕事をしてたって聞いてたけど、今は第一王子として仕事をしてるんだものな。
仕事量も増えたんだろうな。
やっぱり、王子って大変なんだな。
俺は隅で侍従らしく控えつつフィンの仕事ぶりを眺めていた。
文官から次々と書類が渡され、フィンは即座に判断を下していく。
(ほんと、すごいよな。こんなの毎日やってるのか)
でも、見ていると気がついた。
書類はバラバラで、効率が悪い。
俺はすっと前に出て、書類を種類ごとに仕分けし、必要箇所にチェックを入れてフィンに手渡した。
「……エリゼオ、君はやっぱりすごいな。ありがとう。これで仕事がはかどるよ」
俺、その一言が嬉しくて、もっと役に立ちたくなる。
こうして俺たちの日々は穏やかに過ぎていった。
俺はカリオ相手に訓練をしたりして、それをフィンに見つかっては嫉妬されてた。
サーラは、侍女の役目を終えて、カリオもいなくなった途端、へなへなと膝から崩れ落ちてた。
それから「お義兄様、侍女の顔を取らせてくださいまし」って言った後に叫ぶのも日常だ。
「はーーー、尊い、尊すぎますわ。
常にきりっとしたご表情で周囲を警戒していらっしゃいますのに。
お義兄様に話しかけられた時だけに、優し気な表情になりますの。
そのときにちらりと見える白い歯!
そして、ときどき侍女のわたくしにまで気遣いを見せてくださる優しさ!!
もう、全てが尊いのです!! こんな素敵な方、今まで見たことありませんわ!!
しかも、わたくし、今、そのかたと一緒の空気を吸っている!!
罰が当たらないでしょうか!? いいえ、罰が当たっても、わたくし、本望!!
この思い出だけで、わたくしは百年生き永らえますわーー!!」
サーラはいつも一気にまくし立ててる。
叫んでるのに、外に聞こえないように小声なんだよ。
ほんと、器用だよな。
そしてガルディア団長は、相変わらず無表情だけど、フィンが嬉しそうに笑っている姿を見たときだけ、目元が緩むことに気が付けた。
そしてフィンと二人きりになれば、外では触れ合えない反動のように、俺をぎゅっと抱きしめて、たくさんたくさんキスを落とす。
俺、フィンとの触れ合いは恥ずかしいけど、でも、幸せだった。
でも、そんな穏やかな日々は長くは続かなかったんだ。
「おはよう。昨夜は遅かったんだ。
まだ寝ていていいんだよ」
その柔らかな声で、一気に目が覚める。
「俺、寝坊した!?
これから仕事だろ? 俺も一緒に行く!」
慌てて起き上がった俺の額に、フィンが軽くキスを落とす。
その瞬間、俺は昨夜の甘いやり取りが一気に蘇り、顔が熱くなる。
「焦らなくていい。まだ時間はある。私は少し体を動かしてくるよ」
見ると、フィンは軽い運動着のような恰好だった。
もちろん、騎士団の訓練着じゃない。
もう騎士団には顔は出せないもんな。
だって、フィンが第一王子ってことは、みんなが知ってしまったんだから。
それでも、フィンは毎朝ガルディア団長と手合わせし、自主練を欠かさないんだ。
さすがだよ。
俺も怪我が完全に治ったら、鍛え直したい。
守られてばっかりじゃ、いつか大事な場面で逃げ遅れてしまう。
そんなことをぼんやり考えながら寝室の隣にある自室の扉を開けると──サーラとカリオが揃って立っていた。
「おはようございます、お義兄様。本日より侍女としてお仕えいたしますわ」
へえ。カリオがそばにいても、サーラは平気になったのか。
いや、違う。
サーラ、右側だけめっちゃ震えてんじゃん!
器用だなあ。
まあ、叫び出さないだけ成長したよな。
カリオは侍従服姿。
俺も、これからフィンの侍従としてついていくことになってる。
ただし、フィンの嫉妬のせいで俺とカリオの“お揃い”は禁止された。
俺だけシャツが特別仕様なんだ。
フィンが持ってるシャツと同じデザインなんだって。
それでもすごく揉めたんだけどね。
俺の安全のためって言ったら、しぶしぶフィンは折れたんだ。
「おはよう、サーラ。カリオ。これからよろしくな」
身支度を終え、訓練から戻ったフィンと朝食を取ると、ガルディアと合流して執務室へ向かった。
ちなみに、サーラはお留守番だ。
執務室につくと、フィンの机の上には山のような書類。
休み中だって、仕事してたよな?
それなのになんでこんなにあるんだよ!
そっか。今までは、文官の上司として仕事をしてたって聞いてたけど、今は第一王子として仕事をしてるんだものな。
仕事量も増えたんだろうな。
やっぱり、王子って大変なんだな。
俺は隅で侍従らしく控えつつフィンの仕事ぶりを眺めていた。
文官から次々と書類が渡され、フィンは即座に判断を下していく。
(ほんと、すごいよな。こんなの毎日やってるのか)
でも、見ていると気がついた。
書類はバラバラで、効率が悪い。
俺はすっと前に出て、書類を種類ごとに仕分けし、必要箇所にチェックを入れてフィンに手渡した。
「……エリゼオ、君はやっぱりすごいな。ありがとう。これで仕事がはかどるよ」
俺、その一言が嬉しくて、もっと役に立ちたくなる。
こうして俺たちの日々は穏やかに過ぎていった。
俺はカリオ相手に訓練をしたりして、それをフィンに見つかっては嫉妬されてた。
サーラは、侍女の役目を終えて、カリオもいなくなった途端、へなへなと膝から崩れ落ちてた。
それから「お義兄様、侍女の顔を取らせてくださいまし」って言った後に叫ぶのも日常だ。
「はーーー、尊い、尊すぎますわ。
常にきりっとしたご表情で周囲を警戒していらっしゃいますのに。
お義兄様に話しかけられた時だけに、優し気な表情になりますの。
そのときにちらりと見える白い歯!
そして、ときどき侍女のわたくしにまで気遣いを見せてくださる優しさ!!
もう、全てが尊いのです!! こんな素敵な方、今まで見たことありませんわ!!
しかも、わたくし、今、そのかたと一緒の空気を吸っている!!
罰が当たらないでしょうか!? いいえ、罰が当たっても、わたくし、本望!!
この思い出だけで、わたくしは百年生き永らえますわーー!!」
サーラはいつも一気にまくし立ててる。
叫んでるのに、外に聞こえないように小声なんだよ。
ほんと、器用だよな。
そしてガルディア団長は、相変わらず無表情だけど、フィンが嬉しそうに笑っている姿を見たときだけ、目元が緩むことに気が付けた。
そしてフィンと二人きりになれば、外では触れ合えない反動のように、俺をぎゅっと抱きしめて、たくさんたくさんキスを落とす。
俺、フィンとの触れ合いは恥ずかしいけど、でも、幸せだった。
でも、そんな穏やかな日々は長くは続かなかったんだ。
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