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40.フィンにとっては大切な過去(後編)
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「それからもう一つ。話しておかなければいけないことがある」
フィンはそっと俺の背中から手を外し、代わりに指を絡めてきた。
「あの襲撃のあと、父上は心配して、しばらく私を外に出さなくなったんだ。ガルディアと両親意外との接触を断ったんだ。
だから私は、ひたすら魔力を流す練習を繰り返した。
君ともう一度会いたくて。
ただそれだけだった」
俺の手を自分の頬に寄せて、静かに擦りつける。
そんな仕草をされたら、心臓に悪い。
「何度も失敗して……それでも続けていたら、ある時ようやく魔力が正しく流れ始めた。
すると、むくみも取れて、成長も追いついた。
自分でも驚くほど変わったんだよ」
小さく笑うフィン。
「だから私は、公の場では“王子の顔”を魔法で作り、普段は自由に動けた。
私の王子としての顔を見て、みんなが手のひらを返すように態度を変えるのが、滑稽だったよ。
まあ、そんなことは私はどうでも良かったんだけどね。
騎士団にこっそり入ったのは、自分が強くなるためだった。
たとえ何があっても、エリゼオ、君をずっと守りたかったから。
自分が強くならねば、君をそばに置いておけないと思ったんだ」
胸の奥がじんわり熱くなる。
「君が伯爵家を出ていったと聞いたときには、必死に探した。
君の父上が亡くなり、叔父が家督を継いでしばらくした時に君が養子だったという話を聞かされてね。
君は伯爵家の跡継ぎにはなれないから、家を出たと聞いたんだよ。
君は母上にそっくりな顔立ちだったし、何かの間違いじゃないかと考えたんだ。
けれど、君の叔父が君は養子であるという証明書の書類に君の母上の署名があってね。
信じないわけにいかなかった」
「俺、ちゃんと両親の子供だよ?
だって、俺が生まれた日は雪が降ってて、産婆がなかなか来られなくて。それで父様が大慌てして、母様が怒鳴って黙らせたんだって何度も母さんから聞いてたからね。
母さん、父様と俺の思い出をいっぱい話して聞かせてくれてたから」
「そうか。
では、やはり叔父の嘘だったんだな。
君の話では、叔父と縁を切ったと君の母上が言っていたしな。
きっと、この偽の書類に署名をすることで、縁を切ろうとしたんだろうその時に嘘を見抜けなかったなんてな。
すまなかった」
「そんなっ」
フィンは眉間を揉んで深く息を吐いて、そのまま言葉を続ける。
俺は、再び口を閉じて、フィンの話を聞くことにした。
「それから私は、君と君の母上の行方を捜した。
乳母の家に無事いると知った時、私は本当に安堵したんだ。
すぐにでも、君を迎えに行きたかった。
けれど、相変わらず私の周りは危険が多かったからね。
私が大切にしている君など、あっという間に狙われてしまうのが分かっていた。
だから、君の父上の親友であったバルロッティ男爵に二人を支えてくれと頼んだんだ。
そして、君の周りが幸福であるために、国を豊かにしなければと思い、政策にも力を入れた」
フィンの指先が震えてる。
どれだけ俺はフィンに心配かけたんだろう。
でも、ずっとフィンに守られてたんだって嬉しかった。
フィンの行動全てが、僕のためにあったようにさえ思えた。
俺は、フィンに握られた手と反対の手でフィンの指先をそっと包んだ。
「本当は、きみにずっと会いたかった。
君がまた、私の知らないところへ行ってしまうのではないかと気が気でなかった。
君が近所の子どもと仲良くなったと聞いたときには、君を攫いに行こうかと思うほどだった。
あ、いや。
今はその話ではないな。
君が大変な時に、私は側にいられなかった。
本当に済まない」
フィンの震える声が、まっすぐ俺に届く。
「そんなの、フィンが悪いわけないよ。
あの頃から俺を守ってくれてたなんて、知らなかった」
「君と再会できたとき……私はどうしようもなく君と一緒にいたいと願ってしまった。
本当は、まだ私の周りは安全じゃなかった。
でも、離れたくなくて……つい、騎士団に君を入れてしまった」
フィンは目を伏せ、懐中時計を取り出した。
「これ。以前何を見ているのかと君に聞かれたことがあったな。
開けば分かるが、私にはずっとエリゼオがいた」
パチリと蓋を開く。
そこには、魔法で焼き付けられた幼い俺の姿があった。
写真のように鮮やかで、今よりも丸い頬を赤くし、笑っている姿だった。
俺は息をのんだ。
この人は、どれだけ俺を愛してくれてたんだろう。
「こんなに……俺のこと……」
「当たり前だ。
君は、私が生きていこうと決めた理由だから」
フィンは俺の指先に軽くキスをして、まっすぐ俺を見つめてきた。
「エリゼオ。
君が過去を話してくれたように……私も、君に全部を伝えたかった。
私が側にいることで、もしかしたら君につらい思いをさせてしまうかもしれない。
それでも、君を手放せないんだ」
その告白は、光みたいにあたたかかった。
俺の胸の奥の、暗く重かった場所が、じわりと溶けていくのを感じた。
「ありがとう、フィン。
昔からずっと。
今も俺のことを好きでいてくれて。
俺、お前のためならなんだってできるよ。
お前の幸せが、俺の幸せなんだから」
俺の言葉に、フィンは息を呑んだようだった。
指先が熱を持ち、それがゆっくり俺の頬をなぞる。
「……エリゼオ。そんなことを言われたら、私は……もう、抑えられないよ」
低く囁く声に、胸の奥がじん、と痺れる。
ベッドの上で二人向かい合わせに座っていたフィンが俺の腰を引き寄せてきた。
唇が触れる。
いつもよりも深く、熱く。
俺は思わず息を飲んだ。
フィンは逃がさないように、俺を抱え込む。
「……フィン、まだ、話したいことがあるんだ」
「……話しながら、でもいいか?」
問いかけのくせに、フィンの声は俺の返事を待つつもりがない。
それでも、拒む理由なんてどこにもなかった。
「……うん。フィンなら、いいよ」
そう言った瞬間、フィンの表情がふっと崩れた。
安堵と、愛しさと、少しの焦りが混ざったような顔だ。
胸元にフィンの額が触れ、そのままそっと押し倒されるように布団へ沈んだ。
「エリゼオ……触れても、いい?」
その聞き方がずるい。
こんな時でも俺を大事にしようとしてくれるんだ。
俺が駄目って言ったら、きっとやめてくれるに違いない。
フィンの優しさに包まれて、泣きそうになる。
そんなフィンだから。
俺はフィンの頬に触れ、指を絡めて言った。
「フィンだから、いいんだよ。……俺も、触れたい」
フィンはそっと俺の背中から手を外し、代わりに指を絡めてきた。
「あの襲撃のあと、父上は心配して、しばらく私を外に出さなくなったんだ。ガルディアと両親意外との接触を断ったんだ。
だから私は、ひたすら魔力を流す練習を繰り返した。
君ともう一度会いたくて。
ただそれだけだった」
俺の手を自分の頬に寄せて、静かに擦りつける。
そんな仕草をされたら、心臓に悪い。
「何度も失敗して……それでも続けていたら、ある時ようやく魔力が正しく流れ始めた。
すると、むくみも取れて、成長も追いついた。
自分でも驚くほど変わったんだよ」
小さく笑うフィン。
「だから私は、公の場では“王子の顔”を魔法で作り、普段は自由に動けた。
私の王子としての顔を見て、みんなが手のひらを返すように態度を変えるのが、滑稽だったよ。
まあ、そんなことは私はどうでも良かったんだけどね。
騎士団にこっそり入ったのは、自分が強くなるためだった。
たとえ何があっても、エリゼオ、君をずっと守りたかったから。
自分が強くならねば、君をそばに置いておけないと思ったんだ」
胸の奥がじんわり熱くなる。
「君が伯爵家を出ていったと聞いたときには、必死に探した。
君の父上が亡くなり、叔父が家督を継いでしばらくした時に君が養子だったという話を聞かされてね。
君は伯爵家の跡継ぎにはなれないから、家を出たと聞いたんだよ。
君は母上にそっくりな顔立ちだったし、何かの間違いじゃないかと考えたんだ。
けれど、君の叔父が君は養子であるという証明書の書類に君の母上の署名があってね。
信じないわけにいかなかった」
「俺、ちゃんと両親の子供だよ?
だって、俺が生まれた日は雪が降ってて、産婆がなかなか来られなくて。それで父様が大慌てして、母様が怒鳴って黙らせたんだって何度も母さんから聞いてたからね。
母さん、父様と俺の思い出をいっぱい話して聞かせてくれてたから」
「そうか。
では、やはり叔父の嘘だったんだな。
君の話では、叔父と縁を切ったと君の母上が言っていたしな。
きっと、この偽の書類に署名をすることで、縁を切ろうとしたんだろうその時に嘘を見抜けなかったなんてな。
すまなかった」
「そんなっ」
フィンは眉間を揉んで深く息を吐いて、そのまま言葉を続ける。
俺は、再び口を閉じて、フィンの話を聞くことにした。
「それから私は、君と君の母上の行方を捜した。
乳母の家に無事いると知った時、私は本当に安堵したんだ。
すぐにでも、君を迎えに行きたかった。
けれど、相変わらず私の周りは危険が多かったからね。
私が大切にしている君など、あっという間に狙われてしまうのが分かっていた。
だから、君の父上の親友であったバルロッティ男爵に二人を支えてくれと頼んだんだ。
そして、君の周りが幸福であるために、国を豊かにしなければと思い、政策にも力を入れた」
フィンの指先が震えてる。
どれだけ俺はフィンに心配かけたんだろう。
でも、ずっとフィンに守られてたんだって嬉しかった。
フィンの行動全てが、僕のためにあったようにさえ思えた。
俺は、フィンに握られた手と反対の手でフィンの指先をそっと包んだ。
「本当は、きみにずっと会いたかった。
君がまた、私の知らないところへ行ってしまうのではないかと気が気でなかった。
君が近所の子どもと仲良くなったと聞いたときには、君を攫いに行こうかと思うほどだった。
あ、いや。
今はその話ではないな。
君が大変な時に、私は側にいられなかった。
本当に済まない」
フィンの震える声が、まっすぐ俺に届く。
「そんなの、フィンが悪いわけないよ。
あの頃から俺を守ってくれてたなんて、知らなかった」
「君と再会できたとき……私はどうしようもなく君と一緒にいたいと願ってしまった。
本当は、まだ私の周りは安全じゃなかった。
でも、離れたくなくて……つい、騎士団に君を入れてしまった」
フィンは目を伏せ、懐中時計を取り出した。
「これ。以前何を見ているのかと君に聞かれたことがあったな。
開けば分かるが、私にはずっとエリゼオがいた」
パチリと蓋を開く。
そこには、魔法で焼き付けられた幼い俺の姿があった。
写真のように鮮やかで、今よりも丸い頬を赤くし、笑っている姿だった。
俺は息をのんだ。
この人は、どれだけ俺を愛してくれてたんだろう。
「こんなに……俺のこと……」
「当たり前だ。
君は、私が生きていこうと決めた理由だから」
フィンは俺の指先に軽くキスをして、まっすぐ俺を見つめてきた。
「エリゼオ。
君が過去を話してくれたように……私も、君に全部を伝えたかった。
私が側にいることで、もしかしたら君につらい思いをさせてしまうかもしれない。
それでも、君を手放せないんだ」
その告白は、光みたいにあたたかかった。
俺の胸の奥の、暗く重かった場所が、じわりと溶けていくのを感じた。
「ありがとう、フィン。
昔からずっと。
今も俺のことを好きでいてくれて。
俺、お前のためならなんだってできるよ。
お前の幸せが、俺の幸せなんだから」
俺の言葉に、フィンは息を呑んだようだった。
指先が熱を持ち、それがゆっくり俺の頬をなぞる。
「……エリゼオ。そんなことを言われたら、私は……もう、抑えられないよ」
低く囁く声に、胸の奥がじん、と痺れる。
ベッドの上で二人向かい合わせに座っていたフィンが俺の腰を引き寄せてきた。
唇が触れる。
いつもよりも深く、熱く。
俺は思わず息を飲んだ。
フィンは逃がさないように、俺を抱え込む。
「……フィン、まだ、話したいことがあるんだ」
「……話しながら、でもいいか?」
問いかけのくせに、フィンの声は俺の返事を待つつもりがない。
それでも、拒む理由なんてどこにもなかった。
「……うん。フィンなら、いいよ」
そう言った瞬間、フィンの表情がふっと崩れた。
安堵と、愛しさと、少しの焦りが混ざったような顔だ。
胸元にフィンの額が触れ、そのままそっと押し倒されるように布団へ沈んだ。
「エリゼオ……触れても、いい?」
その聞き方がずるい。
こんな時でも俺を大事にしようとしてくれるんだ。
俺が駄目って言ったら、きっとやめてくれるに違いない。
フィンの優しさに包まれて、泣きそうになる。
そんなフィンだから。
俺はフィンの頬に触れ、指を絡めて言った。
「フィンだから、いいんだよ。……俺も、触れたい」
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