【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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41.無事でいて

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 フィンの指先がそっと俺の頬を撫でた。
 くすぐったいのに、触れられたところから熱がじわりと広がる。

「……エリゼオ。そんな顔をされたら、本当にもう抑えられなくなる」

 低く擦れた声が耳に触れて、背中にぞくりと震えが走った。

「いいよ。フィンなら……いいって言っただろ?……す、好きな人に触れたいのは、俺も同じだから」

 自分でも顔が熱くなるのが分かった。
 フィンの息が止まり、喉が小さく鳴った。
 熱を帯びた眼差しで俺を射抜いてくる。

 次の瞬間、強く抱き寄せられる。


 唇が触れ、深く、熱く重なる。
 何度も交わしたキスよりもずっと、息も何もかも奪われるようなキスだった。

 息が奪われて、頭が真っ白になる。

「エリゼオ……今晩は我慢ができそうにない」

「我慢、しなくていいよ。……俺も、我慢したくない……」

 フィンの腕の力が強くなる。
 俺の髪を梳く手、喉をなぞる指先。
 触れられるたびに身体が跳ねてしまう。

「震えてる……怖くないか?」

「違う……好きだから……嬉しくて」

 その言葉だけで、フィンの呼吸が乱れた。
 俺の腰に触れた手のひらの熱がつたわって、身体の芯まで痺れた。

 もっと触れたい。
 もっと、フィンを感じたい。
 そんな気持ちが胸いっぱいに広がっていく。

「エリゼオ……脱がせてもいい?」

 その声があまりに俺を求めていて。
 でも、そこには俺の気持ちを確かめる優しさも滲んでいて。
 俺の胸はフィンへの思いで溢れて苦しいほど幸せだった。

「うん。俺もフィンに触れてみたい」

 フィンが俺の手を取り、自分の胸へ導く。
 布越しに伝わる心臓の鼓動が速くて、俺の息まで浅くなる。

「こんなふうに……君に触れられるなんて、夢みたいだ」

 額を合わせて、互いの呼吸が絡まる。互いの服に手をかけ、脱がせ合う。

 淡い明かりの中で見るフィンの身体は、鍛えられていて、綺麗で、目が離せなかった。

「……すごい、綺麗」

 思わず呟くと、フィンが微笑む。

「君の方が綺麗だよ。
 ずっと……触れたいと思ってた」

 フィンの視線に、俺は体中が熱くなる。

「俺、女の子みたいに柔らかくないし、胸とか無いよ……それでもいいの?」

「そんなの関係ない。
 エリゼオだから触れたいんだ」

 言いながら、フィンは優しく胸に触れた。
 指先が胸の中心の突起に触れたとたん、俺の身体はびくりとはねて、声が漏れた。

「んぅっ……!」

 思わず俺は口を押えたけど、フィンはそっとその手を外す。

「声、我慢しないで。……もっと聞かせて。フィンの声が聴きたい」

 そういって、フィンは俺の首を舌でなぞる。
 その舌はつっと下がり、そのまま鎖骨、胸元へと移動した、と思ったら突然、強く吸い上げてきた。

「ひ……あっ!」

 強く吸われたところがじんじんと熱を持つ。
 フィンは満足そうに微笑んだ。

「可愛い。ほら、ここにバラが咲いたよ。
 これで私のものという印が付いた。
 この印、これからは消える前に何度でも上書きしてあげる」

 フィンの独占欲のこもった声に、俺は全身が震える。
 ずっとともにいると言ってくれている嬉しさからだ。

「フィンっ、好きっ、大好きっ」

 抱きついた俺の背中を、フィンの大きな手がゆっくり撫でる。

「ひゃっ、あっ、駄目っ」

 怪我をして薄くなった皮膚はどこよりも敏感で、俺は声が一段高くなった。

「すまない、痛かったか」

「違……びっくりしただけ……大丈夫。もっと触って」

 フィンが優しい手つきで背中を撫で、口づけを落とす。
 もうフィン以外何も考えられなかった。

「フィン、もっと——」

 触ってと言おうとした、その時。

 ──コン、コン。

 唐突なノックが、二人の世界を断ち切った。

「……っ、だ、誰!?」

 フィンの腕が一瞬で俺を庇うように抱き寄せ、服を着せる。
 さっきまで熱かった瞳が、鋭い緊張に変わった。

「なんだ」
 低く鋭い声。王子としての声だ。

 扉の向こうから、低い声が返ってくる。

「お休みのところ失礼いたします。ご報告が」

 それはガルディアの声だった。いつものように静かな声だったけど、それでもわずかに焦りがにじんでいる。
 ガルディアにしては珍しいことだ。

 俺の背中に回っていたフィンの腕が、わずかに強くなる。

 それからフィンがそっと俺を離し、扉を開けた。
 扉越しに見えるガルディアはいつも通りの無表情ではあったけれど、緊張感を漂わせていた。

「王宮内に不審者が侵入したかもしれません。
 王宮内に不審な跡を見つけました。
 詳細は不明ですが、複数の可能性も」

 空気が一瞬で凍る。

 俺の心臓が、さっきとは別の意味で跳ねた。

「エリゼオ、外套と靴を身につけるんだ。ガルディア、カリオは?」

「異変は城内に伝わっておりますので、もうすぐこちらへ来るかと」

「そうか。では、一刻も早くガルディアはエリゼオを連れてここを離れろ。俺はカリオとともにここにいる」

「フィン!! なんでっ!!」

 思わず声を上げた俺の肩をフィンは掴み、瞳の奥に鋭い光を宿す。

「いいか。この間の襲撃も、私を狙っていた。それならば、私の居室が一番危険だ。
 君をここに残すわけにはいかない」

「俺も残る!」

「駄目だ。君を失うのが、怖いんだ」

 声が震えていた。
 さっきまで優しく俺に触れていた手が、今は剣を握っている。

 ガルディアが深刻な顔で告げる。

「侵入経路から見て、内部の者の協力があった可能性が高いようです。
 殿下、ともに行動された方が安全です」

 ガルディアの進言に、フィンがクビを横に振る。

「駄目だ。私とエリゼオが一緒では、ともに狙われる可能性が高い。
 これは命令だ。ガルディア、エリゼオを守れ」

 息が止まった。

 フィンは俺を見て、穏やかな表情に変わり、俺の頬に触れた。

「エリゼオ。私なら大丈夫だ。だから、ガルディアとともに逃げろ」

「フィン……!」

 フィンの手を掴もうとするより早く、ガルディアが俺を抱え上げた。

「失礼」

「ま、待って!フィン!!
 無茶はしないで!
 絶対、絶対無事で……!」

 俺は逃走用の隠し通路へと運ばれていく。
 俺は腕を伸ばしたまま、フィンの姿が見えなくなるまで見つめていた。

 自分の無力さに涙がにじむ。

 俺が強かったら。
 そうしたら、一緒に戦えたのだろうか。

 ううん。きっとフィンなら。
 どんなに俺が強くても、俺を守るために一人残るだろう。

 今、俺ができることは。
 一刻も早く、安全な場所に逃げて、ガルディアをフィンのもとに帰してあげることだ。

「ガルディア卿、下ろしてください。俺も走れます。早くここを出ましょう。安全なところに着いたら、はやくフィンの所へ行って下さい!」

 ガルディアは頷き、俺を下ろした。

 二人で隠し通路を走る。
 やっと、城の外に出て、城門をくぐり抜けたその時。

 闇の中から複数の影が現れた。

 ガルディアが即座に俺の前に立つ。

 見覚えのある男が、暗闇から姿を現した。

「おや、侵入者がいるというのに、なぜ王子のそばにいないのですかな? ……ガルディア卿」
 
 その声は冷たく、乾いていた。

 あれは――ヴィスコンチ伯爵だ。
 







 
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