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49.サーラ、幸せになれよ
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フィンの様子がおかしかった次の日。
髭の叔父さんとの取り調べが終わり、夕食を終えたころ、鉄格子の前に見張りの兵が現れた。
「おい。面会だ」
そう言って現れたのは、サーラとカリオだった。
「え? 面会って……いいのか?」
「ああ。俺たちだって人間だ。少しくらい融通利かせてやるさ」
兵は小さく笑って、二人を仲に通した。
ほんと、俺って恵まれてるよな。
兵が棟の扉の前に戻るのを見届けてから、サーラは口を開いた。
「お義兄さま、ご報告がございますの」
サーラは少し興奮した様子で身を乗り出した。
「わたくし、あの丘の上からずっとお店を見張っておりましたの。
侍女の仕事はお休みしておりますから、時間はたっぷりございましたから」
「一人で? 危なくないか?」
俺が心配すると、サーラの頬がふわりと赤く染まった。
「それが……カリオ様が『危ないから一人は駄目だ』とおっしゃってくださって……」
サーラが顔を赤く染めながら報告してきた。
サーラ、やっと名前が呼べるようになったんだな。
よかったよ。推しの騎士様じゃわかりづらいし。
俺みたいに勘違いするやつも出てくるだろうしね。
「でも、カリオ様は騎士としてのお仕事もございますから、ずっとはご一緒できませんの。
それで殿下が、通信魔道具というものを貸してくださいました」
「通信魔道具?」
「ええ。これを使えば、遠くにいても声が届くんですのよ。
どうやら、殿下のお知り合いに魔道具をたくさんお持ちの方がいらっしゃるそうで」
フィンの、知り合い?
俺の知らないフィンの人間関係。
頭ではわかってる。王子なんだから、当たり前だって。
それでも——。
その人、どんな人なんだろ。
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
今こんなに大変な時に、快く魔道具を貸してくれる。
きっと、フィンの身近な人なんだろうな。
ちょっとだけ妬けちゃうな。
俺は少しだけほほを膨らませてたら、サーラに生暖かい目でほほ笑まれた。
ちょっと恥ずかしい。
「それで?」
顔が熱い。
サーラの視線から逃げるように、俺は話を促した。
「それでですね、しばらく見ていたら、昨日やっとあの伯爵が現れましたのよ」
しかも、以前見かけた方とご一緒でした。やはり隣国の服を着てましたわ」
俺、この間作戦をみんなで立てたときから、一つだけどうしても気になることがあった。
「そういえば、なんでサーラは隣国の服なんて分かるんだ?
俺、見たこともないぞ」
ふと疑問に思って聞くと、サーラはきょとんとした顔をした。
「え? 隣国ストラウスのこと、ご存じありませんの?」
「名前くらいは。でも国交ないし、詳しくは」
「そうなんですね。わたくしは、お父様がよくストラウス国のお話をされますから人よりは詳しいのかもしれませんね。
だって、お土産でお洋服も頂いたことがございますわ。ただ、外出着ではございませんけれど」
やっぱり、サーラのお母さんて隣国の人なのかも。
国交のない国の人と貴族が結婚してた。
もしそうなら、それって相当まずいよな。
「……サーラ」
俺は真剣な顔で、サーラを見つめた。
「その話、絶対に他の人にしちゃだめだ」
「え……?」
「いいか? 絶対だ」
サーラは一瞬きょとんとした後、ゆっくりと頷いた。
「分かりましたわ」
その表情が、少しだけ不安そうに揺れた。
「それならよし。それで、昨日どうだったんだ?」
「そうそう、それでですね。
わたくし一人の時でしたので、通信魔道具を使って、カリオ様にご連絡いたしましたの。
そしたら、カリオ様が『すぐ行く』って低い声でおっしゃって。
きゃー、その時のお声、残しておきたかったですわ!
とってもかっこよかったですの!! お義兄さまにもお聞かせしたかったですわ!」
おい、となりにカリオがいるのに、いいのか?
カリオ、顔赤くしたまま、机に突っ伏してる。
うん。気持ちはわかるよ。
「うん、で、それで?」
カリオがかわいそうになって、俺はサーラに話を促した。
「それで——」
サーラは小さな箱を取り出した。
「フィンさまから教わった通り、音声を録音いたしましたの。聞いてくださいまし」
サーラがスイッチを押すと、くぐもった音が流れ始めた。
そして。
『お金はストラウスに入金しておいた』
息が、止まった。
その声は、間違いなく叔父さんの声だった。
『今は城も警戒している。見張りも多い』
胸が、ざわついた。
『査問会で第一王子を追いやってから考えよう』
——追いやる? 叔父さんの目的は、俺じゃなくてフィンなのか?
足の力が、抜けそうだ。
『第二王子は操りやすいからな。傀儡にしてもいい』
背筋が、凍り付いた。。
叔父さんは、本気なんだ。
本気で、王家を操ろうとしている。
「お義兄さま……」
サーラがそっと俺の手を取る。
気づけば、俺は自分の爪が食い込むほど手を固く握りこんでいた。
叔父さん、なんでそんなこと考えるようになっちゃったんだよ。
胸の奥が、じくっと痛む。
『エリゼオ、伯爵家は王家を支えるためにあるんだぞ』
優しく頭を撫でてくれた、大きな手。
『だからたくさん勉強して、立派な伯爵になるんだ』
あの頃の笑顔。
温かかった日々。
——全部、遠くにかすんで消えていく。
サーラもカリオも、そっと見つめていた。
その沈黙が、ありがたかった。
「そっか......」
深く息を吸って、声が震えないように抑える。
「ありがとう。ふたりとも」
顔を上げると、サーラの目が潤んでいた。
「——あ、そうだ」
カリオが、わざとらしく明るい声を出した。
「俺が隣国の奴は捕まえといた。今尋問中だ」
「何か、しゃべってるのか?」
「いや、何も。あいつ、信念を持ってるタイプだな。ああいうのは尋問も手ごわい」
カリオは頭をガシガシと搔いた。
——ああ、そうか。
俺の気を紛らわそうとしてくれてるんだ。
「ありがとな、カリオ」
さすが、モブの期待の星だよ。
細やかな心遣いがうれしい。
「別に……俺は報告しただけだ」
カリオは照れくさそうに目を逸らした。
その横で、サーラがそっとカリオを見つめていた。
その瞳が、温かく揺らめいている。
ああ、いいな。
この二人、きっと幸せになるんだろうな。
そう思ったら、胸の痛みが少しだけ和らいだ。
「サーラ、幸せになれよ」
思わず口に出していた。
「え……?」
「いや、なんでもない」
俺は笑って、二人をみつめていたんだ。
こんなに優しい二人には、絶対に幸せになってほしい。
そのためにも——
俺は、絶対にこの戦いに勝たないと。
髭の叔父さんとの取り調べが終わり、夕食を終えたころ、鉄格子の前に見張りの兵が現れた。
「おい。面会だ」
そう言って現れたのは、サーラとカリオだった。
「え? 面会って……いいのか?」
「ああ。俺たちだって人間だ。少しくらい融通利かせてやるさ」
兵は小さく笑って、二人を仲に通した。
ほんと、俺って恵まれてるよな。
兵が棟の扉の前に戻るのを見届けてから、サーラは口を開いた。
「お義兄さま、ご報告がございますの」
サーラは少し興奮した様子で身を乗り出した。
「わたくし、あの丘の上からずっとお店を見張っておりましたの。
侍女の仕事はお休みしておりますから、時間はたっぷりございましたから」
「一人で? 危なくないか?」
俺が心配すると、サーラの頬がふわりと赤く染まった。
「それが……カリオ様が『危ないから一人は駄目だ』とおっしゃってくださって……」
サーラが顔を赤く染めながら報告してきた。
サーラ、やっと名前が呼べるようになったんだな。
よかったよ。推しの騎士様じゃわかりづらいし。
俺みたいに勘違いするやつも出てくるだろうしね。
「でも、カリオ様は騎士としてのお仕事もございますから、ずっとはご一緒できませんの。
それで殿下が、通信魔道具というものを貸してくださいました」
「通信魔道具?」
「ええ。これを使えば、遠くにいても声が届くんですのよ。
どうやら、殿下のお知り合いに魔道具をたくさんお持ちの方がいらっしゃるそうで」
フィンの、知り合い?
俺の知らないフィンの人間関係。
頭ではわかってる。王子なんだから、当たり前だって。
それでも——。
その人、どんな人なんだろ。
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
今こんなに大変な時に、快く魔道具を貸してくれる。
きっと、フィンの身近な人なんだろうな。
ちょっとだけ妬けちゃうな。
俺は少しだけほほを膨らませてたら、サーラに生暖かい目でほほ笑まれた。
ちょっと恥ずかしい。
「それで?」
顔が熱い。
サーラの視線から逃げるように、俺は話を促した。
「それでですね、しばらく見ていたら、昨日やっとあの伯爵が現れましたのよ」
しかも、以前見かけた方とご一緒でした。やはり隣国の服を着てましたわ」
俺、この間作戦をみんなで立てたときから、一つだけどうしても気になることがあった。
「そういえば、なんでサーラは隣国の服なんて分かるんだ?
俺、見たこともないぞ」
ふと疑問に思って聞くと、サーラはきょとんとした顔をした。
「え? 隣国ストラウスのこと、ご存じありませんの?」
「名前くらいは。でも国交ないし、詳しくは」
「そうなんですね。わたくしは、お父様がよくストラウス国のお話をされますから人よりは詳しいのかもしれませんね。
だって、お土産でお洋服も頂いたことがございますわ。ただ、外出着ではございませんけれど」
やっぱり、サーラのお母さんて隣国の人なのかも。
国交のない国の人と貴族が結婚してた。
もしそうなら、それって相当まずいよな。
「……サーラ」
俺は真剣な顔で、サーラを見つめた。
「その話、絶対に他の人にしちゃだめだ」
「え……?」
「いいか? 絶対だ」
サーラは一瞬きょとんとした後、ゆっくりと頷いた。
「分かりましたわ」
その表情が、少しだけ不安そうに揺れた。
「それならよし。それで、昨日どうだったんだ?」
「そうそう、それでですね。
わたくし一人の時でしたので、通信魔道具を使って、カリオ様にご連絡いたしましたの。
そしたら、カリオ様が『すぐ行く』って低い声でおっしゃって。
きゃー、その時のお声、残しておきたかったですわ!
とってもかっこよかったですの!! お義兄さまにもお聞かせしたかったですわ!」
おい、となりにカリオがいるのに、いいのか?
カリオ、顔赤くしたまま、机に突っ伏してる。
うん。気持ちはわかるよ。
「うん、で、それで?」
カリオがかわいそうになって、俺はサーラに話を促した。
「それで——」
サーラは小さな箱を取り出した。
「フィンさまから教わった通り、音声を録音いたしましたの。聞いてくださいまし」
サーラがスイッチを押すと、くぐもった音が流れ始めた。
そして。
『お金はストラウスに入金しておいた』
息が、止まった。
その声は、間違いなく叔父さんの声だった。
『今は城も警戒している。見張りも多い』
胸が、ざわついた。
『査問会で第一王子を追いやってから考えよう』
——追いやる? 叔父さんの目的は、俺じゃなくてフィンなのか?
足の力が、抜けそうだ。
『第二王子は操りやすいからな。傀儡にしてもいい』
背筋が、凍り付いた。。
叔父さんは、本気なんだ。
本気で、王家を操ろうとしている。
「お義兄さま……」
サーラがそっと俺の手を取る。
気づけば、俺は自分の爪が食い込むほど手を固く握りこんでいた。
叔父さん、なんでそんなこと考えるようになっちゃったんだよ。
胸の奥が、じくっと痛む。
『エリゼオ、伯爵家は王家を支えるためにあるんだぞ』
優しく頭を撫でてくれた、大きな手。
『だからたくさん勉強して、立派な伯爵になるんだ』
あの頃の笑顔。
温かかった日々。
——全部、遠くにかすんで消えていく。
サーラもカリオも、そっと見つめていた。
その沈黙が、ありがたかった。
「そっか......」
深く息を吸って、声が震えないように抑える。
「ありがとう。ふたりとも」
顔を上げると、サーラの目が潤んでいた。
「——あ、そうだ」
カリオが、わざとらしく明るい声を出した。
「俺が隣国の奴は捕まえといた。今尋問中だ」
「何か、しゃべってるのか?」
「いや、何も。あいつ、信念を持ってるタイプだな。ああいうのは尋問も手ごわい」
カリオは頭をガシガシと搔いた。
——ああ、そうか。
俺の気を紛らわそうとしてくれてるんだ。
「ありがとな、カリオ」
さすが、モブの期待の星だよ。
細やかな心遣いがうれしい。
「別に……俺は報告しただけだ」
カリオは照れくさそうに目を逸らした。
その横で、サーラがそっとカリオを見つめていた。
その瞳が、温かく揺らめいている。
ああ、いいな。
この二人、きっと幸せになるんだろうな。
そう思ったら、胸の痛みが少しだけ和らいだ。
「サーラ、幸せになれよ」
思わず口に出していた。
「え……?」
「いや、なんでもない」
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そのためにも——
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