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59.査問会は、これにて終了……?
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「そうだったのか……」
義父さんの話をずっと黙って聞いていた叔父さんが、苦しげに呟く。
その目には、深い後悔がにじんでいた。
「私は、奴から『神に認められぬ魔法を使う者は、聖水に拒絶される』と聞かされていた。
だから、私はその拒絶を利用して、エリゼオに罪を着せようとしたんだ。
何も悪くないエリゼオに、だ。
私の弱い心が、全てを誤らせた」
叔父さんが頭を抱える
その姿がただただ痛ましくて、胸が締めつけられた。
「だが、全部嘘だったのだな。
私は、何も見抜けなかった。
いや、エリゼオを陥れようとした自分が悪いんだ。
エリゼオ……本当に、すまなかった」
叔父さんはそのまま崩れ落ちそうになるのを、マティルダ嬢がそっと支えた。
「お父様……」
場内には、身近に潜んでいた脅威にいまだ驚きの声があちこちから上がっている。
フィンは一呼吸おき、落ち着いた声で口を開いた。
「バルロッティ男爵、ご苦労だった」
そしてフィンは陛下へと向き直り、深く頭を下げる。
「陛下。この隣国の男を連れ、私はストラウスとの外交交渉を開始したいと考えています。
ストラウスでもジアスター教の危険思想に頭を悩ませているとバルロッティ男爵から聞きました。
ならば双方が協力し、この根の深い問題に向き合うべきだと……そう考えたのです」
顔を上げたフィンの目は、まっすぐ陛下を捉えている。
「陛下。どうかその役目を私にお任せください」
力強い声だった。そこに迷いは一つもない。
『問題を根本から断つ』という覚悟が、フィンの全身から伝わってきた。
しばらくの沈黙ののち、陛下は静かに頷いた。
「……任せたぞ、フィルベルト」
俺はフィンを見つめた。
フィンはまたどこか遠くへ行ってしまうんじゃないか。
そんな思いに駆られる。
けれど俺は、怖くない。
フィンが行くなら、俺も行く。
もう、二度と離れたくない。
そう、心に誓ったんだ。
そして、陛下から判決が下された。
「ヴィスコンチ伯爵。 お前の罪は重い。
しかし——」
陛下は厳しい声を少しだけ緩めた。
「お前もまた騙された被害者であることを考慮する。
伯爵の身分をはく奪し、今後は王城への入城を禁ずる。
刑を五年の禁固とするが、刑期後は、地方での謹慎生活を許可する」
正直、かなり軽い判決だ。
よかった。
叔父さんは深々と頭を下げ、肩を震わせている。
「ありがとうございます……」
俺は叔父さんに向き直った。
「叔父さん」
叔父さんが顔を上げる。
その目は真っ赤で、涙でぐしゃぐしゃだった。
「エリゼオ……私は、お前に……」
「俺、叔父さんに謝ってほしいわけじゃないよ」
俺は深呼吸して、言葉を続ける。
「俺、昔の優しい叔父さんのこと、ずっと覚えてる。
頭を撫でてくれたこと。笑ってくれたこと。
全部、忘れてないよ」
叔父さんの目から、また涙がこぼれた。
「だから……地方で、またあの笑顔を取り戻してください。
俺、待ってますから」
「エリゼオ……っ」
叔父さんは俺の手を握りしめた。
その手が、あの頃みたいに温かくて。
俺も、思わず目頭が熱くなったんだ。
マティルダ嬢が、決意の表情で告げる。
「わたくしも、 お父様と共に参ります」
叔父さんは、それに首を大きく振った。
「マティルダ……。駄目だ。お前は私を忘れ、町に出てやり直してくれ。
苦労は多いだろう。
けれど、私といて、罪人の娘の烙印を押されるよりはましだと思う。
……本当に私は馬鹿なことをした。すまない」
「いいえ、お父様。
今までどんなに忙しくても、わたくしを気にかけてくださっていたこと、よく存じておりますわ。
わたくしにとって、お父様は誰より素敵な父上でした」
マティルダ嬢の声が震える。
「そのお父様が間違いを犯したのなら、わたくしも一緒に参ります。
わたくしはお父様の娘ですもの」
叔父さんが目を見開く。
「それに―—」
マティルダ嬢は、ふいにぱっと扇子を広げ、なぜか胸を張った。
「それに、お父様。わたくし生きがいを見つけましたの!」
「……生きがい?」
叔父さんが目を瞬く。
俺も思わず身を乗り出した。
「はい! 殿下とエリゼオ様を応援すること。
つまり、推し活ですわ!」
会場がざわめく。
「実はわたくし、あの舞踏会の時からお二人の物語を本にまとめましたの。
だって、あのときは、婚約者の女性がエリゼオ様とは知らなかったのです。
ですから、エリゼオ様とあの騎士団時代の二人の尊い姿を忘れたくなくて、みなに広めようと思ったのです。
そうしたら、なんとベストセラーに!」
マティルダ嬢が誇らしげに告げる。
「ですから、どこででも生きていけます!
地方でこのお二人の尊さを広めて参ります!」
……は?
「あそこにいらっしゃる傍聴席の方々も、お二人を一目見たいと集まった推し仲間ですのよ!」
会場の数名が、こくこく頷いていた。
よく見ると、騎士団員もちらほらと頷いている。
やめて!はずか死ぬから!
「しかも今、推し活を広める本も執筆中ですの。
ですから、どこででも生きていけます!
お二人を直接見られないのは残念ですが、わたくしの妄想で補えますので!!」
……補わないで欲しい!
俺はそっとフィンを見ると、フィンは無表情だった。
「なあ、勝手に俺たちのこと書かれるの、嫌じゃないのか?」
俺がこっそり訊ねると、フィンは少しだけ口元を緩めた。
「事前に連絡が来ていたから、中身は確認済みだ。
悪意はなかったし——」
フィンは俺に視線を向ける。
「私たちが世界に認められるなら、多少の脚色は構わない。
それに―—」
声を落として、耳元で囁く。
「エリゼオが私のものだと、皆に知らしめられるからね」
フィンに耳元でささやかれて、全身が熱くなった。
もう、反則だよフィン!!
「お父様。わたくしたち、 やり直しましょう」
マティルダ嬢が微笑む。
その姿を見て、叔父さんは涙を流した。
大丈夫だ。この親子なら、きっと立ち直れるはずだ。
さらに陛下は義父さんを見つめて、言葉を続けた。
「そして、エドアルド・バルロッティ。
国交のない娘を妻に迎え、隣国と独自に交流したことは、本来なら問題だ。
だが今回の功績、そして今後のストラウス国との関係を考慮し、不問とする。
ただし今後、ストラウス国との交渉にてフィルベルトを補佐することが条件だ」
義父さんは深く頭を下げた。
緊張の糸が切れたのか、へたり込みそうになってる。
……よかった。
陛下、すごく恩情のある方とは聞いていたけど、こんなに血の通った判決をしてくれるなんて、ほんとにいい人だ。
さすがフィンのお父さんだな。
「エリゼオ・バルロッティ、ガルディア・ブレシアは、むろん、無罪だ」
ほっとした瞬間——
「だが、第一王子フィルベルトよ」
陛下の声が氷のように冷たく変わった。
その瞬間―—。
俺の心臓が、嫌な音を立てて跳ねたんだ。
義父さんの話をずっと黙って聞いていた叔父さんが、苦しげに呟く。
その目には、深い後悔がにじんでいた。
「私は、奴から『神に認められぬ魔法を使う者は、聖水に拒絶される』と聞かされていた。
だから、私はその拒絶を利用して、エリゼオに罪を着せようとしたんだ。
何も悪くないエリゼオに、だ。
私の弱い心が、全てを誤らせた」
叔父さんが頭を抱える
その姿がただただ痛ましくて、胸が締めつけられた。
「だが、全部嘘だったのだな。
私は、何も見抜けなかった。
いや、エリゼオを陥れようとした自分が悪いんだ。
エリゼオ……本当に、すまなかった」
叔父さんはそのまま崩れ落ちそうになるのを、マティルダ嬢がそっと支えた。
「お父様……」
場内には、身近に潜んでいた脅威にいまだ驚きの声があちこちから上がっている。
フィンは一呼吸おき、落ち着いた声で口を開いた。
「バルロッティ男爵、ご苦労だった」
そしてフィンは陛下へと向き直り、深く頭を下げる。
「陛下。この隣国の男を連れ、私はストラウスとの外交交渉を開始したいと考えています。
ストラウスでもジアスター教の危険思想に頭を悩ませているとバルロッティ男爵から聞きました。
ならば双方が協力し、この根の深い問題に向き合うべきだと……そう考えたのです」
顔を上げたフィンの目は、まっすぐ陛下を捉えている。
「陛下。どうかその役目を私にお任せください」
力強い声だった。そこに迷いは一つもない。
『問題を根本から断つ』という覚悟が、フィンの全身から伝わってきた。
しばらくの沈黙ののち、陛下は静かに頷いた。
「……任せたぞ、フィルベルト」
俺はフィンを見つめた。
フィンはまたどこか遠くへ行ってしまうんじゃないか。
そんな思いに駆られる。
けれど俺は、怖くない。
フィンが行くなら、俺も行く。
もう、二度と離れたくない。
そう、心に誓ったんだ。
そして、陛下から判決が下された。
「ヴィスコンチ伯爵。 お前の罪は重い。
しかし——」
陛下は厳しい声を少しだけ緩めた。
「お前もまた騙された被害者であることを考慮する。
伯爵の身分をはく奪し、今後は王城への入城を禁ずる。
刑を五年の禁固とするが、刑期後は、地方での謹慎生活を許可する」
正直、かなり軽い判決だ。
よかった。
叔父さんは深々と頭を下げ、肩を震わせている。
「ありがとうございます……」
俺は叔父さんに向き直った。
「叔父さん」
叔父さんが顔を上げる。
その目は真っ赤で、涙でぐしゃぐしゃだった。
「エリゼオ……私は、お前に……」
「俺、叔父さんに謝ってほしいわけじゃないよ」
俺は深呼吸して、言葉を続ける。
「俺、昔の優しい叔父さんのこと、ずっと覚えてる。
頭を撫でてくれたこと。笑ってくれたこと。
全部、忘れてないよ」
叔父さんの目から、また涙がこぼれた。
「だから……地方で、またあの笑顔を取り戻してください。
俺、待ってますから」
「エリゼオ……っ」
叔父さんは俺の手を握りしめた。
その手が、あの頃みたいに温かくて。
俺も、思わず目頭が熱くなったんだ。
マティルダ嬢が、決意の表情で告げる。
「わたくしも、 お父様と共に参ります」
叔父さんは、それに首を大きく振った。
「マティルダ……。駄目だ。お前は私を忘れ、町に出てやり直してくれ。
苦労は多いだろう。
けれど、私といて、罪人の娘の烙印を押されるよりはましだと思う。
……本当に私は馬鹿なことをした。すまない」
「いいえ、お父様。
今までどんなに忙しくても、わたくしを気にかけてくださっていたこと、よく存じておりますわ。
わたくしにとって、お父様は誰より素敵な父上でした」
マティルダ嬢の声が震える。
「そのお父様が間違いを犯したのなら、わたくしも一緒に参ります。
わたくしはお父様の娘ですもの」
叔父さんが目を見開く。
「それに―—」
マティルダ嬢は、ふいにぱっと扇子を広げ、なぜか胸を張った。
「それに、お父様。わたくし生きがいを見つけましたの!」
「……生きがい?」
叔父さんが目を瞬く。
俺も思わず身を乗り出した。
「はい! 殿下とエリゼオ様を応援すること。
つまり、推し活ですわ!」
会場がざわめく。
「実はわたくし、あの舞踏会の時からお二人の物語を本にまとめましたの。
だって、あのときは、婚約者の女性がエリゼオ様とは知らなかったのです。
ですから、エリゼオ様とあの騎士団時代の二人の尊い姿を忘れたくなくて、みなに広めようと思ったのです。
そうしたら、なんとベストセラーに!」
マティルダ嬢が誇らしげに告げる。
「ですから、どこででも生きていけます!
地方でこのお二人の尊さを広めて参ります!」
……は?
「あそこにいらっしゃる傍聴席の方々も、お二人を一目見たいと集まった推し仲間ですのよ!」
会場の数名が、こくこく頷いていた。
よく見ると、騎士団員もちらほらと頷いている。
やめて!はずか死ぬから!
「しかも今、推し活を広める本も執筆中ですの。
ですから、どこででも生きていけます!
お二人を直接見られないのは残念ですが、わたくしの妄想で補えますので!!」
……補わないで欲しい!
俺はそっとフィンを見ると、フィンは無表情だった。
「なあ、勝手に俺たちのこと書かれるの、嫌じゃないのか?」
俺がこっそり訊ねると、フィンは少しだけ口元を緩めた。
「事前に連絡が来ていたから、中身は確認済みだ。
悪意はなかったし——」
フィンは俺に視線を向ける。
「私たちが世界に認められるなら、多少の脚色は構わない。
それに―—」
声を落として、耳元で囁く。
「エリゼオが私のものだと、皆に知らしめられるからね」
フィンに耳元でささやかれて、全身が熱くなった。
もう、反則だよフィン!!
「お父様。わたくしたち、 やり直しましょう」
マティルダ嬢が微笑む。
その姿を見て、叔父さんは涙を流した。
大丈夫だ。この親子なら、きっと立ち直れるはずだ。
さらに陛下は義父さんを見つめて、言葉を続けた。
「そして、エドアルド・バルロッティ。
国交のない娘を妻に迎え、隣国と独自に交流したことは、本来なら問題だ。
だが今回の功績、そして今後のストラウス国との関係を考慮し、不問とする。
ただし今後、ストラウス国との交渉にてフィルベルトを補佐することが条件だ」
義父さんは深く頭を下げた。
緊張の糸が切れたのか、へたり込みそうになってる。
……よかった。
陛下、すごく恩情のある方とは聞いていたけど、こんなに血の通った判決をしてくれるなんて、ほんとにいい人だ。
さすがフィンのお父さんだな。
「エリゼオ・バルロッティ、ガルディア・ブレシアは、むろん、無罪だ」
ほっとした瞬間——
「だが、第一王子フィルベルトよ」
陛下の声が氷のように冷たく変わった。
その瞬間―—。
俺の心臓が、嫌な音を立てて跳ねたんだ。
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