【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)

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60.俺たちの未来

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「フィルベルトよ。
 そなたの婚約者は——エリゼオ。男だな。
 お前は第一王子だ。
 世継ぎはどうする。
 先日も話した通り、この問題を解決せねば婚姻は許さぬ」

 俺の心臓が嫌な音を立てた。
 牢にいたあの時、フィンを苦しめていたのは、これだったんだ。

「はい」

 フィンはまっすぐ陛下を見つめる。

「フィルベルト、どうするつもりだ」

 問いかけと同時に、フィンの視線が俺へと向く。
 その視線に迷いはなかった。
 けれど、そこには悲壮な覚悟がある気がする。
 フィンは少しだけ息を吸い、静かに告げた。

「私に側妃は必要ありません。
 エリゼオと添い遂げるため……
 私は第一王子の座を降ります」

 フィンは、これしかなかったんだと言うように、唇をゆがませて笑う。

 会場は静まりかえっていた。
 反対に、俺の心臓の音はどんどん強くなっていく。
 
 ——そんなの、駄目だ。
 だってフィンはずっと国のために頑張ってきたんだ。
 フィンにそんなことを選ばせたら、俺は絶対に後悔する。
 もう、後悔なんてしたくない。

「待って!」

 気づけば俺は、叫んでいた。
 フィンが驚いて俺の方を見る。
 会場中の視線が一斉に俺へ向けられる。

 これで、二人が引き裂かれたらと思うと、心臓が破裂しそうだ。
 でも、言わなきゃいけない。
 だって、俺”たち”が幸せになるために戦うって、昨夜誓ったじゃないか。
 このフィンの選択は、二人の本当の幸せなんかじゃない。

「フィン、王位を捨ててまで俺といてくれるのはすごくうれしいよ。
 でも―—」

 本当に、この選択は間違っていないのか? また俺は間違いを犯していないか?
 俺の中の臆病な声が聞こえてくる。
 けれど、もう一人の自分は、これでいいんだと叫んでいた。

「俺、フィンが王子だから好きになったんじゃない。
 けど、フィンが王子であることも、フィンの一部なんだ」

 フィンの目が見開かれる。

「俺と王都デートした時のこと、覚えてる?」

 フィンは戸惑ったように少しだけ頷いた。

「その時さ、フィンは『当たり前の幸せを守りたい』って言ってたんだよ。
 『この国が好きだから』とも言ってた。
 それってさ、フィンの本音だろ?」

 フィンが見る見るうちに険しい顔になる。
 俺がフィンを諦めるって思ったのかもしれない。

「エリゼオ。けれど、君がそばにいないなら、なんの意味もないんだ。
 君とこの国どちらかを選ぶなら―—」

 俺は慌ててフィンの口をふさぐ。

「フィン、それはぜったい口にしちゃいけない言葉だよ。
 フィンは国も、民も、俺も。
 全部幸せにできる人だよ。フィンはその力があるし、そのためにたくさん努力してきただろう?
 一つしか選べないなんて、誰が決めたの?
 たくさん、幸せにしようよ」

 俺はそのまま陛下の方に向き直った。

「陛下。俺、何の力も無いし、立派な人間でもありません。でも一つだけ……一つだけは自信持って言えることがあるんです」

 俺は胸に手を置いて、はっきりと告げた。

「俺は、フィンを世界で一番愛してる。
 そしてフィンも俺を世界で一番愛してくれてる」

 フィンが静かに俺を後ろから抱きしめてきた。
 その腕の力に、俺の鼓動が落ち着いてくる。

「だから、俺でも。
 ううん、俺だからこそフィンを支えられます。
 それに、フィンが愛したすべてを、俺も愛したい」

 フィンの腕に力が込められる。

「だから陛下。
 俺はフィンと一緒になりたい。
 王太子としてのフィンを支えたい。
 お願いします!
 王子のフィンと、結婚させてください!!」

 俺の言葉は、謁見の間の空気を震わせた。

 昨夜俺はフィンに、最後はフィンだけを選ぶって誓った。
 けれど、それじゃダメなんだ。

 フィンを取り巻くすべて。
 フィンが愛したすべて。
 それを全部、俺も選ぶ覚悟をしないといけない。
 やっとそれに気づけたんだ。

 今日の査問会。
 俺とフィンだけじゃ、とても乗り越えられなかった。
 けれど、仲間がたくさんいてくれた。
 俺とフィンはみんなに支えられて、今がある。
 みんながいるから、今のフィンがあるんだ。
 それなら、おれはフィンを取り巻くすべてを丸ごと愛する。

 それが俺の出した答えだった。

 場内は、シン――と静まり返っていた。
 陛下は沈黙したままだ。
 どんな感情も読めない。
 でも、その瞳は、確かに俺たちを見ていた。

 俺も陛下を見つめ、陛下の言葉を待つ。

 長い、長い沈黙。

「……もう、いいよ」

 フィンがぽつりと呟いた。
 それは諦めでも、絶望でもなく、ただ俺への感謝がこもっていた。

「エリゼオ。君がそう言ってくれたけで私は、嬉しい。
 だからたとえ――」

「フィルベルト」

 陛下がフィンの言葉を静かにさえぎった。

「お前は、エリゼオがそこまで言ったのに、お前の選択は変わらぬのか?」

「……え?」

 思いがけない言葉に、俺の声が漏れた。

「——っ! 
 すまない、エリゼオ」

 フィンは陛下のほうを向き、その場にかがみこんで立膝をついた。
 俺も慌ててフィンの隣で立膝をつく。

「陛下。
 わたくし第一王子フィルベルトは、
 ――エリゼオ・バルロッティを伴侶とし、この国を守り抜くことを、ここに改めて誓います。
 これは、私と、エリゼオ二人の総意にございます。
 陛どうか、私たちの誓いを、お見届け下さい。
 そして、皆様にはこの誓いの証人となっていただきたい」

 しんとした場内で、フィンの言葉が響く。
 二人の未来を宣言する揺るぎない言葉。

 静寂ののち、一人が拍手をした。
 続いてまた一人。
 やがて会場中を埋め尽くすほどの拍手が湧き上がった。

「フィルベルトよ。
 さっそくエリゼオに助けられたな」

 陛下は優しく笑った。

「おめでとう。
 今のお前になら、この国を安心して任せられそうだ」

 陛下は、本当に嬉しそうだった。
 もしかしたら、フィンの王太子としての本気を知りたかったのかもしれないな。

 俺も、陛下から合格をもらえたみたいだ。
 うれしくて、フィンを見つめる。
 フィンは笑顔で俺に抱きついてきた。
 俺も、フィンを抱きしめる。途端に、フィンからバラの香りがしてきた。

「あはは。今日は俺が受け止める側だね」

 俺がフィンに囁く。

「エリゼオには、私はいつでも甘えられる。
 これからはお互いに、甘えて、甘やかして、支えて……。
 二人で生きていこう」

 フィンはそう言って俺にキスを落とした。

 遠くから、マティルダお嬢様や数人の女性の叫び声が聞こえた。

「きゃーー!! 見まして!? 尊い、尊いですわーー!!!!」

 やばっ、俺、みんなの前でキスしちゃったよ!

「お兄ちゃん、やったね。これでハピエンだ!」と妹の声が響く。
「お義兄さま、お幸せに」とサーラが声をかけてくる。
「エリゼオ、おめでとう」とカリオ。
「おめでとうございます。フィンさま、これで拘束の魔道具の注文は必要ありませんね」とガルディア。

 ん? ガルディアだけ言ってることがなんだか物騒だな。
 でも、まあいいか。
 だって、俺たちこれでハッピーエンドだもんな!!
 
 いや、ちがう。

 ここから始まるんだ。俺たちの未来が。

 誰にも分からない道のり。
 でも、一つだけ確かなことがある。

 どんな未来でも、俺たちは二人で歩む。
 これが、俺たちの選んだ道だ。
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