【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)

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11.告白 後編

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 アパートのドアを開けると、玄関の明かりが暖かく灯ってた。
 キッチンからは、お味噌汁と肉じゃがの匂いがした。
 翼は、合宿で疲れているはずなのに、僕の好きなものを作ってくれてた。
 翼がいつもの眩しい笑顔で出迎えてくれる。 

「おかえり! 思ったより早かったね。如月くんとどうだった? 帰りに話したんでしょ? 理人さん、あ、店長から色々聞いたよ。もう、なんで僕に全部話してくれなかったのさ、碧依? ……って、泣いてるの?」

 翼の声は弾むように明るく、目がキラキラと輝いていたのに、急に悲しそうに揺れる。
  僕は、頭がぐちゃぐちゃになって、視界がぼやけてきた。

「翼……。僕、大和に告白された。でも、僕にしたわけじゃなかった。翼のふりをした僕じゃなくて。大和が好きになったのは、翼の笑顔で……。偽物の僕じゃない。僕じゃなかったんだっ……!」

 言葉が止まらず、涙がぽろぽろ溢れた。
 大和の「初めての笑顔」が、翼の眩しい笑顔と重なる。
 あの眩しい太陽のような笑顔に、僕はずっと憧れてた。
 僕がどんなに頑張っても、翼のふりをしても、本当の僕にはそんな輝きがない。
 大和の「好き」は、僕をすり抜けて翼に届くんだ。
 罪悪感と自己否定が胸を締め付け、翼に全部ぶつけてしまった。
 翼は一瞬目を丸くして、でもすぐに柔らかい笑顔に戻った。
 そっと僕の頭を引き寄せ、抱きしめてくれる。
 絵の具とウッディな香りが、温かい腕に混ざる。
 翼の優しい匂いだった。

「碧依。僕は、碧依が好きだよ。誰がなんと言ったって、碧依は僕の自慢の弟なんだ。
 如月くん、碧依の良さが分からないなんてバカだよ。でも、きっと、いつか碧依の良さに気付くよ。
 だって、理人さんが言ってたよ? 如月くんの碧依をみる目は、すごく優しくて、大切なものを見る目だったって。
 僕、一度しか如月くんに会ってない。一ヶ月以上、一緒に過ごしたのは僕じゃなくて碧依。たくさん笑い合って、たくさん話をしたのも碧依なんだ」

 翼の声は優しく、胸の奥にじんわり染みた。
 でも、大和の「初めて会った時、惹かれてた」って言葉が、僕の心を壊していく。

「だ、だって、ひっく、初めて、会った、ときから、好き、だって、大和、言ってた。ふっうっ。初めて、会ったのは、僕じゃない。ゔぅーー、翼、なんだ」

 しゃくり上げながら、翼に訴える。
 翼は僕の背中を、優しく撫でてくれた。

「それでも、今、好きと言われたのは、碧依でしょう? 僕じゃないよ。きっかけは僕の笑顔だったとしてもね。大丈夫、碧依なら、大丈夫だから。自分を偽物なんて言わないで」

 翼の声が、かすかに震えた。
 見上げると、翼の目がうっすら赤く光ってた。
 翼、僕のために泣いてくれてる。
 こんなに自分勝手で、大和に嘘をついてみんなに心配かけてる僕のために。
 涙が止まらず、翼の腕の中でただ泣き続けた。
 お味噌汁と肉じゃがの匂いと翼の絵の具の匂いが、胸にじんわり染みる。
 翼の言葉と涙に、胸が少し軽くなる。
 まるで、絡まった心の糸が、ほんの少し解けたみたいだった。


 今は、翼の優しさに甘えよう。
 今だけ。
 一晩泣いたら、僕は、気持ちを整理するんだ。
 明日になったら僕はーー。

 心のなかでそっと覚悟を決めた。
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