【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)

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18.バーベキュー 後編

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 川べりに一人座っていると、遠くで大和とゼミの仲間の楽しげな声が聞こえる。
 目を閉じて、大和の笑い声に耳を澄ますと、時間が止まりそうだった。
 ふと、大学で大和と資料作りしたときのことを思い出す。
 あの時、僕を見て笑う大和に、胸がざわついた。
 こんな素敵な人を、僕なんかが好きになっていいのかなって怖かった。
 なのに今、僕は翼の笑顔を借りて、大和のそばにいる。

 そんなことを考えて、胸を押さえたとき、大和が「碧依」って優しく呼んだ気がした。
 そんなはずないよね。
 一度も名前で呼ばれたことなんてないのに。

「水瀬」

 今度は近くではっきり聞こえて、驚いて振り返ると、大和が立ってた。

「こんなところでどうした? 具合悪い? 熱中症かも。木陰に行こうよ」

 大和が手を引いて、木陰に連れて行こうとする。

「き、如月くん、ありがと。大丈夫。ちょっと気分が悪かっただけ、もう平気。心配かけてごめんね」

「……そっか。俺、構いすぎたかな、ごめん。何かあったらいつでも言って。じゃ、俺、先に戻るよ」

 大和の声が少し沈んで、戻っていった。
 心配してくれたのに、突き放しちゃったからかな。
 やっぱり、僕は翼のふりをしないと、うまく振る舞えない。
 そんな自分に、ちょっとため息をついて、みんなのところに戻ったんだ。


「水瀬の焼きそば、めっちゃうまい!」

「ほんとだ。水瀬くん、料理慣れてるよね? 野菜切る手つきも早かったし」

 大和と話をしたあと、みんなのところに戻って、僕は焼きそばを作った。
 心配かけた分、元気だよって示したくて動いたら、思いのほか喜んでもらえて、胸が温かくなる。
 大和は一瞬だけ、なんだか複雑な顔をしたけど、すぐに仲間と笑い合ってた。
 あれから、大和は話しかけてこなかったけど、碧依として同じ時間を過ごせたことだけで、僕はすごく嬉しかったんだ。


 みんなが夏の思い出話で盛り上がる中、誰かが言った。

「この間の花火大会、誰か行った? めっちゃ良かったよね!」

「うん、最高だった」

 大和が柔らかく笑ってこたえる。
 その一言に、ポケットの瓶をそっと撫でる。

 僕もだよ。

 心の中で相槌を打ってみたら、ポケットの中の瓶が小さく震えた気がした。



 バーベキューの最後、記念写真を撮ることになった。

「水瀬、うまい焼きそば作った功労者なんだから、真ん中行けよ!」

 誰かに押されて、思いがけず大和の隣に立つことになった。
 大和は小さく微笑んで、黙ってスペースを空けてくれて、カメラを見つめてた。
 その姿が少し遠く感じたけど、碧依としてここにいるんだから仕方ないんだろうな。
 それでも、大和の隣で写真に映れたことが、くすぐったい気持ちにさせる。
 翼のふりをしてたときも、写真はまだ撮ってない。
 大和との初めての写真が、本当の僕だったことが、なんだか嬉しかったんだ。




 家に帰ると、翼がリビングで漫画を読んでいた。
 僕の顔を見るなり、「碧依! バーベキュー、どうだった?」って笑顔で聞いてきた。

「うん、楽しかったよ。みんなで写真も撮れて、いい思い出。でも……大和に対して、なんかぎこちなくなっちゃって。話しかけられても、逃げちゃった」

 ポケットの瓶を握りながら、ぽつりと言った。
 翼が漫画を閉じて、隣に座る。

「そっか。碧依の気持ち、すっごく分かるよ」

 翼はそう言って、僕に寄りかかってきた。
 翼の優しい声に、胸がじんわり温まる。
 でも、夏休みが終わったら、大和に本当のことを話さなきゃ。
 今日のバーベキューで、今のままじゃいられないって、改めて感じたから。

 もし怒られたら。
 もし、あの笑顔が消えたら。
 それよりも、大和の中でこれまでの思い出が全部偽物になるのが、一番辛い。

「翼、僕、夏休み最後に本当のこと言うって決めたけど……やっぱり怖いよ」

 声が震えると、翼がポンポンと頭を撫でてくれた。

「碧依、僕は何があっても味方だよ。困ったことあったら、いつでも言って。話聞くことしかできないけど、ずっと応援してるから」

 翼の温もりに、涙が滲みそうだった。

 夏休みの終わりが、すぐそこまで来てる。
 それは、この幸せな時間の終わりがもうすぐやってくるって言うこと。
 けれど、大和と過ごしたこの時間は、僕の心の中でこれからもキラキラ輝き続ける筈なんだ。
 たとえ別れが来ても、僕はこの幸せを絶対に忘れないから。
    
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