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20.初めてのキス 後編
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水族館を出ると、夕暮れが静かに広がってた。
海岸は、昼間の賑わいが嘘みたいに静かで、遠くに人影がちらほらと見えるだけだ。
波の音がやけに大きく響いて、なんだか少し寂しげだった。
砂浜を二人で歩くと、すぐに靴の中に砂が入る。
ちらりと大和の足元を見ると、もう裸足で歩いてた。
僕も真似して靴を脱いだら、昼間の陽射しの温もりと砂のチクチクした感触が僕の足を包みこんできた。
温かさの中の小さな痛みが、夏の終わりを告げてるみたいだった。
「なあ、水瀬、ここに来たことある?」
大和の声に、僕はちょっと考えてみる。
大和とは初めての海だったけど、家族で何度か遊びに来てたこと、クロを拾ったのもこの砂浜だったことを思い出した。
あの時、きつい目つきだった少年と出会って、クロと一緒に砂浜を駆け回りながら、少年らしい明るい笑顔を見せてくれてたっけ。
そんな懐かしい記憶が、ふわりと胸によみがえった。
「うん。僕、ここで大切な出会いがあったんだ」
僕が微笑むと、大和はなんだか嬉しそうに笑ってた。
その笑顔の意味がわからなくて、ちょっと戸惑う。
潮の香りに包まれて、大和の若葉のような匂いが遠ざかった気がして、さみしくなった。
だから思わず、大和の肩に頭を寄せたら、若葉のような香りがふわりと戻ってきて、ほっとした。
大和が足を止める。
「もうさ、こういう時にそうやって甘えるの、ズルいよな」
大和はキョロキョロとあたりを見回して、誰もいないのを確かめると、僕を強く抱きしめてきた。
僕も大和にしがみつく。
大和の心臓の音が大きく響いて、安心して目を閉じる。
ふと、大和の手が僕の肩にそっと置かれる。
柔らかい感触が唇に触れた。
キスしてるんだーーそう気づいて目を開いた瞬間、唇が離れた。
時間が止まったみたいだった。
夕陽の光が大和のイヤーカフをキラキラ照らして、僕の心をふわっと浮き立たせる。
大和がまたそっと僕を抱きしめてくれた。
潮の香りと大和の温もりが、僕を優しく包み込んでた。
このまま、ずっとこうしていたい。
そう思った瞬間。
「俺、水瀬とこうなれてすげえ幸せ。たぶん、最初から水瀬とこうなりたかったんだ。水瀬と会えたの、ほんと幸運だった」
大和の目が揺れる。
僕の心の奥を見透かすみたいに。
その視線に、胸が熱くなりながら、どこか締め付けられてしまった。
「……僕も。幸せだよ」
「最初から」。
大和の言葉に、僕の心がズキンと痛む。
ごめん。
僕は大和を騙してる。
翼じゃなくて、碧依なんだ。
僕は、気さくで誰とでも笑い合える、大和が好きになった翼じゃない。
オドオドして、翼に守られてないと大和の隣に立てない碧依なんだよ。
でも、大和といられる幸せは、本当の気持ちなんだ。
抱きしめられながら、そっと涙がこぼれる。
ポケットの瓶に触れて、ちゃんと話さなきゃと改めて思った。
でも、嫌われたら、 大和の笑顔が消えたら、僕の全てが終わる気がして、言葉が喉に詰まってしまう。
大和の裸足が目に入った。
足の指先についた砂が、夕陽に反射してキラキラと輝いてた。
スラリと伸びた脚は、無駄なく引き締まってて、アキレス腱がやけに目立つ。
告白された時も、初めて話しかけられた時も、僕はこうだった。
頭がパニックになると、どうでもいいことが目について、僕を混乱させてしまう。
今日はそんな風に冷静に考える、もう一人の僕がいた。
大和がふと僕の顔を見て、目を細めた。
「水瀬、ほんとに幸せか?」
一瞬の真剣な声に、鼓動が速まる。
「うん、大和とこうしていられるんだ。幸せに決まってるよ……」
慌てて大和に見えないように、涙を拭きながら答える。
大和は「そっか」って柔らかく微笑んでくれたけど、その目はどこか考え込むようだった。
帰り道、海辺の遊歩道を黙って歩く。
海沿いのレストランに車が入ってきて、停まる。
あ、店長の車と同じだ。
車種はわからないけど、珍しいデザインに目が留まった。
運転席から店長が出てきて、僕と目が合うと、慌てて助手席に声をかけてた。
翼が今日は夕方からデートだと喜んでたから、きっと助手席は翼だ。
僕たちと翼が鉢合わせしないようにと慌てる店長を見て、迷惑をかけている罪悪感に胸がちくりと痛んだ。
「あれ、店長だよな。あんなオシャレなお店、絶対デートだろ」
大和がポツリと呟く。
「……うん、そうだね」
助手席を隠すように立つ店長に手を振られて、なんだかますます落ち込んでしまった。
「水瀬、何で落ち込むんだよ。……なあ。水瀬と店長って……。いや、何でもない」
珍しく口ごもる大和に、僕は少し疑問に思ったけど、自分の考えが巡ってて、あんまり気にしなかった。
大和が僕の手を握る力が、いつもより弱く感じる。
……もう、充分かな。
大和からたくさんの思い出をもらった。
そっとポケットに手を入れる。
本屋で一緒に働いて、大和の名前を呼んで、手をつないで、いろんなところに行った。
映画を見て、花火を見て、水族館で笑い合った。
翼へのキラキラした笑顔も、僕にたくさん向けてくれた。
そして、キスもした。
これ以上は、欲張りすぎだと思う。
だって、この幸せは嘘の上にできた幻だから。
店長や翼にずいぶん迷惑をかけてしまった。
もう、二人きりで会うのは、今日で最後にしよう。
一週間後の夏休み最終日。
僕のバイトの最後の日だ。
この日、予定通りに大和に全部話して、謝ろうと心に決めた。
大和は怒るかもしれない。
笑顔を見られなくなるかもしれない。
告白された次の日の朝、それでもいいって、決めたじゃないか。
翼にも宣言してる。
ちゃんと、この嘘にけじめを付けるんだ。
僕の迷いは、静かに消えていく。
夕陽の光が、砂浜に長い影を落としていた。
波の音が、僕の決意をそっと包み込んだ。
海岸は、昼間の賑わいが嘘みたいに静かで、遠くに人影がちらほらと見えるだけだ。
波の音がやけに大きく響いて、なんだか少し寂しげだった。
砂浜を二人で歩くと、すぐに靴の中に砂が入る。
ちらりと大和の足元を見ると、もう裸足で歩いてた。
僕も真似して靴を脱いだら、昼間の陽射しの温もりと砂のチクチクした感触が僕の足を包みこんできた。
温かさの中の小さな痛みが、夏の終わりを告げてるみたいだった。
「なあ、水瀬、ここに来たことある?」
大和の声に、僕はちょっと考えてみる。
大和とは初めての海だったけど、家族で何度か遊びに来てたこと、クロを拾ったのもこの砂浜だったことを思い出した。
あの時、きつい目つきだった少年と出会って、クロと一緒に砂浜を駆け回りながら、少年らしい明るい笑顔を見せてくれてたっけ。
そんな懐かしい記憶が、ふわりと胸によみがえった。
「うん。僕、ここで大切な出会いがあったんだ」
僕が微笑むと、大和はなんだか嬉しそうに笑ってた。
その笑顔の意味がわからなくて、ちょっと戸惑う。
潮の香りに包まれて、大和の若葉のような匂いが遠ざかった気がして、さみしくなった。
だから思わず、大和の肩に頭を寄せたら、若葉のような香りがふわりと戻ってきて、ほっとした。
大和が足を止める。
「もうさ、こういう時にそうやって甘えるの、ズルいよな」
大和はキョロキョロとあたりを見回して、誰もいないのを確かめると、僕を強く抱きしめてきた。
僕も大和にしがみつく。
大和の心臓の音が大きく響いて、安心して目を閉じる。
ふと、大和の手が僕の肩にそっと置かれる。
柔らかい感触が唇に触れた。
キスしてるんだーーそう気づいて目を開いた瞬間、唇が離れた。
時間が止まったみたいだった。
夕陽の光が大和のイヤーカフをキラキラ照らして、僕の心をふわっと浮き立たせる。
大和がまたそっと僕を抱きしめてくれた。
潮の香りと大和の温もりが、僕を優しく包み込んでた。
このまま、ずっとこうしていたい。
そう思った瞬間。
「俺、水瀬とこうなれてすげえ幸せ。たぶん、最初から水瀬とこうなりたかったんだ。水瀬と会えたの、ほんと幸運だった」
大和の目が揺れる。
僕の心の奥を見透かすみたいに。
その視線に、胸が熱くなりながら、どこか締め付けられてしまった。
「……僕も。幸せだよ」
「最初から」。
大和の言葉に、僕の心がズキンと痛む。
ごめん。
僕は大和を騙してる。
翼じゃなくて、碧依なんだ。
僕は、気さくで誰とでも笑い合える、大和が好きになった翼じゃない。
オドオドして、翼に守られてないと大和の隣に立てない碧依なんだよ。
でも、大和といられる幸せは、本当の気持ちなんだ。
抱きしめられながら、そっと涙がこぼれる。
ポケットの瓶に触れて、ちゃんと話さなきゃと改めて思った。
でも、嫌われたら、 大和の笑顔が消えたら、僕の全てが終わる気がして、言葉が喉に詰まってしまう。
大和の裸足が目に入った。
足の指先についた砂が、夕陽に反射してキラキラと輝いてた。
スラリと伸びた脚は、無駄なく引き締まってて、アキレス腱がやけに目立つ。
告白された時も、初めて話しかけられた時も、僕はこうだった。
頭がパニックになると、どうでもいいことが目について、僕を混乱させてしまう。
今日はそんな風に冷静に考える、もう一人の僕がいた。
大和がふと僕の顔を見て、目を細めた。
「水瀬、ほんとに幸せか?」
一瞬の真剣な声に、鼓動が速まる。
「うん、大和とこうしていられるんだ。幸せに決まってるよ……」
慌てて大和に見えないように、涙を拭きながら答える。
大和は「そっか」って柔らかく微笑んでくれたけど、その目はどこか考え込むようだった。
帰り道、海辺の遊歩道を黙って歩く。
海沿いのレストランに車が入ってきて、停まる。
あ、店長の車と同じだ。
車種はわからないけど、珍しいデザインに目が留まった。
運転席から店長が出てきて、僕と目が合うと、慌てて助手席に声をかけてた。
翼が今日は夕方からデートだと喜んでたから、きっと助手席は翼だ。
僕たちと翼が鉢合わせしないようにと慌てる店長を見て、迷惑をかけている罪悪感に胸がちくりと痛んだ。
「あれ、店長だよな。あんなオシャレなお店、絶対デートだろ」
大和がポツリと呟く。
「……うん、そうだね」
助手席を隠すように立つ店長に手を振られて、なんだかますます落ち込んでしまった。
「水瀬、何で落ち込むんだよ。……なあ。水瀬と店長って……。いや、何でもない」
珍しく口ごもる大和に、僕は少し疑問に思ったけど、自分の考えが巡ってて、あんまり気にしなかった。
大和が僕の手を握る力が、いつもより弱く感じる。
……もう、充分かな。
大和からたくさんの思い出をもらった。
そっとポケットに手を入れる。
本屋で一緒に働いて、大和の名前を呼んで、手をつないで、いろんなところに行った。
映画を見て、花火を見て、水族館で笑い合った。
翼へのキラキラした笑顔も、僕にたくさん向けてくれた。
そして、キスもした。
これ以上は、欲張りすぎだと思う。
だって、この幸せは嘘の上にできた幻だから。
店長や翼にずいぶん迷惑をかけてしまった。
もう、二人きりで会うのは、今日で最後にしよう。
一週間後の夏休み最終日。
僕のバイトの最後の日だ。
この日、予定通りに大和に全部話して、謝ろうと心に決めた。
大和は怒るかもしれない。
笑顔を見られなくなるかもしれない。
告白された次の日の朝、それでもいいって、決めたじゃないか。
翼にも宣言してる。
ちゃんと、この嘘にけじめを付けるんだ。
僕の迷いは、静かに消えていく。
夕陽の光が、砂浜に長い影を落としていた。
波の音が、僕の決意をそっと包み込んだ。
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