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21.隠された瞳 前編
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僕がアパートに帰ると、翼はまだ帰ってきてなくて、誰もいない部屋はしんと静まりかえってた。
明かりのついていない部屋は、暗かったけど、街の灯りが部屋に差し込んでくる。
時々、遠くからの明かりが揺らめくたび、今日見たクラゲの姿を思い出した。
あのとき、僕は大和に真実を話すのが怖がった。
クラゲの揺らぎに僕の心も揺らめいていたんだ。
けれど、今はどんなに明かりが揺らめいても、心が惑わないことに、ホッとしてた。
明かりもつけず、リビングのテーブルに星の砂と今日買った大和とおそろいのイルカのペンを並べる。
差し込む明かりできらきら輝くその二つは、僕の宝物になるんだ。
これを見るたび、大和の笑顔や手のぬくもり、唇の柔らかさを思い出すに違いない。
ぼんやりとそれを見つめていると、玄関の扉が開く音がした。
翼が帰ってきたんだな、と思いながら、ぼんやりしたままだった。
すぐにパタパタと足音が近づき、部屋の明かりがパッとついた。
「うわっ、帰ってたの!? 電気もつけないで、どうしたの……もしかして、僕たちと鉢合わせたせいで、デートが台無しにしちゃった?」
しゅんと俯く翼に、僕はリビングの入り口に立つすくむ翼のそばに歩み寄り、「違うよ」と否定して、翼の髪をそっと撫でた。
いつも笑顔の翼が珍しく落ち込んだ顔をしているのを見ると、ちゃんと話さなきゃと改めて思う。
深呼吸しながら、テーブルに置いた星の砂とペンをちらりと見て、口を開いた。
「翼、僕、大和と二人で会うのはもう止める。たくさん思い出をもらえたから。夏休み最終日のバイトが終わったら、最初に決めた通り、ちゃんと大和に本当のこと話すよ。翼のふりをするのも、この夏休みで終わり。大和をだましててごめんなさいって、ちゃんと謝るよ。嫌われても、ちゃんとけじめつけないとね」
翼は僕の顔をじっと見つめた後、優しく背中を撫でてくれた。
「そっか。碧依、がんばれ。困ったことあったらいつでも言ってね。いつでも話を聞くよ。僕は、いつだって碧依の味方だから。碧依は僕の自慢の弟だよ」
翼の優しく包む声に、胸が少し軽くなった。
それから、翼が「コーヒー飲もうよ」とキッチンへ向かい、二人分のコーヒーを持ってきてくれた。
翼の作るミルク多めの甘いコーヒー。
リビングのソファに二人並んで座り、コーヒーを飲むと、僕はホッと息をついた。
テーブルに置いた星の砂の瓶とイルカのペンが、街灯の光でキラキラ光る。
翼がマグカップを手に、ニコッと笑った。
「なあ、碧依、今日の大和とのデート、めっちゃ楽しかった? 話してよ!」
翼の明るい声に、顔がカッと熱くなる。
でも、話したい気持ちが溢れて、ぽつぽつと口を開いた。
「うん……大和と、たくさん手を握ったんだ。海で、イルカのショー見て、びしょ濡れになって……大和、いつもよりすっごいはしゃいでて、僕も、なんか、すごく嬉しかった」
「うわあ、いいなあ! それでそれで?」
翼が目をキラキラさせながら次を促す。
少し照れながら、僕は笑った。
「イルカのペンもお揃いで買ったよ」
テーブルのペンを指差すと、翼が「へえ、かわいい!」とペンを手にとる。
「良い思い出たくさんできたんだね。碧依、めちゃくちゃ幸せそうに話してるよ。如月くんのこと、大好きって伝わってくる。……碧依、如月くんに全部話すんでしょ? すごい勇気だと思うよ」
翼の真剣な目に、胸がじんわり温まった。
「うん、話すよ。嫌われるかもしれないけど、ちゃんと謝って、けじめつける。翼のふりしてたの、ほんとごめんね」
翼がペンを置いて、僕の肩をポンと叩いた。
「謝んないでよ。碧依が楽しそうに話すの聞いて、僕、すっごく嬉しかったんだから。ほんと、自慢の弟だよ。碧依の気持ち、如月くんに届くといいな」
翼の笑顔に、涙が滲みそうになる。
ぐっと堪えて、逆に翼に聞いてみた。
「翼、店長とのデート、どんなだった? 教えて。僕、翼の話も聞きたいよ」
翼が「えっ、僕はいいってば」と笑いながら、ちょっと頬を赤らめる。
でも、僕がニコニコと翼を見つめ続けると、翼もぽつぽつ話し始めた。
「あのあと、碧依たちと別れて、シーフードのお店行ったんだ。すっごく美味しかった! 店長、僕が緊張しないように個室選んでくれてさ。で、来年の誕生日、二十歳になるからって……あ、ごめん」
「ううん、もっと聞きたい。全部話して」
僕が笑って言うと、翼は少しホッとした顔をしてた。
来月、僕と大和は、一緒にいないかもしれないと気遣ってくれたんだ。
でも、そんなことより、翼の幸せな話が聞きたかった。
僕の笑顔をじっと見たあと、また翼が話しだした。
「旅行プレゼントしてくれるって。翼の好きなところ連れてってくれるんだって」
翼のキラキラした目に、僕も笑顔になる。
羨ましいなんて全然思わない。
ただ、翼の幸せが眩しくて、胸が温かくなった。
「すごいね、翼。店長、優しいな。旅行はどこ行くの?」
「まだ決まってないけど、温泉とかいいなって」
「今日、僕たち、ほんと良い日だったね。こうやって話してると、なんか、喜びが二倍になる気がする。これからも翼の話、聞きたいな」
「僕も、碧依の話なら何でも聞きたいよ! 何でも言ってね! 嫌なことでも、嬉しいことでも、悲しいことでも、何でもね」
翼の言葉に、僕はうなずいた。
そんな僕の頭を、翼はくしゃっと撫でる。
僕、翼が双子の兄でほんとに良かった。
僕も、翼にそう思ってもらえるように頑張らないと。
翼の手の温もりに、また一つ勇気が湧いてきたんだ。
明かりのついていない部屋は、暗かったけど、街の灯りが部屋に差し込んでくる。
時々、遠くからの明かりが揺らめくたび、今日見たクラゲの姿を思い出した。
あのとき、僕は大和に真実を話すのが怖がった。
クラゲの揺らぎに僕の心も揺らめいていたんだ。
けれど、今はどんなに明かりが揺らめいても、心が惑わないことに、ホッとしてた。
明かりもつけず、リビングのテーブルに星の砂と今日買った大和とおそろいのイルカのペンを並べる。
差し込む明かりできらきら輝くその二つは、僕の宝物になるんだ。
これを見るたび、大和の笑顔や手のぬくもり、唇の柔らかさを思い出すに違いない。
ぼんやりとそれを見つめていると、玄関の扉が開く音がした。
翼が帰ってきたんだな、と思いながら、ぼんやりしたままだった。
すぐにパタパタと足音が近づき、部屋の明かりがパッとついた。
「うわっ、帰ってたの!? 電気もつけないで、どうしたの……もしかして、僕たちと鉢合わせたせいで、デートが台無しにしちゃった?」
しゅんと俯く翼に、僕はリビングの入り口に立つすくむ翼のそばに歩み寄り、「違うよ」と否定して、翼の髪をそっと撫でた。
いつも笑顔の翼が珍しく落ち込んだ顔をしているのを見ると、ちゃんと話さなきゃと改めて思う。
深呼吸しながら、テーブルに置いた星の砂とペンをちらりと見て、口を開いた。
「翼、僕、大和と二人で会うのはもう止める。たくさん思い出をもらえたから。夏休み最終日のバイトが終わったら、最初に決めた通り、ちゃんと大和に本当のこと話すよ。翼のふりをするのも、この夏休みで終わり。大和をだましててごめんなさいって、ちゃんと謝るよ。嫌われても、ちゃんとけじめつけないとね」
翼は僕の顔をじっと見つめた後、優しく背中を撫でてくれた。
「そっか。碧依、がんばれ。困ったことあったらいつでも言ってね。いつでも話を聞くよ。僕は、いつだって碧依の味方だから。碧依は僕の自慢の弟だよ」
翼の優しく包む声に、胸が少し軽くなった。
それから、翼が「コーヒー飲もうよ」とキッチンへ向かい、二人分のコーヒーを持ってきてくれた。
翼の作るミルク多めの甘いコーヒー。
リビングのソファに二人並んで座り、コーヒーを飲むと、僕はホッと息をついた。
テーブルに置いた星の砂の瓶とイルカのペンが、街灯の光でキラキラ光る。
翼がマグカップを手に、ニコッと笑った。
「なあ、碧依、今日の大和とのデート、めっちゃ楽しかった? 話してよ!」
翼の明るい声に、顔がカッと熱くなる。
でも、話したい気持ちが溢れて、ぽつぽつと口を開いた。
「うん……大和と、たくさん手を握ったんだ。海で、イルカのショー見て、びしょ濡れになって……大和、いつもよりすっごいはしゃいでて、僕も、なんか、すごく嬉しかった」
「うわあ、いいなあ! それでそれで?」
翼が目をキラキラさせながら次を促す。
少し照れながら、僕は笑った。
「イルカのペンもお揃いで買ったよ」
テーブルのペンを指差すと、翼が「へえ、かわいい!」とペンを手にとる。
「良い思い出たくさんできたんだね。碧依、めちゃくちゃ幸せそうに話してるよ。如月くんのこと、大好きって伝わってくる。……碧依、如月くんに全部話すんでしょ? すごい勇気だと思うよ」
翼の真剣な目に、胸がじんわり温まった。
「うん、話すよ。嫌われるかもしれないけど、ちゃんと謝って、けじめつける。翼のふりしてたの、ほんとごめんね」
翼がペンを置いて、僕の肩をポンと叩いた。
「謝んないでよ。碧依が楽しそうに話すの聞いて、僕、すっごく嬉しかったんだから。ほんと、自慢の弟だよ。碧依の気持ち、如月くんに届くといいな」
翼の笑顔に、涙が滲みそうになる。
ぐっと堪えて、逆に翼に聞いてみた。
「翼、店長とのデート、どんなだった? 教えて。僕、翼の話も聞きたいよ」
翼が「えっ、僕はいいってば」と笑いながら、ちょっと頬を赤らめる。
でも、僕がニコニコと翼を見つめ続けると、翼もぽつぽつ話し始めた。
「あのあと、碧依たちと別れて、シーフードのお店行ったんだ。すっごく美味しかった! 店長、僕が緊張しないように個室選んでくれてさ。で、来年の誕生日、二十歳になるからって……あ、ごめん」
「ううん、もっと聞きたい。全部話して」
僕が笑って言うと、翼は少しホッとした顔をしてた。
来月、僕と大和は、一緒にいないかもしれないと気遣ってくれたんだ。
でも、そんなことより、翼の幸せな話が聞きたかった。
僕の笑顔をじっと見たあと、また翼が話しだした。
「旅行プレゼントしてくれるって。翼の好きなところ連れてってくれるんだって」
翼のキラキラした目に、僕も笑顔になる。
羨ましいなんて全然思わない。
ただ、翼の幸せが眩しくて、胸が温かくなった。
「すごいね、翼。店長、優しいな。旅行はどこ行くの?」
「まだ決まってないけど、温泉とかいいなって」
「今日、僕たち、ほんと良い日だったね。こうやって話してると、なんか、喜びが二倍になる気がする。これからも翼の話、聞きたいな」
「僕も、碧依の話なら何でも聞きたいよ! 何でも言ってね! 嫌なことでも、嬉しいことでも、悲しいことでも、何でもね」
翼の言葉に、僕はうなずいた。
そんな僕の頭を、翼はくしゃっと撫でる。
僕、翼が双子の兄でほんとに良かった。
僕も、翼にそう思ってもらえるように頑張らないと。
翼の手の温もりに、また一つ勇気が湧いてきたんだ。
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