【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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 ヴィルヘルムはしょんぼりして俯き、頭をかいた。だが、思い付いたように顔をあげる。

「そもそも、私は改革がしたいとは言っていない! 今はまだ封建制度のままでいいんだ! だが、平民のエミリアにも優しくしてやれと言っている!」

「そうですか。では、殿下の御心に従い、彼女に優しく接します。ですが、タメ口は許可してはいけません。少なくとも人前では」

「分かった、人前ではそうしてもらう。それで良いな? エミリア?」

「はい。ですが...2人きりの時は宜しいのですよね?」

「あ、あぁ」

「その秘密の決定を、今、ここでお約束してはいけません」

 こんなに多くの人が集まり注目が集まっているこの場所で、許可したら意味がない。

「うるさいな! 分かっている!」

 分かってなかったから注意したのだが、今、分かってくれたなら良しとしよう。

「分かって下さって有難うございます。では、今すぐに医務室へ参りましょう!」

「何故だ!?」

「血液中の薬物反応を検査するためです」

「しつこいぞ! エミリアは無実だ!」

「疑いが晴れれば、エミリア嬢を側に置いて置ける可能性は高まりますよ? ですが、殿下が検査を受けないのであれば、王族に近付く不信人物としてエミリア嬢を連行し、尋問しなくてはなりません」

 エミリアは身を固くして、ヴィルヘルムの後ろに隠れた。

「嫉妬しないのか?」

「はい?」

 クリスチナは予想外の質問に何を言われたのか、一瞬分からなかった。

 そこは『検査すれば側に置いていいんだな?』とか、『脅す気か?』とか、『エミリアに酷い事をする気か?』とか言うのが普通じゃないのかな?

「だから、お前は嫉妬しないのかと訊いている!」

「嫉妬はしておりますが...エミリア嬢が王子の側にいられるように、優しく接しているのは、先程した殿下とのお約束を守っているからでございます」

「そ、そうか、嫉妬しているのだな? だが、私との約束だからか...ならばいい」

 何がいいのか、全く分からないが、ヴィルヘルム王子を一時的にエミリア嬢から引き離し、医務室へと連行した。


「結果はすぐには出ませんので、一週間ほどして結果が出ましたらお知らせ致します」

 ヴィルヘルム王子は、医師の説明をにこやかに聞いて頷いた。

 クリスチナは疑問に思いながらも、ヴィルヘルムへの注意を口にする。

「殿下、エミリア嬢を別室で待機させておりますが、出来れば結果が出るまでは、出来るだけ接触は避けるようにお願い致します」

「それも嫉妬しているから、引き離そうとしているんだろ?」

「違います。陛下の身を案じてのことでございます」

 ヴィルヘルムは急にしかめっ面になった。

「お前のそういう所だぞ!」

 ヴィルヘルムはそう言うと去っていった。

 ワタクシのどういう所が何なのだろう? 殿下の身を心配するなと言われても困るのだが...ワタクシが子供を叱る母親のようで殿下のプライドが傷付いた? 事務的な言い方で気持ちがこもっていないと思われた? それとも、嫉妬していると言って欲しかったのだろうか? ...まさか...婚約破棄を言い出しているのだから、そんなはずないか。
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