【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

文字の大きさ
50 / 73
第二章

50

しおりを挟む
「それは王子がワタクシのことを何が何でも手に入れたいと思って下さらないと! 誰だって自分を大切にしてくれる人と結婚したいものでしょう?」

「そうですね」

「そういう貴方は? どの令嬢の付き添いですの?」

 フリードリヒはエミリアに視線を向けた。エミリアは男性に囲まれて、絶好調で話している。

「え!? あの令嬢!? 知らない子ですわ。田舎の伯爵令嬢かしら?」

「まぁ、そのようなものです」

「そう、ワタクシはゆっくりしたいから、貴方は別の方とお話しして下さいね」

 エリーゼは、フリッツの身分が低いと思うなり、フリードリヒを追い払ったのである。

 なるほど、エミリアの案は悪くなさそうだ。令嬢の本心が容易く聞ける。

 エリーゼ嬢は実際に若いが、精神も幼い感じがする。


 フリードリヒは次に、辺境伯令嬢グロリアに声をかけた。

「フリッツです。お話ししても?」

「私でよろしければ... リアと申します」

「沢山召し上がっておられますね。料理は口に合いましたか?」

「えぇ、とっても美味しいです」

「王子とは話されないのですか?」

「私なんかに王子の妃は無理ですよ!」

「何故ですか?」

「何故って...見れば分かるでしょう?」

 グロリアは、少し大柄で少しふくよかな体型をしている。

「優れた体格の女性は素晴らしいですよ」

「お世辞は結構です。私は自分が不細工だって知っているんです。今日がマスケラ着用で本当に良かった」

 フリードリヒはグロリアの容姿は知っているが、不細工だとは思った事がない。どちらかといえば、華奢でブリブリしている女性の方が嫌いであった。

「選ばれる気がないのに、何故こちらへ?」

「王室からの招待だから、断れなかっただけです」

「ですが、釣書の絵姿を見てダメだったら、この会には呼ばれないはずです」

「釣書の絵姿は美化されているのです」

「来た以上は王子に見染められる可能性はゼロではないはず、選ばれて王子と結婚することになるかもしれませんよ?」

「絶対にあり得ないですけど、選ばれても断ります」

「何故ですか? 王子が嫌いですか?」

「いえ、王子様は良い方そうですし、嫌いではありませんが、結婚すれば妃はいつも注目を浴びますから、それが嫌なのです。絶対、皆から珍獣の癖に、身の程知らずだって言われます」

「気にしなければ良いのでは?」

「フリッツ様は、人気者そうだから分からないかもしれませんが、他人から悪意を向けられて平気でいられる人間なんていないのですよ。私はひっそりと暮らしたいのです」

「そんなに卑屈にならなくてもリア嬢は魅力的ですよ」

「では、貴方は私と結婚出来るっていうのですか?」

「少なくとも、見た目は問題ありません」

「本当に!? ...フリッツ様がエスコートされてきた御令嬢はどなたですか?」

 フリードリヒはエミリアを手で指し示す。

「やっぱり! 凄い美人じゃないですか! マスケラをしていたって分かります! ほっそりした手足に、小さなあご! 見事なブロンドで、胸も大きくて、男の人達が群がっているわ!」

「いえ、むしろエミリーが男性に取り付いているのですが...」

「美人だから自信があるのでしょう!? 同じことです! やっぱり、貴方も本当は美人がいいのよ!」

「美人がいいということに否定はしません。ですが、自信も美しさを決める要素だと思います」

「綺麗ごとだわ!」

「そうですか...これ以上は、お邪魔になるでしょうから失礼致します」

 フリードリヒはグロリアのもとから離れた。

 被害妄想のある女性では妃は務まらない。辺境伯は国境線を守る強力な騎士団を保有しているし、見た目も好みのタイプで悪くない相手だったが、残念だ。
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました

藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」  リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。 「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」  そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……? ※ なろうにも投稿しています。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

『すり替えられた婚約、薔薇園の告白

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢シャーロットは幼馴染の公爵カルロスを想いながら、伯爵令嬢マリナの策で“騎士クリスとの婚約”へとすり替えられる。真面目なクリスは彼女の心が別にあると知りつつ、護るために名乗りを上げる。 社交界に流される噂、贈り物の入れ替え、夜会の罠――名誉と誇りの狭間で、言葉にできない愛は揺れる。薔薇園の告白が間に合えば、指輪は正しい指へ。間に合わなければ、永遠に 王城の噂が運命をすり替える。幼馴染の公爵、誇り高い騎士、そして策を巡らす伯爵令嬢。薔薇園で交わされる一言が、花嫁の未来を決める――誇りと愛が試される、切なくも凛とした宮廷ラブロマンス。

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから

越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。 新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。 一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?

処理中です...