追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

文字の大きさ
18 / 134
連載

幕間 その頃のあの人達は(ライナス視点)

しおりを挟む
(ライナス視点)


 執務机には束ねられた書類の他に、柄のないシンプルな純白の封筒とレースで縁どられた可愛らしい水色の封筒の二つが並べられていた。
 これはリストとティアからの手紙だ。
 サージュ兄妹とは時々文通でお互いの近況を知らせ合っている。



「……心配だ」
 ここ数日ずっと頭の片隅に残っていた違和感というか、悩みがあった。
 ティア達からの手紙を読んでからずっと気になっている。
 それは、ティアの一人暮らしだ。



 仲介業者の件も片付き、ハーブ問題は完全解決。
 だが、不安定なエタセルのために自分が出来ることを探したいとティアは考えているらしく、住人たちの生活を知るために王都で一人暮らしをしたそうだ。


 ティアは元貴族令嬢。
 お茶や食事、掃除などは全て使用人達にやっていて貰ったのに、いきなり一人暮らしでは難易度が高すぎる。
 それに、リストの手紙ではティアは仲介業者との対決で勘違いをしたコルタに胸倉を掴まれたらしい。


 手紙越しでも背筋が凍ったのだから、現場にいたリストの心労は測りしれない。
 リストは胃を痛めて倒れてなかっただろうか? など、そっちも心配になってしまった。



 ティアはこれだ! と思ったら、突き進む猪突猛進タイプ。
 商会の仕事もしているので多忙なため、夢中になって食事を忘れてないか? など気になり出してしまって仕方がない。
 当事者であるティアは、城から商会の往復より近くなったと喜んでいたが……



 今度エタセルのパーティーがあるため、一日予定を早め俺だけエタセル入りしてティアの様子を見たい。
 そうすれば、少しは落ち着くだろうし。



 ――宰相のマオストに相談しなければならないな。留守中、メディのことも頼みたいし。



 俺は宰相室へと向かうために立ち上がれば、部屋へと通じる扉がノックされた。
 誰だ? と首を傾げながら入室を促すと、扉が開かれ宰相のマオストの姿が。
 なんてタイミングの良い。


「ちょうど良かった。話があって行こうと思ったんだよ」
「やっぱり悩み事か? なんか最近沈んでいたからさ」
「沈んでいたわけじゃない」
 俺はそう告げると、執務机の前にあった応接セットへ彼に座るように促す。
 そしてお茶を用意して貰うために、テーブル上にあったベルを鳴らした。



「……で、やっぱりティアナ様の件だよな」
 マオストから出た言葉に対して、俺は大きく頷く。



「よくわかったな」
「まぁ、うちは平穏そのものだから国の心配はない。ハーブ問題も解決したし。となると、メディ様かティアナ様のことだけだ。メディ様の動きは変わらずだから、何かあったとしたらティアナ様の方という消去法だ」
「ティアが一人暮らしを始めたんだ」
「たしかに男の訪問とか気になるよな。この間もエタセルの騎士団長と二人きりで来たし。国王であるレイガルド様もいるし」
 マオストの言うとおり男の気配があるかも気がかりなので、ちらっと様子を探って来ようとは思っている。



 感情のメーターを振り切った彼女は、可愛らしい姿とは裏腹に強さと潔さも持ち合わせている。
 前を見据え突き進んでいく姿を見て彼女に惹かれる男もいるかもしれない。


 俺のように――




「もちろん、そっちも確認する。だが、一番は食事だ。ティア、猪突猛進タイプだから食事するのも忘れてそうだから。ハーブの件でファルマまで最短ルートで来たくらいだし。常備薬の準備と保存食の作り置きをしたい」
「お母さん系国王だな。ティアナ様は大丈夫だって」
「マオスト。自分の妻が一人暮らしをしても同じこと言えるか?」
「うちの妻は貴族の代名詞と言われる名家の貴族だから無理。というか、俺が一人暮らしなんてさせない。もしそうなったら、俺は心配で仕事辞めて彼女の元へ向かう」
「ティアも同じだ。貴族令嬢だからな。きっと包丁すら持ったことがない。ああっ、俺にも転移魔法が使えたら……!」
「なぁ、エタセルで主催されるパーティーもうすぐだから少し早めに行けよ。こっちのことは俺もいる。ファルマは、お前が前王の残した負の遺産を片付けてくれたし、ティアナ様がハーブ問題解決してくれたから平穏だからさ」
「構わないか?」
「行って来いよ。なんだったら、フーリデを馬車代わりに転移魔法で連れて行って貰え……と言いたいところだが、あいつ今研究没頭中だからなぁ」
 ティアのお蔭で研究所の予算が増え、新しい機材も手に入ったらしい。
 その上、ティアから貰ったまだ未入荷のハーブサンプルもあるため、研究熱が溢れて仕方がないようで仕事に夢中だ。
 アールが食事や健康管理の面倒見ているので、倒れることはないだろうけど。




「言葉に甘えようかな」
「甘えろ。国王も休息が必要だからな」
「俺が留守中にメディの事を頼む。メディには俺から伝えておくから」
「任せろ」
 マオストが頷くのを見て、俺は早速ティアの元へ持って行く常備薬を考え始めた。








しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。