りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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16話 孤児院にて2

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「……」

 さっき昼食だと言われた気がするのだけど、これがそうだろうか。
 私は、小皿に載せられた芋の輪切り3枚を眺め、周囲を見回した。
 
 席に着くやいなや手づかみで頬ばる子ども達を見て、なるほど、と手を伸ばす。
 パサついて、少し芯が残って、お世辞にも美味しいとは言えない茹でた芋。
 これは危険だ。また喉に詰めないよう、少しずつしっかりカミカミして、水で流し込む。

「?」

 だけど、再び皿に視線を落として首を傾げた。
 おかしい、確かまだ2つあったはず。しかし、突如空になった皿はいくら眺めても空のまま。
 まあいい、さっきあれほど食べたし、芋は美味しくはなかったから。

 甘い甘い、クリームのパン。柔らかく煮込んだお肉とお芋、甘いはちみつがけサラダ。
 そして、固いパンはリトがちぎってスープに放り込む。
 しっかりスープに浸ったパンは、ふうふう冷ましてから口へいれるのだ。油断してはいけない、じゅわっと口の中に熱いスープがあふれ出すから。

『熱いからな、ふーふーしろ。いきなり口へ入れるな。いいか、よくカミカミだ』

 パンをちぎりながら、リトは毎回しつこくそう言うのだ。私は、一度で覚えられるのだけれど。
 お気に入りの食事を思い返した私は、コップの水を飲み干して、リトは何時頃に帰ってくるのだろうと考えていた。


 
「さあ、お片付けしたら戻っていいわよ! 先生を手伝ってくれる人は、後で畑に集合ね」

 手や顔は拭いてもらわなくていいのだろうか。あれが一連の流れだと思っていたのだけど。
 戸惑う間に一斉に立ち上がった皆は、それぞれ皿とコップを持って大きなカゴに入れている。
 
 なるほど、と頷いた私は、椅子の背につかまって慎重に足を下ろし、しっかり立ち上がれたことを確認。ついで皿とコップを抱えると、1歩1歩確実に歩を進めていく。両手が塞がっているというのは、中々難しいものだ。
 だから、簡単にバランスを崩してしまう。
 そう、誰かと僅かに肩がぶつかった、それだけで。

 前からの軽い衝撃で、視界はあっという間に天井になり――
 ごとん! と派手な音が鳴った。
 ぐわりと意識が混濁するような感覚が襲ってくる。私はまだ握っていた食器を放り出し、ぎゅうっと丸まって後頭部へ両手を当てた。

 痛い。こんなに、痛い。

 初めての経験に声も出ない。
 痛い、という感覚は知っている。最初に歩こうとして崩れ落ちた時、膝と手が痛かった。
 固いリトの体を叩くと、手が痛かった。
 だけど、こんなに痛いのは初めてだったから。

 何度も何度も転んだけれど、必ずリトの手がそこにあったから。
 後頭部からじりじりと広がって、にじむように薄くなる痛みは、それでも一定以上には減ってくれなかった。
 詰めていた息をそっと吐き出して、両手を確認してみる。大丈夫、出血はしていない。

「まあ! どうしたの。あなたは……リュウちゃんだったわね」

 幸い、片付けに戻って来た先生が気付いてくれたらしい。

「転んだのね、泣かずに偉いわ。ほら、立っちしましょう」

 そうなのか。そう言えば、ここへ来た時もそう言っていた。
 泣かないのは、偉いらしい。
 私は、何かと声をあげて泣いている子どもの方が素晴らしいと思ったけれど。
 手を引いてもらって立ち上がり、歩き出してまた転んだ。
 今度は前に転んだおかげで頭は痛くなかったけれど、膝が破れてしまった。

「わ、リュウちゃん大丈夫? ほーら強い子! あら……本当に全然泣かないのね……」

 どこか微妙な声音を不思議に思いつつ、私は揺れる視界を、漏れそうな声を堪えて滲んでくる赤を見つめていた。
 当然、泣かない方がいいのだろうから。


 ――暗がりの中で健やかな寝息を聞きながら、私は足音がしやしないかと聞き耳を立てていた。
 大きな部屋は、今は片付けられて一面に薄い布団が敷かれている。

 ……リトは、どうやら遅くまで仕事をしているらしい。
 もしかすると、迎えは明日の朝になるのだろうか。
 仕事中は、食事を摂れるのだろうか。お腹が空いているのではないだろうか。
 そう考えた途端、私の腹が鳴る。

 今日の夕食は、ささやかな雑穀と野菜の切れ端が入った塩味のスープ。そして、根菜を煮たもの。
 美味しくはなかったけれど、お腹は空いていたから。
 不器用な小さい手でスプーンを握り、せっせとスープを掬っていた。

 だけど、ふと顔を上げた時には、昼間同様の事態に陥っていた。

「りゅーの、ごはん……」

 誰もこちらを見ないけれど、さすがに気が付いた。
 これは、恐らく子どもたちに盗られてしまったのだろう。
 何せ、このささやかな食事だもの、お腹が空いているのはみな同じ。

 しかし、分かったところで食べられてしまったものはどうしようもない。

 ――そうして、私はこのように空きっ腹を抱えて布団に入る羽目になっていた。

 リトは、まだ来ない。

 ……やっぱり、あの時の腸詰めを食べておけばよかったのだ。
 じくじくと、身体の中心が蝕まれていくような気がする。
 ふと、握りしめていたハンカチを口に含んでみた。

 ただの、布の匂い。香りも、ぬくもりも残ってはいない。
 それでも。
 なんとなく、落ち着いた気がした。
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