りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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74話 お目当ての店

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「こっちの方はあんま来ねえんだよな。合ってると思うが……お前分かる?」

がりがりと頭を掻いて、リトが手を繋いだ私に視線を落とした。
リトを通して見える空が、とても青い。リトと空と、焦点を行ったり来たりさせながら頷いて見せる。

「りゅー、わかる」
「分かんのかよ!」

思わず、といった風に足を止めたリトに首を傾げた。

「わかる。りゅー、地図おもえてる」
「覚えてる、な。そういやそうだったか……改めてすげえな」

リトは、覚えていないらしい。数年この町に住んでいたというのに、不思議なものだ。
服の店員が言っていたのは、もう少し先の店。こうして歩いて行くのに、とてもいい距離。
少し肌寒いけれど、リトの大きな手が、私の手を丸ごと包んでいる。これは、手を繋いでいるとは言わないと思う。捕まえている、の間違いだろうか。
その手がふいと離れた途端、ふわりと体が浮いた。

「なら、お前が案内してくれ」

リトの左腕に腰かけるように尻が落ち着き、視線が同じような高さになる。間近で閃く銀色の瞳は、今は白銀に見える。きっと、私がいっぱいに映っているから。
こくり、頷いて短い腕を伸ばし、先を指さした。
リトが普段来ないと言うように、私もここは通ったことがない。
煌びやかで明るい色合いの店は、雑貨や宝飾品などが多そうだ。服を作ったりするには、なるほど必須の場所だろう。

私たちが向かうのは、さっきの店員がお勧めしてくれたお店。
リトが、店を出がけに思い出したように二人に尋ねたのだ。なんでも、こういうことは町の女性が詳しいのだとか。

「村だとこうはいかねえけど、このくらいでかい町なら、結構期待できると思うぜ」
「しゅい……ちゅいーちゅ」

何と発音しにくい。ぶっと吹き出したリトに、周囲の視線が集まって慌てて咳払いなどしている。
ともかく、人気のスイーツ店らしい。
クリームパンのように、甘くて美味しいものがたくさんあるという。
楽しみだ。
ふわっと流れた風が、私の髪を巻き上げてリトの頬をくすぐる。まだ、甘い匂いはしない。
楽しみだ。
ことんことんと揺れる大きな歩幅が、あっと言う間に店までの距離を縮めていく。

私の口の中は、もう唾液でいっぱいになっている。たら、と口の端から溢れそうになって、そばにあった頬に顔をこすりつけた。
おい、と怒ったリトが袖で自分の頬と私の口元を拭う。
楽しみだったはずなのに、これはもう、『楽しい』でいいような気もする。だってどこから『楽しい』で、どこまでが『楽しみ』なんだろう。
だって、私はもう、じゅうぶん楽しい。
たまらなくなって手足をばたつかせる。だってそうすれば――

「暴れんな、落ちるぞ」

ほら、想定の通りだ。
ぎゅう、と押し付けられた体に笑みが浮かんだのだった。



「――ここ」

リトの足では、すぐにたどり着いてしまう。
目当ての店を目の前に、二人してその建物を眺めた。黄みがかった柔らかい白を基調とした建物は、私の目には既にクリームのように見える。薄桃色の模様がついたオーニングまで、美味しそうだ。

「お、おう……ここ、だな」

リトは、どこか腰の引けた様子で近寄ろうとしない。
お店の外には、数人が列を作っている。この時間ならそんなに並ばないと言っていたから、これは『そんなに』の範疇なんだろう。
さっきから、そこにいる人たちがみんなこちらを見ている気がする。それも、隣の人と視線を交わしては、忙しくこちらを見ているようだ。
整然としていた列が、急に落ち着きをなくしたように乱雑な印象になる。

「りと、ここ」
「分かってるけどよ……いや、予想はしてたんだけどな」

ぺちぺちとリトの胸元を叩いて店を指さすと、列の人たちがまたざわめいた。
リトはうっと呻いて苦笑すると、踏ん切りをつけるように乱暴に頭を掻いて足を踏み出したのだった。



「……りと、ここ嫌?」

列に並んだリトはさっきから何も言わないし、どうも尻のおさまりがしっくりしない時の私のような……ああ、これが居心地が悪い、ということだろう。なんと的確な表現か。
なぜか被ってしまったフードをまくりあげて覗き込むと、伏せていたまつげが上がった。

「嫌じゃねえよ、けどまあ……俺が来るような店じゃねえからな。場違いだろ? ほら、周り見てみな」

右を見る。リトの胸元まであるかないかくらいの女の人たちが、私と目が合って嬉しそうな顔をする。
左を見る。さっきと同じ光景かと思うほど似た状況に、おや、と首を傾げた。同時に小さく歓声が上がって、楽し気な笑い声がする。

今や列の中央あたりにいる私たち。とりわけ、リト。
……なるほど。
頭ひとつ分どころか、私半分くらい大きいリトは、列の中でものすごく目立っていた。
色も、リトだけ黒く沈んでいる。私は全体的に白っぽいから、むしろ馴染んでいるかもしれない。

「りと、恥じゅかしい? ふく、着替える?」
「そういう問題じゃねえんだよ」

ふはっと笑ったリトが、諦めたようにフードを跳ねのけた。
途端にきゃあっと悲鳴があがり、私は咄嗟にリトに伏せてしがみついた。
だけど、危険はなかったらしい。
そっと顔を上げると、左右の人たちがリトを見ている。とても、珍しい生き物を見ているような目だ。
ああ、これは、恥ずかしいだろうな。
多分、リトみたいな人間がここにいるのは、とても珍しいのだ。

見上げたリトが、「な?」と言うように口の端を上げて首を傾げた。
私も、うんと頷いて慰めるようにその頭を撫でる。

「りゅーの、かちてあげる」

ふわふわのケープ。ぽんぽんのついた紐を引くと、魔法のようにするりと解けるのだ。ただし、私では元のリボンにできないのだけど。
白っぽくてふわふわのこれがあれば、リトも少しは馴染むだろう。
柔らかなケープがするり、と滑って肩を離れると、急に外が寒く感じる。
いらねえよ、というリトを無視してその肩にまわそうとしたのだけれど、どう考えても布が足りない。リトは、こんなに大きいのか。

少し考えてリトの右肩にケープをかけると、ぎゅっとぽんぽんを結んだ。
おい、と焦ったリトが首に食い込む紐を緩めている。
私は、リトの右肩に寄り掛かって腕を回した。こうすればきっと右側も温かいし、そして白っぽい。
ふふっと笑ったリトの息が、私のおでこに掛かった。

「じゃあ、お前には俺のを貸してやる」

そう言って黒い上着を脱いで前へ回し、私を包んで抱き寄せた。
みるみる冷え始めた体が、温かさに包まれてすうっと力が抜ける。
リトの温度が移った上着は、とても温かい。
くっついたリトの胸は、もっと温かい。
リトとは、真逆だ。とても、とても居心地がいい。

だから、私は言わないでおいた。
そんな風にしたら、またリトが黒色になってしまうこと。
きっとリトは、気づいていないと思ったから。
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