りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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155 リュウのこわいこと

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「この野郎……! てめえは幼児じゃねえだろうが! 吐くならせめてポケットから出てやれよ……!」
「そんな場合ぃ?! 我、死ぬかも……おうぇっ! ぎ、ぎもぢわる……ちょ、逆さまにしたら余計に……っ!」
「ひとまず数日の船酔いで死にゃしねえだろ」

リトが、ポケットからつまみ出したファエルをどうしようかと困っていたので、サッと収納から紙袋を取り出した。これは、確かいつだったか屋台のパンが入っていた袋。

「お、気が利くじゃねえか」

ぽいっとファエルを放り込んで、ぐしゃっと袋の口を握った。
なんだか、そのままゴミ箱に入れるようなスタイルだ。

「しゅてる?」
「そうしたいとこだがなあ……生ものだから、そこらに捨てると迷惑になりそうだ」
「生ものは、海がある」
「なるほど! そりゃ海の生き物も喜ぶだろ」

……生ものを捨てるなら、海の生き物にと思っただけで。
別にファエルをそうしようと思ったのでは、なかったのだけど……。
前後が繋がってしまって、あれっと首を傾げたところで、ばりっと袋を破ってファエルが飛び出してきた。

「ちょっとぉおーー?! 何言っちゃってるわけ?! 我、海の藻屑とか嫌なんですけど?! 温かくて明るくて花と本に囲まれたふわふわした場所で、これまでの人生をゆっくり振り返りながら逝く予定があるのにっ!!」

元気そうだ。
そして、かなり難易度の高い最期だ。どちらかというと、死んだ後の方がそれに近いのでは。天国があると仮定するなら、きっとそういう雰囲気だろう。のんびり振り返らず、さっさと逝くのが吉かもしれない。ファエルが天国に行けるなら、の話だけれど。

「ワニの腹の中にいた奴が、何言ってやがる」
「いやああ! 思い出させないで?! 我のおぞましき記憶が……!」

空中を転げまわるという、器用なことをするファエルを目で追いながら声をかけた。

「ふぁえる、覚えてる? 内臓の中、どんなかんじ?」
「幼児の純然たる悪意なき残酷な興味ぃ! おぞましい記憶って、我ちゃんと言ったでしょ?! そういうこと思い出させちゃダメなわけ!」
「めめなさい。あたたかくて、ふわふわ?」
「素直だけど反省の色なし!! そもそも覚えてないわ! きっと恐ろしい記憶として厳重に心の奥底にしまわれて――」

せっかく思い出したなら、言ってくれてもいいだろうと思ったのに。
なんだ、結局覚えていないのか。
とりあえず、飛んでるファエルが色々汚いし、リトも汚い。

「あくるまふるす!」
「おお……便利だな?! なるほど、こういう時に使うのか!」

普段、連発しすぎて何の効果も感じられないから、リトはきれいになったポケットを見て感動している。
ついでにファエルも洗浄しておいて、ようやく人心地ついた。

「はぁ~我、飛んでる方がマシな気がする……疲れるけど」

どうやらファエルも吐くほどではなくなったようで、一安心だ。
回復魔法とやらがあるのなら、もしかして攻撃よりも必要な能力かもしれない。
でも、医者がいたところを見るに、きっと万能ではない。

船室をのぞいているうちに、どんどんお客さんらしき人たちが入って来た。
お客さんたちは、甲板に行きたくないんだろうか。私なら、ここより外の方が気持ちがいいと思うのに。

そうしてしばらく船内を見て回っていたところで、大きなラッパのような音がした。

「お、出発だな。甲板に戻るぞ」

何か言う前にサッと抱き上げられ、背負子に収められた。
ファエルが素早くリトのポケットに潜り込み、リトがすごく嫌そうな顔をする。

「入んな、出ろ!」
「嫌! 我、飛ばされて海の藻屑になりたくない! もう酔わないからぁ!」

舌打ちしつつ、早く集合しないといけないらしいリトが、足早に甲板へと戻った。
甲板には、揃いの服を着た、思ったよりたくさんの人がいる。そして、リトみたいな冒険者が数人。
冒険者グループの方へ歩み寄ると、奥にいた人が片手を挙げた。

「よう、今日も頼むぜ! で? その背中のが……? ま、マジで幼児なんだが?!」

私の方へ回り込んできたその男性は、頬に大きな古傷があって、ラザクよりも真っ黒になっていた。
海に入ることがあるのだろうか、随分と身軽な恰好だ。
この人が、冒険者グループのまとめ役だろうか。

これは、いわゆるリトの仕事仲間、それも上司にあたるのかもしれない。
じっと彼の目を見上げて、リトの印象が悪くならないよう挨拶をする。

「はじめまちて。わたちはりゅーと申しましゅ。まじゅは、ご同船の機会をいたらき、ありやとうござます。こたびの同行に問題が発生ちないよう、たらいの安全とこうりちゅに配慮ちた協力関係をきじゅければ、こちやとちても幸いれす」

ぺこり、と頭を下げた拍子に、背負子に頬が潰れた。
リトはこういう所ができないだろうから、私がカバーするのだ。
少々滑舌は怪しくとも、概ね伝わるだろう。
そう思ったのに、顎が外れそうに口を開けた男性が、まじまじと私を見て、目までこぼれそうに見開いた。

「ふっ……! いや、すまん。こういうヤツだ。見た目よりずっとしっかりしてんだよ」

吹き出したリトの肩が震えている。
そしてリトと私を何度も往復した視線が、私で止まった。

「はあぁあ?! しっかりとか……そういうレベルじゃねえぇ?! どうなってんだ?!」

大きな動作で頭を抱えた男性が、思い切り髪をかきむしった。
ものすごく、感情を身体で表現する人だ。私には、とても羨ましい。ちゃんと、覚えておこう。
まだ何か言うんじゃないかと、期待されている気がする。まるで珍しい動物でも見るように、おそるおそる離れた位置から眺めまわして、そのうち棒でつつかれそうな気さえする。
でも、もう言うべきことは言った。

「基本は俺がこうして背負ってるから、迷惑かけねえよ。肝は据わってるし、大人し……大体は、大人しいしな」
「そりゃ肝は据わってんだろうよ……俺らを前に、何つう堂々たる態度。坊主、怖くねえか? 俺ら、割と子どもに泣かれんだけど……」

言われた意味が分からず、首を傾げる。

「怖がるわけねえだろ……。フェルウルフの群れに囲まれても、マーシュドルに食われかけても、眉1つ動かさねえのに。人間ごときが怖いわけねえ。それが、俺は一番怖いんだけどな……」
「いやいやいやいや、そりゃちょっとアレだろ。感情がちょっと欠……あ、うん、まあ事情は色々あるわな。ぼうずは怖いモンがねえのか、そりゃすげえ」

リトの視線に慌てて口をもごつかせた男性が、途中で言葉を変え、ほんの指先でおずおず私の頭に触れた。
怖いもの、ないだろうか。
ふと、先日リトが言っていたことを思い出す。
ある。私も、怖い。

伸びあがってリトの首に腕を回し、ぎゅうっとしがみつくと、その首筋にぺたりと頬を寄せた。

「りゅー、りとと離れるの、こわい」

ぴくりとしたリトが、どこかぎこちなく私の頭を撫でて、そっぽを向く。

「……ぶっ! ほっほう~。これはこれは、いいもん見せてもらったわ。いつも飄々としてるお前も、そんな顔す――おい、睨むな、威圧すんな!! 八つ当たりだろ!」

仲間の元に駆け戻った男性が、他の人を叩きながら大笑いしている。
そんなに、面白い顔をしていたんだろうか。
覗き込もうとしたけれど、察したように躱されて、結局私はその顔を見ることができなかったのだった。





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