聖なる森と月の乙女

小春日和

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聖なる森と月の乙女

公爵令嬢と夢の回顧④

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「うわっ、何その甘ったるい雰囲気!」

私たちを見た瞬間、げぇっと砂を吐くような顔をするお兄様に、私は恥ずかしさのあまり顔を手で覆う。
アルフレッドと思いを伝え合った翌日、アルフレッドの執務の休憩に合わせて、私とアルフレッド、お兄様とルナマリア様の4人で集まっていた。
アルフレッドは横に座る私の腰に手を回し、2人の間に隙間ができないほど、私を引き寄せている。
もちろん、恥ずかしすぎて最初は抵抗していたけれど、アルフレッドの力に私が敵うわけもなく、ルナマリア様が入室してしばらくした頃に諦めた。
そして、最後にお茶を持って入ってきたお兄様のこの反応。
もう私の精神力はゴリゴリと削られまくりである。

「雨降って、地固まるとはよく言いますよね。」

お茶を優雅に飲みながら、にこにこと微笑ましそうに言うのはルナマリア様。

「え?!いつ雨なんて降った?!」

ルナマリア様の言葉にお兄様は納得がいかないようで、私たちとルナマリア様を交互に見ながら、言い募る。

「いやいや、それってこれからじゃないの?
占い師のゲイルってやつが絡んでる分、雨じゃなくて嵐になりそうではあるけど!」
「うるさいぞ、エマ。それに滅多なことを言うな。私たちの間に雨など降らないし、嵐も来ない。」

アルフレッドにそう言われて、何故かお兄様は項垂れる。

「なるほど。エマニュエル様はシスコンでいらっしゃいましたか。」
「なっ!違っ!」

ふふふふふ、とおかしそうに笑うルナマリア様にお兄様は即座に否定された後、とても疲れた顔でため息をついて自分の椅子に座った。

「まあ、落ち着くところに落ち着いたみたいで良かったよ。」

また父上が荒れるなあ、とやはり疲れたように呟くお兄様に、アルフレッドは苦笑しながら上手く取り持ってくれと言っていた。
お父様、もしかしてこうなることを見越して、私の一時的な王宮入りを嘆いていらっしゃったのかしら?
そんなことを頭の片隅で考えながら、お兄様の隣で相変わらず優雅にお茶を楽しまれているルナマリア様に声を掛けると、何でしょう、と柔らかい返事が帰ってきた。

「これ、ルナマリア様に。」

そう言って差し出したのは、ポプリの入った巾着と回復薬だ。

「これは…。私が頂いてもいいのですか?」
「もちろんです。私たちに協力していただいているルナマリア様が、王女やゲイルから狙われる可能性は高いのではないかと思いまして。
この国で月の雫を探すためとは言え、危険なことに巻き込んでしまってごめんなさい。」

本当は私たちと関わらない方がいいのは分かっている。ルナマリア様のことを考えれば、そうするべきだけど、王女やゲイルについて私たちよりも知っている彼女は、私たちにとってとても頼れる存在であることは間違いない。
だから、せめてお詫びにと、もう一つ包みを渡した。

「これは?」

包みを受け取ると、ルナマリア様は困惑したように包みと私を交互に見やる。

「ルナマリア様のものと同じ回復薬ですが、それは宜しければ隣国の婚約者の方へ。
私に本当に癒しの力があるのなら、婚約者の方にも少しでも良い効果が出てくれればと思いまして。」

そう言う私に、ルナマリア様は驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに頬を緩めた。

「ありがとうございます。早速送り届けたいと思います。」

ほんわかと微笑みあっていると、横からアルフレッドに引き寄せられ、アルフレッドの胸元に顔を抱き込まれた。

「見るな、減る。」

ルナマリア様に憮然とした声で告げるアルフレッドに、ルナマリア様の苦笑する声が聞こえる。

「だから、同性に嫉妬してどうすんだよ…」

お兄様の疲れた声に心の中で共感した。
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