隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

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1年生編:1学期

第11話 班決め

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 朝の教室には、いつもより少しざわついた空気が漂っていた。
 来週に控えた遠足の話題で、生徒たちはそわそわと落ち着かない。窓の外には春の柔らかな光が差し込み、教室の中を明るく照らしているのに、桐谷晴の胸は少しざわついていた。

「晴、今日のHR、遠足のペア決めだって」
 隣の美羽が小さく声をかけてくる。

「そっか…どうしようかな」

「楽しみなんでしょ? 動物園だし」

「まあ…そうだけど、ペアってなるとちょっと気を遣うんだよな」

 美羽はくすっと笑い、肩越しにちらりと窓の外を見る。
 桜の花びらが風に揺れて舞うのを見て、ふっと小さなため息をつく。

「大丈夫だよ、晴なら誰とでもうまくやれるって」

 その言葉に、晴は少し心が軽くなるのを感じた。思わず小さく息をつくと、窓の向こうの青空が眩しく、春の匂いが教室に混ざる。教室の中はざわざわしているけれど、その光景だけはなぜか落ち着いた気持ちにさせてくれる。

 HRが始まると、担任の先生が黒板の前に立った。

「今日のHRは来週、遠足で行く動物園についていろいろ決める時間にしようと思う。動物園ではなるべく2人組のペアで行動してもらいたいが、いろんな人と回りたい人や一人で回りたい人は無理にペアは組まなくてもいいぞ。ペアは自分たちで決めてくれ。」

 その一言で、クラスのざわめきが一気に活気を帯びた。自由に相手を選べる喜びと、気まずさが混ざり合った微妙な空気だ。
 晴は窓際に座ったまま、まだ決まっていないペアのことを考えていた。美羽とペアを組めるだろうと直感で思ったが、わざわざ口に出すのも照れくさい。

 教室を見渡すと、友達同士でペアができ、笑い声や小さな声での相談が聞こえる。時折、机を叩く音や鉛筆を落とす音も混ざり、教室は穏やかにざわめいていた。窓際の光が机やノートに反射して、ほんのり暖かく見える。

 晴の目は自然と美羽のほうへ向いていた。

「ねぇ、晴って誰と組む?」
 美羽がそっと耳元で尋ねる。

「えっと…まだ決めてない」

「そっか…じゃあ、どうする?」

「うーん…まあ、ペア組まずにいろんな人と回ろうかな」

 美羽がにっこり笑い、そっと腕を触れてきた。
「ねぇ、晴。私と一緒に回らない?」

 その距離感に、晴は少し心臓が跳ねる。
「え、いいの?」

「もちろん。だって、一緒に行きたいもん」

「…そっか」

 周囲の友達も相談が進む中、少しずつペアが決まっていった。教室の端では笑い声が上がり、誰と組むかで軽い競争心も見え隠れする。

 決まったペアの名前を紙に書き込むと、教室は一気に落ち着きを取り戻した。晴と美羽も自然な流れでペアを確認し、隣に座ったまましばらく静かに話していた。動物園のパンフレットを開く音や鉛筆のカリカリという音が、春の日差しと混ざり合う。

 昼休み、中庭のベンチに二人で座る。風に揺れる葉の影が制服の袖に落ち、日差しと影が小さな模様を作る。小さな花がベンチの周りに咲き、春の香りがふわりと漂う。

「遠足、どのくらい歩くんだろうね」

「さぁ…動物園だから、結構広そうだよ」

「晴、足大丈夫?」

「まあ、歩けると思う」

「ふふ、じゃあ安心」

 春の風がそよぎ、小鳥の声が遠くから聞こえる。通りすがるクラスメイトの笑い声が背景に溶け込み、二人だけの時間がゆっくり流れた。

「晴、何の動物が楽しみ?」

「うーん…ライオンかな。あとはペンギンも見たい」

「ふふ、じゃあ私も一緒に見よう」
 その言葉に、晴は少し顔を赤くする。

「一緒に…?」

「当たり前じゃん。ペアなんだから」

「そ、そうだね」

 午後の授業が始まる前に、二人の会話は少しずつ弾んだ。窓の外の桜の花びらが舞い込み、教室に小さな影を落とす。遠足までまだ日があるのに、心はもう少しずつ期待で満たされていた。

 放課後、校門を出て歩く二人の影が夕日に照らされ、長く伸びる。

「晴、来週はいっぱい歩くから、体力つけとかないとね」

「うん、美羽も一緒に歩くんだし」

「そうそう、負けないよ!」

 小さな笑い声が夕暮れに溶けていく。二人の間に流れる空気は、ただ穏やかで、少しだけ甘い。手を伸ばせば届きそうな距離感で、でもそれをわざと楽しむような微妙な間があった。

 帰り道、道端の小さな花や、新しく芽吹いた緑を眺めながら、二人は歩幅を合わせてゆっくり歩く。時折、花の香りが風に乗って鼻先に届き、自然と笑みがこぼれる。
 晴は心の中で、美羽の笑顔を繰り返し思い浮かべる。
(遠足の日が楽しみだな…でも、今日のこの時間も大事にしたい)

 二人の間に、小さな沈黙が訪れた。その沈黙は決して気まずいものではなく、心地よい安心感で満ちていた。遠くで遊ぶ子どもたちの声や、風に揺れる草の音が静かに重なり、まるでこの瞬間だけが時間を忘れたかのように思えた。

 さらに二人は、次の週末の遠足のことを少しずつ想像しながら話す。

「晴、ライオンの前で写真撮ろうね」

「もちろん。あと、ペンギンも絶対見る」

「ふふ、順番にいろんな動物を見て回ろうね」

「そうだね、二人で全部回れるといいな」

 帰り道の空気に、夕日のオレンジ色が校舎に反射し、二人の影をさらに長く伸ばす。微かな風が吹くたび、晴は思わず美羽の髪にかかった風を払い、心の中で小さく笑った。

 春の光が最後まで二人を照らし、教室の中でも、校庭でも、帰り道でも、日常はゆっくりと流れていった。小さな風の音、遠くで遊ぶ子どもたちの声、そして二人の笑い声――そのすべてが、春の一ページとして静かに刻まれていった。
 
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