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1年生編:1学期
第13話 高校生アイドル
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土曜の昼下がり。
柔らかい陽射しが街全体を淡く包む時間帯で、駅前のロータリーには思った以上に人が多かった。休日のゆったりした空気と、どこか浮き立ったざわめきが混ざり合っている。
晴がそこへ着いた頃には、すれ違う人の会話や足音、車の音までもが妙に鮮明に感じられた。
「ねえ晴、こっちこっち!」
人の流れの向こうで、ひらりと揺れる桜色の髪が目に入る。
美羽が片手を大きく振りながら、弾むようにこちらへ合図を送っていた。
その表情は、いつも以上に明るく、まるで胸の奥に小さな花火でも抱えているかのようだった。
「で、今日はどこ行くんだ?まだ聞いてないんだけど」
晴が歩み寄ると、美羽は待ちきれないといった様子で駆け寄ってくる。
「うふふ、着いてからのお楽しみ~!」
冗談めかした声とともに、美羽は晴の腕を掴んだ。
その仕草は軽いのに、どこか強い意志を秘めているようで、晴は思わず心の中でうなる。
(嫌な予感がする…いや、嫌じゃないけど…なんだろう、この感じ)
二人で並んで歩く。街路樹の影がゆらゆら揺れて、道を行き交う人たちの表情が春風に溶けていく。
しばらく歩いたところで、美羽が唐突に「ここ!だよ」と声をあげて立ち止まった。
「じゃんっ!」
両手を広げるように示したのは、ビルの壁に貼られた大きなポスター。
金髪ボブの少女が、まるで実在感を超えた輝きで微笑んでいる。
“黒瀬 紗耶のSpecial Live”
「……誰?」
晴は本当にわからなくて、そのまま口にした。
すると美羽の反応は、わかりやすいほど派手だった。
「えええ!? 晴、知らないの?紗耶ちゃんだよ!? 今、一番人気の高校生アイドルだよ!」
「知らん…テレビとか見ないし」
「いやもう~!だから今日連れてきたんだよ!ほら、これ見て!」
美羽はバッグからチケットを取り出す。
それを掲げる仕草は誇らしげで、眩しいくらい嬉しそうだった。
「抽選で当たったの!二枚!……だから、晴と行きたいなって思って」
胸に迫るような言い方に、晴は息が詰まる。
(ああ、こういう誘われ方は反則だって…)
「当たったんなら行くしかないか。せっかくだしな!」
「でしょ!じゃあ行こ!」
美羽が手を引く。
その勢いに任せてついていくと、自然と二人の距離が近くなる。
ライブ会場に入ると、若い男女がひしめき合い、空気が熱を帯びていた。
晴には普段関わりのない世界で、あらゆる光景が目に新しい。
「……なんか、すげぇな」
「ふふ、緊張してる?」
「いや、その…まあ、こういう場所初めて来たから...」
晴が戸惑うと、美羽はくすっと笑いながら袖をつまむ。
「大丈夫だよ。私が案内してあげるから」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。
席に着くと、ステージ中央だけが淡い光に照らされていた。
美羽が目を輝かせながら身を寄せてくる。
「晴、今日の紗耶ちゃんのライブ、スペシャルなんだって!デビュー曲と新曲、どっちもフルで歌うらしい!!」
「へぇ。すごいんだな、その子」
「うん、ほんとにね」
美羽の横顔は期待で満ちていて、その表情を見るだけで晴の心は不思議と落ち着く。
そして突然、場内が暗くなる。
ざわめきが一気に飲み込まれ、次の瞬間には爆発するような歓声が上がった。
「紗耶ーーー!!!」
金髪がライトを反射して輝き、ステージ中央に黒瀬紗耶が現れた。
遠くから見ても圧倒される存在感。
彼女が笑うだけで、空気が明らかに別物に変わる。
(……マジかよ)
歌が始まると、晴は思わず息をのんだ。
透明で、真っ直ぐで、心の奥まで突き刺さる声。
会場全体がその音に飲み込まれ、響き、震える。
隣を見ると、美羽が幸せそうに微笑んでいた。
「すごいな…」
「でしょ?晴にも聴かせたかったんだ!」
晴が夢中になっているのを、美羽は嬉しそうに見ていた。
歌い終えた紗耶が観客に手を振る。
柔らかい笑顔なのに、その奥には強い意志が光っている。
それを見て、晴は人気の理由を直感的に理解した。
ライブが終わり、会場を出ても、美羽の興奮は冷めなかった。
「ねえ晴!今日どうだった?紗耶ちゃんすごかったよね!? ね?ね!?」
「わかったわかった、近い近い」
晴は苦笑しながら答えたが、心の中では同じ気持ちだった。
「まあ…素直にすごいとは思った」
「でしょ~!ああ、ほんと誘ってよかった!」
美羽が跳ねるように喜んだ、その瞬間――
「……あの」
誰かの声が背後から聞こえた。
振り返ると、そこに立っていたのは――
ステージの光をそのまま連れてきたような美少女。
金髪ボブ、青い瞳、自然な明るい肌。
黒瀬紗耶その人だった。
(えっ……本物?こんな近くに?)
少し息を切らしながら、彼女は晴たちを見つめる。
「今日……ライブ、観てくれてましたよね?」
「あ、ああ。初めてだったけど」
「……ありがとうございます」
柔らかく微笑む。
距離が近すぎて、美羽がぴくっと肩を上げ、晴の腕を掴む。
「さっき、ステージから見えて……」
紗耶は晴の顔をじっと見つめる。
「すごく楽しそうに聴いてくれてて。それが、すごく嬉しかったんです!」
美羽の手がぎゅっと強くなる。
「……あの、お名前、聞いてもいいですか?」
紗耶が一歩近づく。
その距離は、息が触れるほど。
美羽の視線が鋭く横から突き刺さる。
(待ってくれ…俺はただ美羽に連れてこられただけなんだが!?)
そして次の瞬間――
「この人は、桐谷晴って言うの。私の、彼氏だから!」
美羽がはっきりと言い放った。
紗耶は驚いたように目を見開いたあと、少し寂しそうに笑った。
「……そうなんですね。今日はありがとうございました!またね、桐谷晴くん!」
胸に手を当てて一礼し、紗耶はすっと人混みの中に消えていく。
残されたのは、美羽と晴だけ。
美羽はぷくっと頬を膨らませ、じとーっと晴を見上げた。
「……晴。紗耶ちゃん、絶対晴のこと気に入ってたよ!!」
「いや、そんなわけ……」
「あるから言ってるの!」
(これから、どうなるんだ俺の高校生活……)
夕方の光が街を包む中、晴と美羽の時間は静かに、でも確実に動き始めていた。
柔らかい陽射しが街全体を淡く包む時間帯で、駅前のロータリーには思った以上に人が多かった。休日のゆったりした空気と、どこか浮き立ったざわめきが混ざり合っている。
晴がそこへ着いた頃には、すれ違う人の会話や足音、車の音までもが妙に鮮明に感じられた。
「ねえ晴、こっちこっち!」
人の流れの向こうで、ひらりと揺れる桜色の髪が目に入る。
美羽が片手を大きく振りながら、弾むようにこちらへ合図を送っていた。
その表情は、いつも以上に明るく、まるで胸の奥に小さな花火でも抱えているかのようだった。
「で、今日はどこ行くんだ?まだ聞いてないんだけど」
晴が歩み寄ると、美羽は待ちきれないといった様子で駆け寄ってくる。
「うふふ、着いてからのお楽しみ~!」
冗談めかした声とともに、美羽は晴の腕を掴んだ。
その仕草は軽いのに、どこか強い意志を秘めているようで、晴は思わず心の中でうなる。
(嫌な予感がする…いや、嫌じゃないけど…なんだろう、この感じ)
二人で並んで歩く。街路樹の影がゆらゆら揺れて、道を行き交う人たちの表情が春風に溶けていく。
しばらく歩いたところで、美羽が唐突に「ここ!だよ」と声をあげて立ち止まった。
「じゃんっ!」
両手を広げるように示したのは、ビルの壁に貼られた大きなポスター。
金髪ボブの少女が、まるで実在感を超えた輝きで微笑んでいる。
“黒瀬 紗耶のSpecial Live”
「……誰?」
晴は本当にわからなくて、そのまま口にした。
すると美羽の反応は、わかりやすいほど派手だった。
「えええ!? 晴、知らないの?紗耶ちゃんだよ!? 今、一番人気の高校生アイドルだよ!」
「知らん…テレビとか見ないし」
「いやもう~!だから今日連れてきたんだよ!ほら、これ見て!」
美羽はバッグからチケットを取り出す。
それを掲げる仕草は誇らしげで、眩しいくらい嬉しそうだった。
「抽選で当たったの!二枚!……だから、晴と行きたいなって思って」
胸に迫るような言い方に、晴は息が詰まる。
(ああ、こういう誘われ方は反則だって…)
「当たったんなら行くしかないか。せっかくだしな!」
「でしょ!じゃあ行こ!」
美羽が手を引く。
その勢いに任せてついていくと、自然と二人の距離が近くなる。
ライブ会場に入ると、若い男女がひしめき合い、空気が熱を帯びていた。
晴には普段関わりのない世界で、あらゆる光景が目に新しい。
「……なんか、すげぇな」
「ふふ、緊張してる?」
「いや、その…まあ、こういう場所初めて来たから...」
晴が戸惑うと、美羽はくすっと笑いながら袖をつまむ。
「大丈夫だよ。私が案内してあげるから」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。
席に着くと、ステージ中央だけが淡い光に照らされていた。
美羽が目を輝かせながら身を寄せてくる。
「晴、今日の紗耶ちゃんのライブ、スペシャルなんだって!デビュー曲と新曲、どっちもフルで歌うらしい!!」
「へぇ。すごいんだな、その子」
「うん、ほんとにね」
美羽の横顔は期待で満ちていて、その表情を見るだけで晴の心は不思議と落ち着く。
そして突然、場内が暗くなる。
ざわめきが一気に飲み込まれ、次の瞬間には爆発するような歓声が上がった。
「紗耶ーーー!!!」
金髪がライトを反射して輝き、ステージ中央に黒瀬紗耶が現れた。
遠くから見ても圧倒される存在感。
彼女が笑うだけで、空気が明らかに別物に変わる。
(……マジかよ)
歌が始まると、晴は思わず息をのんだ。
透明で、真っ直ぐで、心の奥まで突き刺さる声。
会場全体がその音に飲み込まれ、響き、震える。
隣を見ると、美羽が幸せそうに微笑んでいた。
「すごいな…」
「でしょ?晴にも聴かせたかったんだ!」
晴が夢中になっているのを、美羽は嬉しそうに見ていた。
歌い終えた紗耶が観客に手を振る。
柔らかい笑顔なのに、その奥には強い意志が光っている。
それを見て、晴は人気の理由を直感的に理解した。
ライブが終わり、会場を出ても、美羽の興奮は冷めなかった。
「ねえ晴!今日どうだった?紗耶ちゃんすごかったよね!? ね?ね!?」
「わかったわかった、近い近い」
晴は苦笑しながら答えたが、心の中では同じ気持ちだった。
「まあ…素直にすごいとは思った」
「でしょ~!ああ、ほんと誘ってよかった!」
美羽が跳ねるように喜んだ、その瞬間――
「……あの」
誰かの声が背後から聞こえた。
振り返ると、そこに立っていたのは――
ステージの光をそのまま連れてきたような美少女。
金髪ボブ、青い瞳、自然な明るい肌。
黒瀬紗耶その人だった。
(えっ……本物?こんな近くに?)
少し息を切らしながら、彼女は晴たちを見つめる。
「今日……ライブ、観てくれてましたよね?」
「あ、ああ。初めてだったけど」
「……ありがとうございます」
柔らかく微笑む。
距離が近すぎて、美羽がぴくっと肩を上げ、晴の腕を掴む。
「さっき、ステージから見えて……」
紗耶は晴の顔をじっと見つめる。
「すごく楽しそうに聴いてくれてて。それが、すごく嬉しかったんです!」
美羽の手がぎゅっと強くなる。
「……あの、お名前、聞いてもいいですか?」
紗耶が一歩近づく。
その距離は、息が触れるほど。
美羽の視線が鋭く横から突き刺さる。
(待ってくれ…俺はただ美羽に連れてこられただけなんだが!?)
そして次の瞬間――
「この人は、桐谷晴って言うの。私の、彼氏だから!」
美羽がはっきりと言い放った。
紗耶は驚いたように目を見開いたあと、少し寂しそうに笑った。
「……そうなんですね。今日はありがとうございました!またね、桐谷晴くん!」
胸に手を当てて一礼し、紗耶はすっと人混みの中に消えていく。
残されたのは、美羽と晴だけ。
美羽はぷくっと頬を膨らませ、じとーっと晴を見上げた。
「……晴。紗耶ちゃん、絶対晴のこと気に入ってたよ!!」
「いや、そんなわけ……」
「あるから言ってるの!」
(これから、どうなるんだ俺の高校生活……)
夕方の光が街を包む中、晴と美羽の時間は静かに、でも確実に動き始めていた。
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