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序章
1 アレクシス
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物語に出てくる魔女にどんなイメージを抱いているかと問われれば、とにかく賢い生き物だと答えるだろう。万病に効く秘薬から恋の妙薬まで作り出すという、奇跡や魔法に近い御業を成し遂げてしまう存在だ。大抵は老婆の姿で描かれるものだが、中には永遠の美貌をもつ妖艶な魔女も居る。
彼女らは〝人〟と生きる時間の違う不老不死だ。時の制約に縛られた存在ではないからこそ、図抜けた賢さと美しさを兼ね備えているのだ。
しかし、永遠を生きるというのは一体どんな感覚なのだろうか。それは果たして幸福なことなのか――羨望よりも同情が勝る。
魔女は、数えることすら馬鹿らしくなるほど寂寞の思いを経験しているのではないだろうか。
例え愛する〝人〟ができても、魔女は永遠に取り残されてしまう。愛する者と繰り返し死別する苦しみはいかほどのものか――未来永劫続く孤独から逃げ出す術がないなど、哀れで堪らなくなる。
まるで、生涯許されることのない罪を犯した罰のようだ。真実罪人と呼べる存在ならまだしも、その罰をただ〝魔女〟として生を受けたばかりに課されているとすれば――全く酷い話である。
――だから僕は、幸せなお姫様が出てくるお話よりも、寂しい魔女が出てくるお話の方が好きだ。
魔女は僕なんかよりもずっと孤独で、可哀相なところが凄く安心する。人を呪ったり悪い薬をつくったり、悪いことなんて何一つしていない魔女ならもっと良い。
ただそこに居るだけで気味悪がられて責められるような、どんなに役立つ薬がつくれても煙たがられるような魔女。
どんなに頑張っても誰からも愛してもらえない――そんな可哀相な魔女なら、もしかすると。
あまりにも寂しいからおかしくなっちゃって、村の皆に嫌われている僕とも仲良くしてくれるかも知れないでしょう?
「――アル! アレクシス!! 何をボサッとしているのよ、さっさと井戸水を汲んできなさい! 可愛い弟のために何かしようって気はないの!?」
「……はーい、母さん。行ってきまーす」
母さんにどやされて、僕はバケツを手に裸足のまま家の外へ飛び出した。
僕は物語に出てくる王子様でも騎士でもなくて、ただの村に生まれたただの子供だ。たぶん12歳くらいだけど、あまりご飯をもらえずに育ったから、村の他の子たちと比べると細っこいかも知れない。骨と皮って、きっと僕のためにある言葉だ。油でカラッと揚げてせんべいにしたら、いいおつまみになれるんじゃあないかな。
僕はただの子供だけど、村の鼻つまみ者だ。父さんと母さんの子のはずなのに、どうしてか2人に似なかったせいだと思う。
家族は全員黒髪なのに、僕だけ真っ白なんだ――変だよね。いつも帽子を被って隠さなくちゃいけないのは面倒くさいけど、でも隠さなきゃ「気持ち悪い」っていじめられちゃうから仕方がない。
村の人には「変だ」「呪いだ」って嫌われちゃって、父さんたちは僕のことが煙たくて仕方がないみたい。なんだか迷惑をかけちゃって申し訳ない気持ちはあるけれど、でも僕だって好きで白髪に生まれたわけじゃあないしなあ。
どこか遠くへ行こうにも、子供の僕じゃあどこへ行けば良いのかすら分からないよ。
しばらく走ると、村の井戸についた。井戸の周りには洗濯をしている女の人がたくさん居たけれど、僕の姿を見るなり皆どこかへ行っちゃった。
僕に近付いただけでも呪われるって思っているみたいだから、仕方がないね。そんな簡単に呪われちゃうなら、僕の家族は皆白髪になっていると思うけれど――それを信じる子供たちは、僕を見るなり石や泥を投げてくる。
でも僕は、卵を投げられるのが一番嫌いかなあ。食べ物を粗末にするのは凄く嫌だし、怪我はしないけど匂いがつくから。僕はお風呂にもなかなか入れてもらえないしね。
井戸のロープを掴んで、頑張って水を汲み上げる。
ただでさえボロボロの手が縄で擦れて、せっかく止まっていた血がまた出てきた。でも頑張らなくちゃ、弟のジェフリーが熱を出してずっと寝込んでいるんだ。
ジェフリーはもう、1週間は熱が下がらずに苦しそうだ。村には薬師のおばあさんが居るけれど、どうにもできないみたい。
ジェフリーは『魔女の秘薬』でもなければ治せない、酷い病気なんだって。父さんが秘薬のために魔女を探しに行ってから、もう3日が経つ。でも、魔女なんてどこに居るんだろう。
このままじゃあジェフリーが死んじゃう。もしジェフリーが死んじゃったら、きっと呪われた僕のせいだって村中の人に怒られるんだろうな。早く魔女が見つかると良いのに。
たった1人の弟が苦しんでいるんだから、本当はもっと優しいことを考えてあげたい。だけど、気付けばもう痛いとか悲しいとかそういうのは、よく分からなくなっちゃった。でも僕にも怖いものはある。
どうせ僕は大人になれずに死んでしまうと思う。食べられるご飯も少ないし、いつ病気になってもおかしくないし――当たりどころが悪い時には、ただの石でも血が止まらなくなることだってあるし。
このまま死んでしまったら、僕は〝愛〟を知らずに終わってしまう――ただそれだけが怖いんだ。
彼女らは〝人〟と生きる時間の違う不老不死だ。時の制約に縛られた存在ではないからこそ、図抜けた賢さと美しさを兼ね備えているのだ。
しかし、永遠を生きるというのは一体どんな感覚なのだろうか。それは果たして幸福なことなのか――羨望よりも同情が勝る。
魔女は、数えることすら馬鹿らしくなるほど寂寞の思いを経験しているのではないだろうか。
例え愛する〝人〟ができても、魔女は永遠に取り残されてしまう。愛する者と繰り返し死別する苦しみはいかほどのものか――未来永劫続く孤独から逃げ出す術がないなど、哀れで堪らなくなる。
まるで、生涯許されることのない罪を犯した罰のようだ。真実罪人と呼べる存在ならまだしも、その罰をただ〝魔女〟として生を受けたばかりに課されているとすれば――全く酷い話である。
――だから僕は、幸せなお姫様が出てくるお話よりも、寂しい魔女が出てくるお話の方が好きだ。
魔女は僕なんかよりもずっと孤独で、可哀相なところが凄く安心する。人を呪ったり悪い薬をつくったり、悪いことなんて何一つしていない魔女ならもっと良い。
ただそこに居るだけで気味悪がられて責められるような、どんなに役立つ薬がつくれても煙たがられるような魔女。
どんなに頑張っても誰からも愛してもらえない――そんな可哀相な魔女なら、もしかすると。
あまりにも寂しいからおかしくなっちゃって、村の皆に嫌われている僕とも仲良くしてくれるかも知れないでしょう?
「――アル! アレクシス!! 何をボサッとしているのよ、さっさと井戸水を汲んできなさい! 可愛い弟のために何かしようって気はないの!?」
「……はーい、母さん。行ってきまーす」
母さんにどやされて、僕はバケツを手に裸足のまま家の外へ飛び出した。
僕は物語に出てくる王子様でも騎士でもなくて、ただの村に生まれたただの子供だ。たぶん12歳くらいだけど、あまりご飯をもらえずに育ったから、村の他の子たちと比べると細っこいかも知れない。骨と皮って、きっと僕のためにある言葉だ。油でカラッと揚げてせんべいにしたら、いいおつまみになれるんじゃあないかな。
僕はただの子供だけど、村の鼻つまみ者だ。父さんと母さんの子のはずなのに、どうしてか2人に似なかったせいだと思う。
家族は全員黒髪なのに、僕だけ真っ白なんだ――変だよね。いつも帽子を被って隠さなくちゃいけないのは面倒くさいけど、でも隠さなきゃ「気持ち悪い」っていじめられちゃうから仕方がない。
村の人には「変だ」「呪いだ」って嫌われちゃって、父さんたちは僕のことが煙たくて仕方がないみたい。なんだか迷惑をかけちゃって申し訳ない気持ちはあるけれど、でも僕だって好きで白髪に生まれたわけじゃあないしなあ。
どこか遠くへ行こうにも、子供の僕じゃあどこへ行けば良いのかすら分からないよ。
しばらく走ると、村の井戸についた。井戸の周りには洗濯をしている女の人がたくさん居たけれど、僕の姿を見るなり皆どこかへ行っちゃった。
僕に近付いただけでも呪われるって思っているみたいだから、仕方がないね。そんな簡単に呪われちゃうなら、僕の家族は皆白髪になっていると思うけれど――それを信じる子供たちは、僕を見るなり石や泥を投げてくる。
でも僕は、卵を投げられるのが一番嫌いかなあ。食べ物を粗末にするのは凄く嫌だし、怪我はしないけど匂いがつくから。僕はお風呂にもなかなか入れてもらえないしね。
井戸のロープを掴んで、頑張って水を汲み上げる。
ただでさえボロボロの手が縄で擦れて、せっかく止まっていた血がまた出てきた。でも頑張らなくちゃ、弟のジェフリーが熱を出してずっと寝込んでいるんだ。
ジェフリーはもう、1週間は熱が下がらずに苦しそうだ。村には薬師のおばあさんが居るけれど、どうにもできないみたい。
ジェフリーは『魔女の秘薬』でもなければ治せない、酷い病気なんだって。父さんが秘薬のために魔女を探しに行ってから、もう3日が経つ。でも、魔女なんてどこに居るんだろう。
このままじゃあジェフリーが死んじゃう。もしジェフリーが死んじゃったら、きっと呪われた僕のせいだって村中の人に怒られるんだろうな。早く魔女が見つかると良いのに。
たった1人の弟が苦しんでいるんだから、本当はもっと優しいことを考えてあげたい。だけど、気付けばもう痛いとか悲しいとかそういうのは、よく分からなくなっちゃった。でも僕にも怖いものはある。
どうせ僕は大人になれずに死んでしまうと思う。食べられるご飯も少ないし、いつ病気になってもおかしくないし――当たりどころが悪い時には、ただの石でも血が止まらなくなることだってあるし。
このまま死んでしまったら、僕は〝愛〟を知らずに終わってしまう――ただそれだけが怖いんだ。
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