魔女が不老不死だなんて誰が言い出したんですか?

卯月ましろ@低浮上

文字の大きさ
63 / 90
第6章 共に生きるには

8 街医者

しおりを挟む
 ――街って、本当にすごいところだ。石の道は広いはずなのに、狭く感じるぐらい大勢の人が歩いている。
 女の人に男の人。大人に子供、お爺さんお婆さん。首輪に長い紐を付けられて歩いている犬も何度か見た。

 黒髪の人、茶髪の人、銀杏みたいに黄色い髪の人、赤や紫っぽい髪の人も居る。たまに白髪の人も居ると思ったら、やっぱりお爺さんお婆さんばかりだった。ただ、白髪は白髪でも、もっとキラキラしている銀色っぽい髪をした人も何人か居た。
 ああいう人たちは生まれつきじゃなくて、特殊な薬を使って染めたり、元の黒色を抜いたりしている事が多いんだって。
 お洒落ってヤツで――レンファは美容師だったから、髪染めもやったことがあるらしいよ。

 レンファは別に、あの森や家の陣から一歩も離れられない訳じゃない。ただ〝ゴミクズ〟を陣に入れるには、あの家に住むのが一番手っ取り早いっていうだけだ。
 子供の間は〝魔女〟として森の奥に隠れて暮らして、大人になってからは賑やかな場所に住んだこともあるんだってさ。でも結局は魔女の家に戻って、ゴミクズを陣に入れないといけない。
 そういう人生を何度も繰り返していたら段々面倒くさくなって、ある時から森で自給自足するようになったらしい。

「別に、何も怖くなかったでしょう? 街中を歩いていても、おかしいって指差される訳でもないし」

 セラス母さんにニット帽の上から頭を撫でられて、頷いた。
 僕らはお医者が居るところまでやって来て、お爺さんセンセイに目を調べてもらった。お医者の住む建物は、真っ白に塗られた石の家だ。その中の壁も真っ白で、なんだかすっごく綺麗なところだった。

 中に火のついたロウソクが入っている訳でもないのに、光が出る不思議な棒――ライトっていうらしい――を目に翳したり、黄色い水を目に差したあと、小さなものを大きくするための〝レンズ〟っていうので覗かれたりした。
 でも、僕には何を調べているのかさっぱり分からなかった。

 あと、注射っていうすごく細い針を腕に刺して血を抜かれちゃった。体の悪いところを調べるためには仕方ないって言われたけど、なんだか命を吸われたみたいで少し悲しかったな。
 今ゴードンさんがお医者の説明を聞きに行ってくれていて、僕はセラス母さんとレンファに両脇から挟まれるように、待合所ってところの長椅子に座っている。

 同じ待合には、親子やお年寄りが多い。僕がキョロキョロふらふらするのが危なっかしいからって、レンファが左手を握ってくれていたんだけど――さっき近くの椅子に座ってるお婆さんに「可愛いねえ」って言われて、照れくさかったなあ。
 でも僕らって可愛いんだ、嬉しい。

 本当に色んな人が居るから、僕の白髪もあまり目立たない。街中を歩いたって通り過ぎ様にチラッと見られるぐらい。例え僕の赤い目とパチッと視線が交わっても「気持ち悪い」とか「近寄るな」とか言われないのが、すごく不思議だ。
 やっぱり、呪われているのは僕じゃなくて、カウベリー村の方だったんだと思う。

 村で過ごしていた時のことは、セラス母さんから「あ~あ、人生を無駄にしちゃったな~ぐらいに考えなさい」って言われたことがある。「恨むのは自由だけど、復讐心に囚われてこれ以上アレクの人生を費やすことはない」って。

 確かに、僕ってば12年も人生を無駄にしちゃっている。
 これから何年生きられるか誰にも分からないのに、これ以上カウベリー村のことを考えるなんて、すごくもったいない。そんなことを考える暇があるなら、僕はレンファと結婚する方法を考えるよ!

「セラス。アレクって、保険証つくってあるんですか」
「……そんなものある訳ないじゃない、まだ戸籍だって移してないわよ――って言うか戸籍、あるのかしら……?」
「つまり、今回の診療費は全額負担なんですね。実質〝捨て子〟なんですから、早い内に養子縁組しておいた方が良いのでは? 今後も通院することになるかも知れませんよ」
「それは、そうなんだけど……でもほら、私って無職じゃない? 無収入の状態で養子なんて、許可が下りるとは思えないのよね――」

 セラス母さんは言いながら、自分の膝の上に両肘をついた。そのままちょっと前屈みになって、困り顔で頬杖をつく。
 すると、僕の左側に座っているレンファが大きなため息を吐いた。

「じゃあ、番人なんて言って遊んでいないで、街で職探しをすべきでは?」
「レンが心配だったんだもの……いや、嘘。まだ両親も生きているし、妹のアレコレで険悪になった人たちと、顔を合わせたくなくて逃げただけね」
「素直なことは良い事ですが、そんなので今日の診療費はどうするんです?」
「……ゴードンが」
「この先の診療費は」
「それも、ゴードンが」
「……セラス。あなた死ぬまでゴードンを金ヅルにして弄ぶつもりですか? 結婚して責任を果たすでもなく?」
「………………だって」

 気付けばセラス母さんはしょんぼり沈み込んでいて、僕はなんだか落ち着かない気持ちになった。だからレンファと母さんの間に体を捻じ込んで、じっとりしたキツネ目に「ダメだよ」って笑いかける。
 でもレンファは首を横に振って、「あのですね」って僕の顔を見上げた。

「これは、君にも関わりがある問題ですよ。今後もずっとゴードンの世話になり続けるなら、それ相応の返礼をすべきです。ただ一方的に贈与されて、それを当然のように享受するのは最低だと思います」
「う、うん……すごく難しくてよく分からないけれど、とにかくゾーヨされたキョージュの僕が悪いんだね?」
「一番悪いのはセラスです。ここは物々交換の村とは違いますから、病院にかかるたびにお金が必要なんです。でも森で悠々自適に暮らしている君たちには、先立つものがありません。セラスが害獣駆除で受け取る謝礼なんて、微々たるものでしょう? そもそも狩り自体滅多にしませんし」
「うん……」
「これから何度も病院へ通うことになったとして、君はゴードンに何を返せるんですか? まさか、子供の君がお礼できるなんて――ゴードンの欲しいものをなんでも与えられるなんて、自惚うぬぼれている訳ではないでしょうね」
「ゴードンさんは商人だから、お金もモノもたくさん持っているもんね」

 僕が腕組みして悩むと、レンファは「そうです」って頷いた。
 ゴードンさんが欲しいもの。それが何かは分からないけれど――でもたぶん、一番欲しいものは決まっているんだろうな。だから毎日色んな商品を運んできて、お金も受け取らずにセラス母さんにあげちゃうんだ。

「うーん……つまり、ゴードンさんにセラス母さんをあげるしかないってこと……?」
「ちょっと、アレク……!?」
「人をモノ扱いするのはどうかと思いますが、私が言いたいのはそういうことです。人から好意を受け取ったなら、それなりの誠意を見せるべきです。そして何も返すつもりがないなら、早々に見切りをつけるべきです。そもそも、年貢の納め時はとうに過ぎているんですから」
「ネング! よく分からないけど、確かに約束の時間は守るべきだね……!」

 分からないなりに一生懸命レンファの話を聞いていると、右側から「アレクに変なことばかり教えないで! あと、自分は散々アレクに冷たくするくせに、何が誠意よ! 説得力なさすぎじゃない!?」なんて声が聞こえてくる。

 ――そのすぐあと、たまたま通りがかったお医者のお姉さんから「すみません、院内ではお静かにお願いしま~す」ってニコニコ注意されて、母さんは項垂れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

処理中です...