魔女が不老不死だなんて誰が言い出したんですか?

卯月ましろ@低浮上

文字の大きさ
72 / 90
第7章 アレクシスと魔女

7 魔男修行?

しおりを挟む
 レンファは、昼前になってようやく起きてきた。彼女は椅子に座ってぼんやりしながら、ミルクとサツマイモの入ったスープをズズズとすすっている。
 その後ろに立つ母さんが、寝ぐせ付きのふわふわした髪の毛にブラシを通していて――なんだか、これじゃどっちが年上なのか、どっちが元美容師なのか分からないな。

 でもまあ、レンファはもうウチの子らしいからね。こういう姿の方が自然なのかも?
 しばらくの間は妹か。僕は早く結婚したいのに、ちょっと残念だ。
 セラス母さんが言うには「結婚したいなら、まず18歳になりなさい」だってさ。
 今だいたい12歳だと思うから……あと6年? いや、でもあっという間に春が来るから、あと5年ぐらいだね。

 実は僕、自分の誕生日がいつなのか分かっていないんだ。
 前にチラッと村の人が話しているのを聞いたら「冬生まれだから全身が真っ白なんだ」みたいなことを言っていたような――だからたぶん、これから誕生日を迎えるはず。
 だいたい12歳っていうのも、前の母さんに「10歳にもなってまだ満足に薪割りすらできないの?」って叱られたことがあって、そこから2回は冬を越したから、たぶん12歳。

 ちなみに、セラス母さんは夏生まれなんだって。元気いっぱいでハキハキしているから、なんだからしいと思った。
 ゴードン父さんは秋生まれみたいだけど、僕がこの森へ来る少し前に誕生日が終わっていたんだ。だから僕はお祝いできなかったけど、母さんと父さんは2人でお祝いして、美味しいものを食べたんだって。ずるい。

 レンファは――正直、聞かなくても分かった。名前が春のお花だからね、春生まれだ。だけどソレは、レンファの話。
 今のレンファが入っている体は――って言うと、なんだか変だけど、僕と同じ冬生まれらしい。
 いっそ、レンファと同じ日を僕の誕生日にしちゃおうかな? でも同じにすると、迷惑そうな顔をされるかも。

「アレク」

 いつの間にか、レンファはしゃっきりした顔に変わっていた。僕は名前を呼ばれただけで嬉しくなって、笑って首を傾げた。

「14時か15時にはゴードンがやって来ます。そうしたら、また皆で街へ行きましょうか。いい加減目薬の追加を受け取らないと」
「ああ……そうだね、行こうか」
「時間まで、私は森で薬の材料を探しますけど――」
「僕も行くよ。根っこを掘り返すの、楽しいし」

 レンファは小さく肩を竦めて「さすがウサギくん、本当に穴を掘るのが好きですね」って呟いた。
 セラス母さんがニヤニヤしながら「お兄ちゃんと仲良くしなさいよ」って言えば――大きなキツネ目が半分になって、口もへの字になる。可愛いなあ。

「お兄ちゃんの言うことは絶対だよ! 分かったら、僕と結婚するんだ!」
「アレク、その台詞……関係性が変わったせいで、なんだか以前にも増して気持ち悪いですよ」
「うん!」
「うんじゃなくて――」

 レンファはまだ何か文句を言っていたけど、僕は森へ入る準備をするために外の物置へ向かった。
 スコップと雑巾と、あとカゴ! 根っこを途中で切らずにキレイな形のまま掘り返すのは、すごく楽しいんだ。
 母さんと父さんから「化石の発掘が向いてそう」って言われるほど、僕は仕事が丁寧らしいよ! 化石がどんな石なのか、ひとつも知らないけどね。


 ◆


 葉が枯れ落ちて枝だけになったせいで、鬱蒼としていた森にも太陽の光が差し込むようになった。
 それでもまだジメッと、しっとりしているけど、葉で覆い隠されていた頃と比べたらマシかな。

 僕は、レンファに指差された地面の周りを目掛けてスコップをザクザク刺していった。そうして周りから少しずつ土を崩して、草花の根っこを掘り返すんだ。
 ずっとスコップを使っているとどうしても根を傷付けやすいから、途中で雑巾を使いながら、手で優しく掘る。

 太い根っこからヒゲみたいにヒョロヒョロ長く伸びた根、それ全部キレイに掘り返せた時の達成感と言ったらないよ!
 レンファは「そこまで完璧にこだわる必要はありません、適当に掘れば良いんです」って言うけど――全く、分かってないなあ。
 僕はキレイな根が欲しいんじゃなくて、キレイに掘り出せたっていう〝体験〟が欲しいんだ。楽しいからね。

 そうして根っこ掘りに夢中になっていると、隣で「早くしてください」って急かしていたレンファが、いつの間にか静かになっていることに気付いた。
 横目で見ると、さっきまでしゃっきりしていたのに、またボーッと眠たそうにしている。

「……眠い?」

 掘りながら聞けば、レンファは僕をチラッと見た後に小さく頷いた。

「母さんが言ってた、たぶんレンファは成長期だって。寝る子は育つらしいよ」
「……私のコレは、少し違うかも知れません」
「そうなの? じゃあ、やっぱり冬眠だね――あ、採れた! はい、根っこ」

 10センチくらいの長さの太い根には、びっしりと細いヒゲが生えている。軽く振って泥を落としてから、カゴの中に入れる。
 時間に余裕があれば小川の水をバケツに汲んで、丁寧に洗ったんだけど――今日はあまり時間がないから、家で処理することになった。
 根っこは全部で5本採れた。レンファは眠たそうだし、これから街だし、そろそろ帰らなきゃ。
 本当は手を繋ぎたいけど、泥で汚れているから我慢する。

「――初めてなんです」
「うん? 何が?」
「こんなにも起きていられないのは、初めてで」
「そうなんだ……冬生まれなのに、冬に弱いのかな」
「たぶん、冬だけじゃないんです。これから冬が明けて、暖かくなっても――どんどん活動時間が減っていきそうな気がして、なんだか――」
「……そっか」

 言葉を途中で切ったレンファの顔は、すごく頼りない感じがした。僕はどうしてか、〝魔女の家〟だったガレキの山を思い浮かべる。
 もしかしたら、レンファのは――もう動き始めているのかも知れない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

処理中です...