生残の秀吉

Dr. CUTE

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思惑

八十四.決意の秀吉

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小一郎こいちろう秀勝ひでかつ輝政てるまさ、それにおねも若干じゃっかんではあるものの、いちかたとの面識がある故に、その動揺どうよう尋常じんじょうではない。

秀吉ひでよし「わしも耳を疑ったわぃ。おいちさまくらいの御人ごじんなら、徳川殿とくがわどのとの縁談の方がよほどえぇ話のはずじゃがが、おいちさまは三日もたんうちに、なんと権六ごんろくを選びおったぁ。ほんに女子おなごの心は分からんわぃ・・・。」

おね「あのお美しいおいちさまと権六ごんろくさまが夫婦めおとだなんてぇ・・・、ちょっ、ちょっと想像がつきませんわぁ。浅井あざいから戻って十年もっても、おいちさまのそばには長政様ながまささまのような凛々りりしい御人ごじんの姿しか思い浮かべませんものぉ・・・。」

秀吉ひでよし権六ごんろくもえらい云われようじゃのぉ・・・。」

官兵衛かんべえ「おそらくおいちかたさまは信孝様のぶたかさまに、徳川とくがわとの縁談に乗ったら筑前殿ちくぜんどの術中じゅっちゅうにはまるとでも吹き込まれたのであろう。それにしても筑前殿ちくぜんどの御二人おふたりにはあきれるほど嫌われたもんよのぉ。」

小一郎こいちろう「ちょっ、ちょっと待てぇ・・・。となると、権六殿ごんろくどの織田おだの姓を名乗ることになるんかぁ。」

官兵衛かんべえ「いずれそうなるであろうなぁ。領は筑前殿ちくぜんどのが半分以上を治めることとなったが、織田おだよしみを結んだ修理亮殿しゅりのすけどの筆頭家老ひっとうがろうとしてとどき、筑前殿ちくぜんどの織田おだ家を乗っ取る野望を阻止そししたつもりなんじゃろう・・・。」

秀吉ひでよし「そんなこつちぃとも考えちょらんのにぃ、勝手にそぉ思いこまれてものぉ・・・。」

愚痴ぐちこぼ秀吉ひでよしに、小一郎こいちろうが核心を問う。

小一郎こいちろうあにさぁっ、いくさになるんかぁ。」

秀吉ひでよし「あぁっ、もぉ引き返せんとこまで来ちょるようじゃ。清洲きよすにてよぉ分かったぁ。三七殿さんしちどのはわしだけでのぉて、三介殿さんすけどのも追い落とそうとしちょる。そんこつを佐久間さくま兄弟にきつけられちょる。そんな三七殿さんしちどの権六ごんろく親父おやじは制することもせず、ただただ最期まで付き従うこつを覚悟しちょる。もうわしにはどうもでけん。いくさは避けれん。」

小一郎こいちろう「でっ、いくさはいつじゃ。」

秀吉ひでよしあせるなっ、今すぐではねぇ・・・。」

おねが咄嗟とっさに割って入る。

おね「ここからは女子おなごらぬ方が良いようですねぇ・・・。母上ははうえ安土あづちへ移る支度したくを始めましょう。」

なか「まぁったくぅっ、男はいくさが好きじゃのぉ・・・。」

おねは毒をくなかとともに静かに立ち上がり、厨房ちゅうぼうへ向かう。秀吉ひでよしはすまんと両手を合わせながら見送ると、話を続ける。

秀吉ひでよし「ふぅっ・・・。いくさはすぐではねぇ。今は皆の休息きゅうけいが必要じゃし、そんよりなによりも、いくさの前にやるこつが多い。次んいくさ織田おだわかいくさじゃ。一旦始めちゃら、ささと終わらなあかん。ぐずぐずやっちょると外の奴らが調子に乗ってまうっ。」

輝政てるまさ「先の仇討あだうちと同じですなぁ。」

秀吉ひでよし「そんための支度したくが必要じゃ。いくさが長引くことで喜ぶやからが現れんようにのぉ・・・。」

秀勝ひでかつ「どこから手を付けられますかぁ。」

秀吉ひでよし「外を固めるこつからじゃ。まずは藤孝殿ふじたかどの丹後たんごを平らげてもらい、あの心変わりの早い一色いっしきどもの脅威きょういくす。わしから藤孝殿ふじたかどのに暗に申し伝えるが、秀勝殿ひでかつどのっ、輝政殿てるまさどのっ、藤孝殿ふじたかどのの要請があれば加勢かせいしてやってくれぇ。」

秀勝ひでかつ長岡殿ながおかどのは動きましょうかぁ。」

秀吉ひでよし藤孝殿ふじたかどのは先の評定ひょうじょう長岡ながおかがどう取り上げられたか、気になって仕方がないはずっ。武功ぶこうを立てれば悪いようにはならんと伝えれば、喜んで兵を動かすじゃろう。」

秀勝ひでかつ「なるほどぉっ、納得いたしました。毛利もうりはどうされます・・・。」

秀吉ひでよし官兵衛かんべえっ、どうせ備前びぜん備中びっちゅう美作みまさかではまた毛利方もうりがた国衆くにしゅうが暴れとるんじゃろぉ。違うかぁっ・・・。」

官兵衛かんべえ「あぁっ、そのようじゃなぁ。」

秀吉ひでよしつぶさにあんあたりの仔細しさいを調べてわしにしらせてくんろ。そん上で安国寺あんこくじ坊主ぼうずを呼び出して、和睦わぼくの話を進める。」

官兵衛かんべえ「またあの坊主ぼうず手球てだまに取るのかぁ・・・。おもしろいっ、承知しょうちつかまつった。」

小一郎こいちろう毛利もうり和睦わぼくって・・・、大殿おおとのの意に反するのでねぇか。」

秀吉ひでよし「仕方ねぇ。西に対して毛利もうり長宗我部ちょうそかべの両方を相手にするこつはでけん。勝三郎かつさぶろう筒井殿つついどのと連携して四国勢しこくぜい紀州きしゅうを海と内から牽制けんせいする・・・。上杉うえすぎは朝廷を通じておとなしゅうしてもらって、視線を北条ほうじょうに向けさせる。徳川とくがわ信雄殿のぶかつどの仲良なかよぉなってもらう。真田さなだ南信濃みなみしなのが手に入りさえすればおのずと黙っとるじゃろう。」

官兵衛かんべえ一向宗いっこうしゅう比叡山ひえいざんの動向も探っておこう。大殿おおとのなくなったのを喜ぶやからもおるじゃろうしなぁ。」

小一郎こいちろう「わしは何をすりゃぁえぇ・・・。」

秀吉ひでよしさかいへ行って武器と兵糧ひょうろう目処めどを立ててくんろ。そんでわしがいくさ支度したくをしちょるとうわさを流せぇ。ただし相手は毛利もうりじゃぁ。」

小一郎こいちろう毛利もうりとは和睦わぼくするんじゃねぇのかぁ。」

秀吉ひでよし「もちろん『うそうわさ』じゃ。三七殿さんしちどの権六ごんろくに当分わしとのいくさはねぇと油断ゆだんさせる。そんうちに奴らは何か仕掛けてくるっ・・・。そこをわしらはつけ込むっ・・・。」

官兵衛かんべえ信孝殿のぶたかどのらの仕掛けを逆に謀反むほんに仕立てるわけじゃな。」

小一郎こいちろういくさの相手を毛利もうりと見せかけるんなら船も用意せんといかんのぉ。」

秀吉ひでよし「あぁっ。じゃが程々ほどほどにしちょけよなぁ。あのあたりの船大工ふなだいくらは三七殿さんしちどの四国攻しこくぜめの支度したく無理強むりじいさせられちょる。彼奴あやつらを怒らせんよぉに手懐てなづけぇよぉ・・・。それと小一郎こいちろうっ、さかい千宗易殿せんそうえきどのを探し出せぇ。長益殿ながますどのに訊いたんじゃが、あの御人ごじん方々ほうぼうの要人とする商人あきんどとか茶人ちゃじんとかをたばねちょるらしい。わしらの味方になってもろうたら、大助おおだすかりかも知れん。」

小一郎こいちろう「分かったぁ。見つけたらしらせるぅ。」

秀吉ひでよし「わしはこれよりみやこに入り、面倒臭めんどうくせぇが公家くげどもと親睦しんぼくを深める。時折ときおり河内かわちにも足を運んで三好みよし後始末あとしまつをする。他にも寄りたいところがあるっ・・・。まぁとにかくやらなあかんこつは多い。えぇかぁっ、三七殿さんしちどのらとの一戦までは財と味方を増やすこつに専念してくんろっ。余計なめごつは法度はっとじゃぞぃ・・・。」
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