79 / 129
第四章 社畜と女子高生と青春ラブコメディ
18.社畜と女子高生と室戸岬
しおりを挟む「理瀬さんや、そろそろ離れてくれませんかね」
「……」
薬王寺の『地獄』へ入ったあと、完全にへそを曲げてしまった理瀬は、外に出ても俺の腕にしがみついて離れなかった。もう怖がってはいないようだが、むすっとしている。
「いや、ほんとに怖がらせるつもりはなかったんだ。お前が暗所恐怖症なのは完全に忘れてた」
「……私の怖いことくらい、覚えておいてくださいよ」
どうやら理瀬の怒りポイントはそこらしい。何の配慮もなかった俺に抗議しているのだ。
「もう怖くないだろ。あんまりベタベタしてたら怪しい仲だと思われちゃうだろ。俺たち、きょうだいにしては歳が離れすぎてるし、親子にしては近すぎるんだから」
「じゃあ、カップルと思われればいいですよ」
「いや、それは無理ありすぎだろ」
「……やっぱり離してあげませんよ」
譲りたくないところは徹底して譲らない理瀬の性格が発揮されているらしく、俺の腕に巻きついて離れようとしない。コートで着ぶくれしているから、ほぼコートの感触しか伝わらないのが救いだ。胸の感触があったら危なかった。理瀬の胸が小さくて助かった。
「……今、ものすごく失礼なこと考えてませんか?」
「えっ、いや、何も考えてないよ」
やばい。ちょっとの間黙っていたら、思考を理瀬に悟られた。
女の子の機嫌をとる時は、まず甘いものを与えるべきだと決まっている。参道で数件やっている露店にりんご飴があったので、買ってやることにした。
「りんご飴、食べてみたいだろ?」
「……」
理瀬はまだムスッとしていたが、りんご飴を食べたくない女子高生など存在しない。お祭りなどへ行くことのない理瀬は、不機嫌を演じながらも明らかにりんご飴に興味を示している。まだ食べたことがないなら、なおさら食べたいだろう。
俺はりんご飴を一本買い、理瀬に渡した。表面がべたつくりんご飴を俺と密着しながら食うのは不可能なので、やっと理瀬は俺の腕を開放してくれた。
「ずるいですよ」
「大人だからなあ」
「たこ焼きも食べたいですよ」
「はいよ」
ちょうどお昼時で、俺も小腹が空いていた。露店の食べ物は値段が高いが、理瀬の機嫌が治るならこれ以上のことはない。俺たちは外のベンチに座り、たこ焼きを一緒につついた。
「ふはっ」
焼き立てで熱々だったので、理瀬が口に入れてからはふっ、はふっと焦る。
「はは。ちょっとずつ食えばいいのに」
「先に言ってくださいよ」
理瀬がペットボトルのお茶を飲みながら、俺に抗議する。
熱々のたこ焼きをまるごと口に入れたら、中のとろっとした熱い生地が噴出してきて舌をやけどする。常識だと思っていたが、よく考えたら東京にいるときは徳島にいた時ほどたこ焼きを食わなかった。たまに食っても微妙な味だった。徳島は関西が近いから、本場大阪に近いたこ焼きが普及していて、出店でも美味い。東京に出なければ気づかなかったことだ。
小休止を済ませた俺たちは、再び車で南を目指した。
** *
日和佐を過ぎ、南阿波サンラインという海沿いの道路を走った。国道より遠回りなのだが、海を望む景色がよく、理瀬に見せたかった。ただ坂とカーブがきついので、理瀬はりんご飴を落とさないようにするので必死だった。
南阿波サンラインを抜け、牟岐町を過ぎたあたりからほとんど建物がなくなり、海と道路だけの道が続く。高知県に入り、東洋町にあるコンビニで一度トイレ休憩をとった。ここから先は一時間くらいコンビニも何もないからだ。
りんご飴を食べおわった理瀬は、海の景色をずっと眺めていた。あまりに遠く単調な道なので、だんだん話すこともなくなってきた。精神を限界まで疲労させながらなにもない場所へ向かう、という点では中学生の頃の自転車旅行と同じだ。話さなくなったところを見るに、理瀬も疲れはじめただろう。俺の気持ちがわかってくれただろうか。
そんなこんなで室戸岬に到着。駐車場に車を止め、海へ向かって二人で歩く。
「これは……本当に何もないですよ」
「言ったとおりだろ」
ドヤ顔で返事をする俺。理瀬は「いや、そんなこと自慢されても困りますよ」とでも言うように首をかしげる。
室戸岬の先端は岩場になっていて、半分くらいの岩が海につかっている。磯場のようなものだ。
特にすることもないので、俺は岩づたいにジャンプして海へ進んだ。
「ちょっと、危ないですよ」
「大丈夫だよこのくらい。濡れてるところは滑るから、そこだけ注意すればいい」
「転んだら怪我しますよ」
「怖いのか? そこで待っててもいいぞ」
俺がそう言うと、理瀬はむすっとして岩に登った。子供扱いされるのが一番嫌なのだ。
ジャンプで通れる道を探し、理瀬がちゃんと後ろからついてきているのを確認してから、ずんずんと海の方向へ進む。理瀬は運動が特別苦手というわけではないので、コツを掴んだらあとは難なくついてきた。
そのうち高さ数メートルある巨大な岩にたどり着いた。足場がよかったので、俺は頂上まで登った。これは流石に理瀬にはきついかと思ったが、足をかけるところが広かったので、最後までついてきた。
「やるじゃん」
「はあ、はあ……」
息を切らしながら、理瀬は俺の腕に巻き付いてきた。『地獄』へ入った時と同じだ。
「高いところも怖いのか? お前の家より全然低いぞ」
「息が切れてきたので、ふらふらしたら危ないからですよ」
あまり俺の体に接近させたくないのだが、たしかに自分でもやりすぎた、と思うほど危険なところまで来てしまったので、しばらくそのままにしておいた。
「海は綺麗だなあ」
高い岩からは、太平洋の海がよく見えた。豊洲のタワーマンションから見る東京湾と違って、太平洋の海はどこを見ても地平線しか見えない。広く、深く、飲み込まれそうになる。
理瀬も、じっと広い海を見つめていた。何を考えているのかはわからないが、その瞬間だけは隣にいる俺のことは何も考えていないようだった。
「来てよかっただろ」
「はい。沖縄で見た海とは全然違いますよ」
「あれはあれで綺麗だったけど。俺が知ってる海っていうのは、こういうもんだ。見てるだけで、気分が晴れるだろ?」
「気持ちはなんとなくわかりますよ」
ずっと海を見ていたい気分だったが、海上ということもあり冷えてきたので、さっさと降りることにした。登るより降りる方が危険なので、俺が先に降りたあと、理瀬が安全に降りられるよう足のかけ方を一箇所ずつ教えた。
陸地に戻り、俺達は車を停めたところへ戻った。
「さて、帰るか」
「えっ、これで終わりですか」
「他にすることあるか?」
「特にないですけど……」
「さんざん体力使って無駄なことをする。若い時ってそういうもんだろ」
「多分、それは男子だからですよ」
「そうかなあ」
「あの、さっき車の中で調べたら、ここの山の上に灯台とお寺があるみたいなんですけど、せっかく来たので行ってみましょうよ」
「えっ、そうなの?」
「知らなかったんですか? そっちの方が景色いいみたいですよ」
知らなかった。
とにかく遠いところに行ってみたい、という気持ちだけで来たから、室戸岬に到達しただけで俺は満足していた。
わざわざ遠いところへ来たから気になるものは全部見ていこう、という理瀬の冷静さとスマートさに感心しながら、俺は車に乗り込んだ。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる