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6.ライブにて
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珈琲が冷め始めた頃、やっと涙が落ちついた。
それを見計らって、祥太朗さんがまた新しい珈琲を淹れ直してくれる。
私好みの少しだけ甘い珈琲を一口啜って、ふうとついたため息と同時に涙の理由を説明した。
「夢を見たんです、あの人の」
「有栖川、さんの?」
「はい」
たった一度だけ長野に来てくれた彼の夢、あれはまだ九月の終りだっただろうか?
本当につい最近だった気がするのに、もう遠い昔のようだ。
「吉野さんは、まだ彼のこと」
下唇を噛んだまま顔をあげたら「そうだよね」って頷いてくれた。
「彼に会えたら、どうしたい?」
「え?」
どうしたいか……。
「わかりません、わからないけれど。まずは無事を確認したいです」
「は!?」
「だって、急に連絡が取れなくなったんです。もしかしたら事故にあったのかもしれない、病気になったのかもしれない。そうじゃなくて、事情があって本当にお金が必要で、どこから悪いところから借りていたりして、そのせいで、とか……。まずは、元気でいて欲しいんです」
私の話を黙って聞いてくれていた祥太朗さんが、困ったように笑う。
「お人よしすぎだよ、問答無用で捕まえて俺だったら殴り飛ばしちゃうかも。今までどこに行ってた? その間、自分がどんな目にあったか考えたことがあるのか、って」
まるで私の代わりに怒ってくれているような祥太朗さんの声が嬉しくて微笑んだ。
「お金のことは、事情を聴いてから考えます。だけど、それ以外では、私ひどい目にあったなんて思ってません」
「なん、で!?」
「だって、もし私があの日、公園で寝泊まりしなかったら、祥太朗さんに拾われたりすることがなかったんです。そうしたら、美咲さんや桃ちゃんや洸太朗くんや勇気さんや、それにマスターとも出会うことがなかったかもしれないんです。私、この家にいられて本当に幸せなんです。だから、その点では麗夜さんに感謝かもしれません」
「もし、さ?」
「はい」
「もしも、彼が今、お金も返す、吉野さんともやり直したい、なんて言って来たら、どうする?」
ドクンと胸が大きく鳴り響く。
そんなことはない、きっと。
だけど、私はその時、どうしたらいいんだろう?
もう一度麗夜さんの手を取ってもいいのだろうか?
「吉野さんは、優しいからすぐに許してしまいそうで心配。一緒にこの一か月暮らしてきたし、君をここに連れて来たのも俺だから。家族の一員として、必ず相談してほしいんだ。一人で決めてしまわないで?」
ついこの間、私から差し出したはずの小指を今度は祥太朗さんに差し出される。
家族の一員として、その言葉の温かさにまた涙が零れそうになるのを我慢して、小指を絡める。
「吉野さんみたいな人は誰よりも幸せになってもいいと思う」
「全く同じこと、祥太朗さんに対して思ってますけれど」
やっぱりどこか似ているようで祥太朗さんといると気持ちが落ち着く。
こんな風に相談しあえる人はなかなかいないと思う。
「え? 風ちゃん?」
ついさっき、合流した時のマスターと同じような反応を勇気さんもしている。
出かけ間際、ジーンズと長袖Tシャツにいつものブルゾンを着てリビングに降りたら、桃ちゃんと美咲さんに拉致られた。
「はい、全部脱いで。で、コレ着て、コレ履いて?」
「え? え?」
有無を言わさず着ている物を脱がされて、グレーのレギンスに、膝丈の白いTシャツワンピに着替えさせられてダボッとした茶色のニットカーデガンを与えられた。
その後で鏡の前に座らせられて、髪をセットされてメイクまで施された。
時間にしてニ十分も経ってないのに、あっという間に出来上がり。
「んん、最高のでき、桃ちゃん腕上げたな」
「ありがと、美咲ちゃん。やっぱ、風花ちゃん、色白いからこういうの似合うんだよねえ。ああ、可愛い」
桃ちゃんには、ギュッと鏡越しにバックハグされて。
美咲さんもまた鏡越しに嬉しそうに笑っいる。
二人に囲まれてリビングに戻ると。
「あ、風花さん、めっちゃ可愛いじゃん」
洸太朗くんの声に祥太朗さんも顔をあげて私を見て、なにか言いたげに口を開く。
「可愛いと思うでしょ? 祥太朗も」
「あ、うん……、似合ってる」
照れくさそうに俯いた祥太朗さんに釣られて私も照れてしまう。
多分耳まで真っ赤だと思う。
その後、電車に乗るために待ち合わせた駅で、マスターも「え? 風花さん?」と驚いた後で。
「普段、パンツ姿ばっかりだからビックリ。でも、そういうのも似合ってて可愛いと思うよ」
あまりにも慣れない褒め言葉の連続に、段々クラクラしてきたというのにだ。
締めくくりはライブハウス前で待っていた勇気さんだ。
「やっば、俺の嫁、今日も可愛い」
その瞬間、「は!?」という複数の声と共に。
美咲さんから勇気さんへの腹グウパンチがさく裂した。
「誰が、コンビニバイトの嫁になんかさせるか。とりあえず、デビューでもしておいで、そうでなきゃ家の大事な妹はやれないからね」
「ひい、美咲の基準が厳しすぎる。バイト二倍に増やすからダメ?」
「ダーメ!」
「本人がいいって言ったらいいよね? ねえ、風ちゃん」
「えっと」
私が言いよどんだ瞬間、マスターが間に立ちはだかる。
「うちの店員が不幸せになるのを見てらんないので、俺も阻止するわ」
「ちょ、涼真まで」
「つうか、吉野さんが不幸になるのは全員阻止するに決まってる」
祥太朗さんまで笑いながらそう突っ込むから、何だか皆笑い出した。
それを見計らって、祥太朗さんがまた新しい珈琲を淹れ直してくれる。
私好みの少しだけ甘い珈琲を一口啜って、ふうとついたため息と同時に涙の理由を説明した。
「夢を見たんです、あの人の」
「有栖川、さんの?」
「はい」
たった一度だけ長野に来てくれた彼の夢、あれはまだ九月の終りだっただろうか?
本当につい最近だった気がするのに、もう遠い昔のようだ。
「吉野さんは、まだ彼のこと」
下唇を噛んだまま顔をあげたら「そうだよね」って頷いてくれた。
「彼に会えたら、どうしたい?」
「え?」
どうしたいか……。
「わかりません、わからないけれど。まずは無事を確認したいです」
「は!?」
「だって、急に連絡が取れなくなったんです。もしかしたら事故にあったのかもしれない、病気になったのかもしれない。そうじゃなくて、事情があって本当にお金が必要で、どこから悪いところから借りていたりして、そのせいで、とか……。まずは、元気でいて欲しいんです」
私の話を黙って聞いてくれていた祥太朗さんが、困ったように笑う。
「お人よしすぎだよ、問答無用で捕まえて俺だったら殴り飛ばしちゃうかも。今までどこに行ってた? その間、自分がどんな目にあったか考えたことがあるのか、って」
まるで私の代わりに怒ってくれているような祥太朗さんの声が嬉しくて微笑んだ。
「お金のことは、事情を聴いてから考えます。だけど、それ以外では、私ひどい目にあったなんて思ってません」
「なん、で!?」
「だって、もし私があの日、公園で寝泊まりしなかったら、祥太朗さんに拾われたりすることがなかったんです。そうしたら、美咲さんや桃ちゃんや洸太朗くんや勇気さんや、それにマスターとも出会うことがなかったかもしれないんです。私、この家にいられて本当に幸せなんです。だから、その点では麗夜さんに感謝かもしれません」
「もし、さ?」
「はい」
「もしも、彼が今、お金も返す、吉野さんともやり直したい、なんて言って来たら、どうする?」
ドクンと胸が大きく鳴り響く。
そんなことはない、きっと。
だけど、私はその時、どうしたらいいんだろう?
もう一度麗夜さんの手を取ってもいいのだろうか?
「吉野さんは、優しいからすぐに許してしまいそうで心配。一緒にこの一か月暮らしてきたし、君をここに連れて来たのも俺だから。家族の一員として、必ず相談してほしいんだ。一人で決めてしまわないで?」
ついこの間、私から差し出したはずの小指を今度は祥太朗さんに差し出される。
家族の一員として、その言葉の温かさにまた涙が零れそうになるのを我慢して、小指を絡める。
「吉野さんみたいな人は誰よりも幸せになってもいいと思う」
「全く同じこと、祥太朗さんに対して思ってますけれど」
やっぱりどこか似ているようで祥太朗さんといると気持ちが落ち着く。
こんな風に相談しあえる人はなかなかいないと思う。
「え? 風ちゃん?」
ついさっき、合流した時のマスターと同じような反応を勇気さんもしている。
出かけ間際、ジーンズと長袖Tシャツにいつものブルゾンを着てリビングに降りたら、桃ちゃんと美咲さんに拉致られた。
「はい、全部脱いで。で、コレ着て、コレ履いて?」
「え? え?」
有無を言わさず着ている物を脱がされて、グレーのレギンスに、膝丈の白いTシャツワンピに着替えさせられてダボッとした茶色のニットカーデガンを与えられた。
その後で鏡の前に座らせられて、髪をセットされてメイクまで施された。
時間にしてニ十分も経ってないのに、あっという間に出来上がり。
「んん、最高のでき、桃ちゃん腕上げたな」
「ありがと、美咲ちゃん。やっぱ、風花ちゃん、色白いからこういうの似合うんだよねえ。ああ、可愛い」
桃ちゃんには、ギュッと鏡越しにバックハグされて。
美咲さんもまた鏡越しに嬉しそうに笑っいる。
二人に囲まれてリビングに戻ると。
「あ、風花さん、めっちゃ可愛いじゃん」
洸太朗くんの声に祥太朗さんも顔をあげて私を見て、なにか言いたげに口を開く。
「可愛いと思うでしょ? 祥太朗も」
「あ、うん……、似合ってる」
照れくさそうに俯いた祥太朗さんに釣られて私も照れてしまう。
多分耳まで真っ赤だと思う。
その後、電車に乗るために待ち合わせた駅で、マスターも「え? 風花さん?」と驚いた後で。
「普段、パンツ姿ばっかりだからビックリ。でも、そういうのも似合ってて可愛いと思うよ」
あまりにも慣れない褒め言葉の連続に、段々クラクラしてきたというのにだ。
締めくくりはライブハウス前で待っていた勇気さんだ。
「やっば、俺の嫁、今日も可愛い」
その瞬間、「は!?」という複数の声と共に。
美咲さんから勇気さんへの腹グウパンチがさく裂した。
「誰が、コンビニバイトの嫁になんかさせるか。とりあえず、デビューでもしておいで、そうでなきゃ家の大事な妹はやれないからね」
「ひい、美咲の基準が厳しすぎる。バイト二倍に増やすからダメ?」
「ダーメ!」
「本人がいいって言ったらいいよね? ねえ、風ちゃん」
「えっと」
私が言いよどんだ瞬間、マスターが間に立ちはだかる。
「うちの店員が不幸せになるのを見てらんないので、俺も阻止するわ」
「ちょ、涼真まで」
「つうか、吉野さんが不幸になるのは全員阻止するに決まってる」
祥太朗さんまで笑いながらそう突っ込むから、何だか皆笑い出した。
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