今宵、月あかりの下で

東 里胡

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8.メリークリスマス

8-3

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「メリークリスマス、カンパーイ」

 勇気さんの陽気な声に皆グラスを掲げる。
 テーブルの上に並んだパーティメニューは、お店で出すものではなくて、今日のためにマスターと二人で考えたものだ。


「なにこれ?」
 勇気さんが口にした疑問は、美咲さんと洸太朗くん以外全員思ってただろう。

「この割りばしには順番が書かれています。で、皆でせーので一本引くの。一番の人から順に全員からプレゼントがもらえるってわけ」
「ジャンケンで良くない?」
「だから祥太朗は面白くないの。こういうパーティには、割りばしくじですらアイテムなわけよ。これぐらい楽しむって余裕がないと、来年も彼女できないクンになるよ」

 あ、マズイ、祥太朗さんが死んだような目をしている……。

「だ、大丈夫です。祥太朗さんに彼女ができるようにって私初詣で祈ってきますんで」

 祥太朗さんにだけ聞こえるように呟いた励ましは、マスターにも聞こえていたようで笑いをかみ殺しながら。

「祥太朗、良かったな、風花さんに感謝しろよ」

 ポンポンと背中を叩くマスターを祥太朗さんがキッと睨んでいた。

「あ、一番俺だ!!」

 洸太朗くんが、ニコニコしている。

「ねえ、洸太朗、あんたイカサマしてないわよね」
「ちょ、姉ちゃん、するわけないってば、言いがかりがひどい」

 二番のわりばしを握りしめた美咲さんが、口を尖らせている。
 三番は勇気さん、四番は私、五番に祥太朗さん、六番マスター、七番に桃ちゃん。

「じゃあ、まずは洸太朗に! メリークリスマス」

 一斉にガサゴソと洸太朗くん用のプレゼントを用意して手渡していくと、洸太朗くんの腕の中に六つのプレゼントが溢れそうになってる。

「どうする? 俺から開けてく? それとも全員配り終えて?」
「「全員配り終えてから!!」」

 桃ちゃんと美咲さんの息ピッタリな返答に皆吹き出しながら。

「じゃあ、次は美咲ちゃんにメリークリスマス」
「勇気に」
「風花ちゃんに」
「祥太朗に」
「涼真に」
「桃ちゃんに、メリークリスマス」

 私の手の中にも届いた六つのプレゼント。
 六つもだなんて、どうしよう、嬉しい!!
 しばらく感動に浸っていたいけれど、ハッと周りを見たらもうそれぞれがラッピングをほどいて中を確認していることに気づいて慌てて自分も開けだした。
 この私と同じラッピング柄はマスターだ。
 開けたらまさかのホーローマグカップ。
 あれ!? とマスターを見たら、同じように私を見ていてホーローマグカップを手に爆笑している。
 私が送ったのは青いマグカップで、マスターからはマスタード色のをもらった。
 ふと桃ちゃんの手元をみたらピンク色のマグカップ、美咲さんのところには赤、洸太朗くんのところにはグリーン、勇気さんにはイエロー、祥太朗さんには黒のマグカップが。
 マスターは榛名家全員に色違いのマグカップを買ってくれたのだけれど、自分にも色違いのマグカップが届いたことに大うけしていたのだった。
 次に開いたのは、美咲さんからの布製巾着のもの。
 コトンとその中に手を入れたら小さな箱。

「風花ちゃん、お揃いじゃない?」
 
 ほらね、と見せてくれた桃ちゃんの手には銀色の猫の指輪。
 私のは、桃ちゃんの猫とは逆向きのシルエットになっている指輪。

「尻尾の部分を二つ合わせるとハートになるの」

 美咲さんのニヤリとした顔に指にはめて桃ちゃんの猫ちゃんと尻尾をくっつけたらハートになる。

「大事にします」
「私もっ!」

 ねえ、と二人で頷き合った。

 女子全員にパックを送ってくれたのは勇気さんだ。
 ちょっと高そうなそのコスメに美咲さんと桃ちゃんが大喜び。

「ちゃんと風ちゃんも使ってよね」
「はい、部屋で大事に」
「絶対使ってよ、いつまでも大事にとっておいたら腐るよ?」
「ひゃ、す、すぐ使います!!」

 意気込んだら笑われた。
 次に開いたのは洸太朗くんからのプレゼント。

「温かそう」

 思わず口に出して、それを手にはめる。

「それねえ、全員お揃いなの。俺も自分用に買ったから、俺もお揃い」

 ノルディック柄の温かそうな色違い手袋、私のは白。

「洸太朗と涼真くんはお揃いにしとけばいいと思ったわね? その人のために選べって言ったのに」

 手袋をはめて、マグカップを持った美咲さんが怒ったような口調なのに、なんだかとっても嬉しそう。

「これ風花ちゃんのよね? 可愛い、明日から使う、会社に持ってく! あ、明日会社だ」

 途端に声のトーンを落とす美咲さんと。

「洸ちゃんのハンドクリーム借りて、でネイルオイル塗ったら私最強だわ! ついでに勇ちゃんの加湿器も欲しいかな」
「桃ちゃん、どんだけ欲張りよ! せっかく風ちゃんからの愛で喉を潤そうってのに」

 そんな中、不思議そうに丸い球を持つ人がいる。
 
「あ、あの、それ私ので」
「うん、知ってる。吉野さんに俺があげたの見た?」
「いえ、これからです」

 開けてみての視線に、一番重たかった箱を開けてみたら。

「これって……」

 黄金色の月が中に入ったオルゴール、中が光るようになっている。
 まるでお揃いみたいなものを互いに選んでしまったようで恥ずかしくて。

「吉野さん、何が好きなんだろう? って考えてたら、なぜか」
「私、もです。祥太朗さんのだけわからなくて」

 困ったねと苦笑いしながら。

「でも、私、月好きなんです、だから嬉しいです」
「良かった。あ、俺も好きだよ。そういえば吉野さんと初めて会った時も月夜だったような」
「ですね、三日月でした」

 二ヶ月近く前のことを互いに思い返しながら、祥太朗さんの頬にエクボが浮かでいることに嬉しくなる。

「つうか、涼真と風ちゃんって二人で買い物行った?」
「「え!?」」
「だってラッピング一緒だし」

 勇気さんの指摘に、マスターと顔を合わせた。
 そういえば、マスターと会ったこと言ってなかったような。
 
「あの」
「偶然会ったからデートしただけだよね、風花さん」
「え!? え? あれ?」
「ええっ、涼真くんと風花ちゃん付き合ってんの!?」
「冗談です」

 マスターの受け答えにビックリしたり、ホッとしたり振り回されているようだ。
 マスターがいつもより饒舌なのは、多分お酒を飲んでいるからだ。
 私と桃ちゃんだけがジュースのつもりだった、けど。

「ダメだぞお、風花ちゃんは祥ちゃんの嫁にするんだからね? 私とは正真正銘の姉妹になってもらうんだからね」

 マスターから私を隠すように前に立ちはだかる桃ちゃん。
 ん? 桃ちゃん?

「ねえ、桃?」

 どうも桃ちゃんの呂律が回っていないことに洸太朗くんも気づいたみたいで、その赤く染まった頬に手を伸ばしたらトロンとした目で。

「洸ちゃんの手、冷たくて好き」

 猫みたいに目を細めて甘えるように笑う。
 何かがおかしい、何だか変だ。
 笑ってたかと思った次の瞬間、今度はポロポロ泣き出したから皆どうしようかと顔を見合わせていると。

「私さー、普通のお家で育ったの。なんなら、ちょっといいとこのお嬢様として。でも、こーんな楽しいクリスマスパーティーは生まれて初めて、やば。楽しすぎて目からワイン出てくる。榛名家万歳、皆大好き。洸ちゃん愛してる」
「ちょ、桃!? お酒飲んだ?」

 洸太朗くんが慌てて桃ちゃんの背中をさする。

「やめてよう、私がお酒弱いみたいじゃん」
「みたいじゃなくて弱いんでしょ」

 まだ二十歳の桃ちゃんは、誕生日を迎えた日初めてのお酒を飲んで悪酔いして以来アルコールは飲まないと決めていたらしい。

「また来年もパーティーしようね、初詣しようね、バレンタインデーしようね、お花見しようね、夏はキャンプしようね」
「キャンプはちょっと」

 美咲さんがそう言いかけると、また泣き出しそうな顔をしたから。

「桃ちゃんの誕生日はまた盛大にお祝いしましょうね」

 慌てて、そう付け足したら桃ちゃんは、やったーやったーとその場で跳ね捲った後、突然に。

「洸ちゃん、なんだかきぼぢがわどぅい」

 その瞬間、洸太朗くんは桃ちゃんを脇に抱えるようにしてトイレに走っていった。

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